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連載小説・海のなか

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とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。
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2023年7月の記事一覧

小説・「海のなか」(43)

小説・「海のなか」(43)

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 境内に誰もいないことを悟った時の心情をどう言い表せばいいだろう。虚しかったわけじゃない。悲しかったわけじゃない。ただ、心底がっかりしていた。今日も当然のように夕凪がそこにいると無根拠に信じていた自分自身に。
 俺たちには約束がない。確信もない。すべて分かっていて、それでも毎晩通うと決めたはずなのに。いつの間に期待していたんだろう。夕凪が現れてから、あの場を立ち去るまでの記憶は曖昧だった

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