【妄想99%】 城福監督のアイデアを読み解く
はじめに
このnoteでは、『城福監督のアイデア』『城福監督のチームづくり』『理想と現実の違い』『僕がアシスタントになったら』『ウェールズから広島の皆さんへ』の5本だてでお送りします。よろしくお願いします。
第一章 城福監督のアイデア
さて、まずは城福監督のアイデア、つまり「我々らしさ」について考えていこうと思います。すべて、城福監督が語っているものです。
ムービングフットボールだろ?と思ってましたが、あくまでそれは「攻撃」という局面におけるテーマの1つであることがわかりました。
彼の理想のサッカーを表す言葉は、「守備が堅い、攻撃的なフットボール」になります。彼の口から語っています。
ん?ってなる気持ちもわかります。ですが、もう少しわかりやすく説明してくれています。
という趣旨の話をしています。つまり「数字だけ見ていると、失点数の少なさから『堅守のチーム』と思われる。だが、実際のプレー内容は『攻撃的』な内容である。」そんなチームを目指しています。
では次に、実際のプレー内容はどのようなものを理想としているのか、について書いていこうと思います。
一言で表すと、「ラインを保って、高い位置でボールを奪い、サイドでフットボール」と言えます。
つまり、「相手を押し込む→サイドを起点に深い位置を取りに行く→ボールを失ってもサイドに追い込み奪い返す→ゴールを奪う」というのが理想的な展開になります。
イメージしていただけたでしょうか。さてここからは、彼の語っていることを勝手に4局面(攻撃、ネガティブトランジション、守備、ポジティブトランジション)に分類し、ゲームモデル化していこうと思います。
【攻撃】
攻撃は、ボールを前に運ぶ『ビルドアップ』と、ゴールを目指す『フィニッシュ』の2段回に分けられます。
『ビルドアップ』
彼がビルドアップについて語っていることはあまり多くありませんが、いくつかキーワードらしいものがあるので、紹介します。
まず、『引き込んで剥がす』です。「剥がす」というのはラインを越えるプレーを指します(例の2016年の記事より)。つまり、相手を引きつけ、ラインを越えていこうというプレーを意識していると思われます。
これは、いわゆる「ドリブルで引き付けてフリーマンへパス」というポジショナルプレー的なプレーというより、チームでの意識のような気がします。
つまり、相手がプレスに来るのなら、ライン間のスペースが空くからそこへ「剥がしていこう」というものだと思います。
その一方で、『裏と足元のバランス』という言葉も口にしています。これの意味するところは、相手がプレスに来てライン間にもスペースが見つけられないならば、背後を狙おう、さらになんでも裏を狙うのではなく、剥がしてライン間へボールを届けよう、というところだと思います。
これらが、主に自陣深くからのビルドアップに関するキーワードです。
また、興味深いことに、「どういうケースで、どういうエリアで、ビルドアップするか」という言葉も口にしています。それがどういうケースで、どういうエリアかはわかりませんが、何か基準があるということを示唆しています。
ゾーン2、つまり中盤でのビルドアップのキーワードは、『相手を広げる』になります。
フィニッシュにもつながりますが、基本的な狙いはサイドでのフットボールになります。なので、そのためのサイドチェンジを意図したものだと考えられます。
また、「サイドに展開することで、最終的に中央が空く」という言葉も口にしていて、サイドで相手を引っ張り出すことで、中央のゴール前が空き、そこへクロスを上げるというのが狙いになります。
『フィニッシュ』
ここからは、いかにしてゴールを狙うか、そして『ムービングフットボール』や『前線でのモビリティ』について考えてみましょう。
この2つのキーワードは、互いに独立したものではなく、『ムービングフットボール』を実現するための『前線のモビリティ』だと考えています。
まずは、『前線のモビリティ』についてみていきます。なぜなら、『前線のモビリティ』が発揮されたものが『ムービングフットボール』になるからです。
単刀直入にいうと、前線のモビリティとは「背後に抜ける動き」を指します。その目的として、『相手を能動的に剥がす』というキーワードが挙げられます。
なので簡単にいうと、裏に抜ける動きを繰り返し、相手を動かして崩そう、というのが『ムービングフットボール』と言えます。
また、ここでのポイントとして、「1人の裏への動きに対して、違う動きをする選手に対してボールを預ける」という風に語っています。
逆に、「1人目の動きに焦ってボールを預けすぎてしまった」とコメントしている試合もあります。
ここで登場するキーワードが『やり直し』です。焦って1人目の裏に抜ける選手に出すのではなく、大きなサイドチェンジなど攻撃をやり直す中で、相手を揺さぶり穴を見つけていく、というスタイルを目指しています。
違う言葉では、「自分たちがいかに相手にとって厳しいところに入っていけるか、そこに拘りたいが、そのタイミングは1つではない、というサッカーがしたい」と語っています。
まとめると、「いろんな選手が背後を狙っていく動きをする中で、サイドチェンジなどでやり直しながら、相手の穴を突くタイミングを伺う」というサッカーが『ムービングフットボール』と言えそうです。
ここで、「どこでそれをやるの?」という話になります。
それが、『サイドでのフットボール』です。
また、よく『目指すスペース』という言葉を見聞きすると思いますが、そのスペースとは「サイドの深い位置」になると思います。
監督自身も「中に拘らず、サイドでフットボールし、深い位置まで入っていくことで最終的に中が空く」と話しています。
これに関しては、ビルドアップの『相手を広げる』というところで書いた通りです。
また、この『サイドでのフットボール』は次のトランジションに大きな影響を与えています。
【ネガティブトランジション】
これは、攻撃から守備への切り替えを意味しています。長いので以下NTとします。
このNTに関しては、監督のアイデアの中で最も重要なところになります。なぜなら、敵陣でプレーできるか、自陣への撤退を迫られるか、の分かれ目になっているからです。
ここでのキーワードは『奪われた瞬間のプレス』と『サイドに追い込む』の2つです。
『奪われた瞬間のプレス』はわかりやすいと思います。ボールを失った瞬間にラインを下げるのではなく、前に出て、ボールを奪いにいこうというものです。これが成功すると、敵陣でのプレーが続き、攻撃の時間を長くすることができます。
また、どのようにプレッシャーをかけるか、の基準として『サイドに追い込む』というものがあります。
これが、『サイドでのフットボール』からつながってくるところですが、サイドでの攻撃を軸とすることで、ボールを失う場所もサイドである確率が上がります。ボールを失うのがサイドであれば、NTで素早くプレーを切り替えられると、すでにサイドに追い込んだ状態からプレスをかけることができます。
これが、『サイドでのフットボール』が重要な理由です。
攻撃〜NTをまとめると、「サイドでのフットボールを軸にすることで、ボールを失う場所もサイドになり、素早い切り替えによってサイドで追い込んでボールを奪い返す」というのが理想的な流れになります。
【守備】
守備も、ボールを奪うための『プレッシング』と、ゴールを守る『撤退守備』の2つがあります。
『プレッシング』
「いかに前から奪えるか」と語っているように、なるべく高い位置で奪うのが目的です。
そのためのキーワードとして『前線からの規制』『ラインを上げる、ステイする』『コンパクト』が挙げられます。
『コンパクト』とは何か、であったり、その重要性は広く知られていると思います。では、いかにしてコンパクトにするのでしょうか。
そのためには、『ラインを上げる、ステイする』ことが大切になります。ラインを高くすることで、前線との距離が近くなり、コンパクトな陣形になります。
しかし、ただラインを上げるだけだと、背後へボールを送られるリスクがあります。そのために必要なのが『前線からの規制』になります。
前線の選手が正しいタイミングでプレッシャーをかけ、ボールホルダーに対して圧力をかけることで、ラインを上げ、高い位置でステイでき、コンパクトにすることができます。そして「全体が同機することでボールの出所が分かり、ボランチのところでボールを刈り取れる」と語っています。
また、一発目のプレスで交わされてしまい。中盤でブロックを敷くことになることもあります。そうなったときは『構えてから、もう一度スイッチを入れる』ことが必要になります。
「構えっぱなしで相手のミス待ちではなく、構えた後にもう一度スイッチを入れる。ただし、ボールを取れなかったらもう一度戻って仕切り直す。お互いがカバーし合う連続性が必要。」と話しています。
『撤退守備』
プレスが突破され、相手に押し込まれると、ボールを奪うどころではなく、ゴールを守る守備に移行します。
ここでのキーワードは『1v1のカバーリング』『ゴール前の集結』『バイタルを閉じる』が挙げられます。
『1v1のカバーリング』は、サイドで1v1になったところで、誰がカバーリングに行くのか、そしてどこに戻るのか、ということです。
そして、『ゴール前の集結』は、BOX内での守備の時、体を50cm寄せたり、シュートブロックに行けるところまでずれたりと、最後のシュートに対する守備の大切さを表しています。『ゴール前に鍵をかける』という表現も使われたりしますが、誰がボールにいき、誰が絞るのかというところまで、こだわる必要がある局面です。
ですが、あくまでそこまでやられないことが理想なので、『バイタルを閉じる』ということを意識しながら、マイボールにします。
【ポジティブトランジション】
これは、守備から攻撃への切り替えの局面です。カウンターみたいなものです。長いので、PTとします。
高い位置で奪えたのであれば、ゴールを目指したり、ポゼッションし直したりすることができますが、大切なのは、撤退守備の局面からどうやってチームの陣形を押し上げていくか、です。
キーワードは『1,2本でかいくぐる』『クリアをパスにする』です。
押し込まれているところでボールを奪うと、どうしても一発のロングボールで背後を狙いたくなります。ですが、しっかり1、2本のパスをつないで相手のプレスを外していくことが大切になります。
同様に、クリアで逃げたいところも、しっかりパスにして味方に届けることで、陣地を回復し、攻撃に移ることができます。
特に、相手陣地でのサッカーを目指す上では、非常に大切な局面です。
いかがでしたでしょうか。これが、彼のコメントから読み解く「理想のサッカー」そしてゲームモデルになります。主原則などあやふやなので、ゲームモデルとは言えるような代物ではありませんが、広島、城福監督の目指しているところをイメージしていただければ、嬉しいです。
「え、そうは見えないけど」と心の中で突っ込みながら読んでくださった方、第三章でしっかり現状分析をしています。
第二章 城福監督のチームづくり
まず、この3年間の軌跡を振り返ってみます。
城福監督が就任した2017シーズン終了後、次の2018シーズンまでのプレシーズン期間は4週間で、Jリーグ最短でした。プレシーズンの場所、宿泊地の確保はかなり前から行われていて、これはヨンソン監督のプランだったそうです。
そして、就任して最初に掲げたのは「ムービングフットボール」、彼のアイデアの根幹をなす部分です。
ですが、現状のチームは勝ち点1差で残留を決めた程度のチームで、さらに序盤戦は2節、3節の浦和、鹿島のアウェーを筆頭に昨季の上位チームがずらりと並び、厳しいスタートが予想されていました。
また、広島というクラブが4バックをプレシーズンから始めるのは実に10数年ぶりです。
このような状況が重なり、プレシーズン期間は「守備」のトレーニング、特に後一歩の寄せの部分など、細かいところに気を配ったトレーニングが行われていたそうです。
そしてシーズン開幕後は、15連戦という状況の中、「ムービングフットボール」を目指した「攻撃」のトレーニングを増やしていきました。
のちに、「非常にベーシックなもの。それも、高いレベルのベーシック」と語っているように、1年目のトレーニングは、降格争いのチームを中位に持っていくためのプロセスだったように思います。
ですが、思いの外勝ち点が積み上がり、終盤の連敗でいいイメージで終えられなかったシーズンとなってしまいました。
昨シーズン、3-4-3の中でのスタートになりましたが、3節のセレッソ戦で「このシステムの中での最大値を探っている」と語ったように、システムの変更の影響は少なからずあったと思います。
その中で、コメントの中身もだんだん「攻撃」に比重を置いたものが多くなってきました。
そして今シーズン、「ショートカウンター」を掲げてチームを作っています。
ここまでの流れは、彼のアイデアと合致していると思います。
まず、「守備が堅い」を実現するために、初年度のプレシーズンから守備へのこだわりを見せ、攻撃的なサッカーを目指した昨シーズン、そして「高い位置で奪い返す」を実現するための今季のショートカウンター…
ですが、1つ抜け落ちているのが、どうやって「押し込むか」の部分です。これに関しては次の章で分析しています。
もう一つ、城福監督の特徴で、長い連勝からの長い連敗があります。これは甲府時代も経験しているのですが、これには明確な理由があると考えています。
彼は、「自分たちのサッカー」へのこだわりを強くみせ、対戦相手の情報を制限しています。このメリットは、目指すところまでブレずに進んでいくことができることですが、デメリットは対策されたら難しい、というところです。
目指すところまで最短で行けるので、当然チームの力は上がり、勝ち星を重ねられるのですが、上位に行くと対策される側に回って負け始める、という流れになっています。
これが、僕の予想する彼の指導のスタイルになります。次の章では、「自分たちの理想のサッカー」と「現実のサッカー」の違いを見ていこうと思います。
第三章 理想と現実の違い
ここからは、非常にデリケートな話になります。
なぜなら、そもそも試合をどう捉えているかがバラバラなサッカーファンの方に向けて、ほぼ妄想の内容と現実を照らし合わせながら、清水戦以降フルマッチをみれていない男が、プロの監督を批評するという内容だからです。
いつも通り、それ相応の責任を持って言葉を選び、客観視できるように努めます。よろしくお願いします。
また、客観性を保つため、いくつかデータを使用しますが、その選択も僕の判断なので、100%の客観性は保証できません。また、データはすべて「football LAB」から採用させていただいています。
ここからは、第一章で書いた城福監督の理想のサッカーの流れである「相手を押し込む→サイドを起点に深い位置を取りに行く→ボールを失ってもサイドに追い込み奪い返す→ゴールを奪う」に沿って、みていこうと思います。
①相手を押し込む
一番わかりやすいデータはこれでしょう。
確かに、敵陣サイドでのプレー割合が高くなっているので、押し込めてると思うかも知れません。僕も思いました。
ですが、これはプレーエリアであり、ボール保持時のデータだと思われます。
なので、ボール非保持時にどの高さで守備をしていたかがわからないので、これだけを根拠に、試合中ずっとサイドで押し込めているとは断言できません。
なので、そのほかのデータからも考えてみます。
まずは、ありきたりですがポゼッション率から見ていきます。
これは、広島戦における各チームのポゼッション率と、それぞれのチームの今季の平均ポゼッション率になります。
これらの比較から分かることは、「広島戦で、相手が普段よりボールを持てたか否か」です。
広島が勝利した8試合において、直近の鳥栖戦以外は対戦相手が普段以上にボールを持っています。
逆に、広島にいつもよりボールを持たれたチームのうち、のべ7チーム中5チームが広島に勝利しています。(東京戦、直近の鳥栖戦以外)
ここから、広島はボールを持っていない方が勝率が高く、むしろ対戦相手は広島に持たせると勝率が上がる、という仮説を立てることができます。
ですが、相手からボールを普段より取り上げた上で勝利した試合は直近の鳥栖戦のみ(それでもポゼッション率はちょうど50%)で、広島の支配率が5割を越えて勝利したのも湘南戦のみなのは事実です。
次のデータは、クロス数とクリア数の比較です。押し込まれているチームほど、クロスを上げられたり、クリア数が増えるのではないかという考えで調べました。
左2本の方が多ければ、広島が多くのクロスをあげ、相手のクリア数が増えている、ということです。つまり、広島が押し込めているということです。
中央の2本が両チームのクリア数の比較、外側の2本(青と黄)がクロス数の比較になります。
左側の2本がより高くなっている試合と、相手のポゼッションが低めになっている試合は関連がありそうな感じがしますね。
実際、これは補強程度のデータなので、気にせず次にいきましょう。
これらから分かることは、相手にボールをもたれている試合に比べ、ポゼッションが高く、またクロスも多く上げれている試合における勝率が低いということです。
もちろん、勝っている試合では終盤にブロックを固めて逃げ切る、という手を取っているのかもしれませんが、「押し返して相手陣地でのサッカーの時間を長くしたい」と語っていて、勝っている試合でも引いて守るのではなく、ボールを取り上げられるようになりたいはずなので、この点は改善点であると言えます。
そして、自陣からラインを押し上げ、相手を押し込むには2つのやり方があり、どちらも大切です。
まず、マイボールからの始まりで、後ろから繋いでいくやり方です。
今季の広島は、ビルドアップからの失点が3つある割には、後ろからショートパスでつないで、というシーンが少ないように感じます。
相手のプレスに対し、リスクを負わずに長いボールを多用する場面が多く、相手がプレスをかけることができる時間帯ではなかなか敵陣に到達できていないシーンが多いと思います。
もう一度このデータを見ていただきたいのですが、自陣でのボール保持が明らかに少ないことがわかります。
GKを含めたビルドアップで相手のプレスを打開しようとするチームであれば、もう少し自陣のプレー割合が増えるはずです。
もう1つが、守備の局面でのラインアップです。
一度押し込まれると、なかなかラインを上げることができず、相手に持たれ続ける時間が多くなります。また、ブロック全体が押し込まれると、たとえボールを奪えてもボールを捨てるようなシーンが多くなります。
なので、相手のバックパスに合わせてラインを上げていくような守備ができるといいなと思ったりします。
ですが、人を捕まえることを意識しているDFラインは揃っていないことが多く、ラインコントロールが消極的になっています。
まとめると、相手からボールを取り上げての勝利率は高くなく、また自陣から押し上げていくプレー(ビルドアップ、ラインアップ)が少ないため、城福監督のサッカーの根幹である「相手を押し込む」ことができている試合は少ないことがわかります。
②サイドを起点に深い位置をとりにいく
また、このデータです。見てわかる通り、確かにサイドを起点にできているものの、あまり深い位置でのプレーができていないことがわかります。なぜでしょう。
サイドの仕組みが昨季と少し勝手が違っているのが1つの理由だと思います。
柏が軸として君臨し、佐々木と稲垣、そして森島が関わりながら効果的な崩しを左サイドで見せていた昨シーズンから、稲垣の移籍、柏のドリブル突破の威力低下などにより、なかなか今季は左でのチャンスを作り出せません。
また、右は右でハイネルが掴み所がないまま、茶島や東などがWBを務めるなどまだまだ定まりきりません。
そして今季、まだサイドをえぐってからのゴールはありません。相手にも対応され始める中、なかなかサイドを崩してのゴールチャンスを作ることができていません。
特に気になるのは、サイドのCBの攻撃参加、ドリブル突破、クロスの精度の3つです。
特に中断明け後、サイドのCBの攻撃参加、オーバーラップでWBを追い越していくようなプレーが見られず、サイドで詰まる場面が多かったような気がします。
また、柏のようにドリブルで1人抜き去れる選手がいれば、局面を打開することができるのですが、ドリブラータイプの選手がいないので、サイドのCBやボランチなどで数的な優位性を作らないと突破できませんでした。
さらに、サイドを突破できた後のクロスの精度も気になります。精度だけでなく、中で合わせる選手も同じエリアに入ってくるような場面も多く、えぐってからのクロスでのゴールにつながりませんでした。
③ボールを奪い返す
即時奪回というより、ハイプレス、守備について書いていきます。
まず、こちらのデータをご覧ください。
上のデータは回数、下のデータは割合になっています。また、30m侵入というのは、自陣手前30mのエリアまで侵入された、つまりプレスを突破され押し込まれたということです。
リーグ平均での30m侵入回数は43回、PA侵入回数は13回、シュートは13回です。また1回の攻撃あたりの30m侵入率は38%、30m侵入1回あたりPA侵入率は30%、シュート率は30%になります。
自陣30mのエリアまで侵入された回数がリーグ平均を上回るのは12試合、割合になると11試合になります。それぞれ19試合中63%、58%にあたります。
つまり、平均的なチームに比べて、高い位置で奪えず押し込まれていた試合が6割程度あるということになります。
高い位置で押し込みたいチームにとって、これはよくないデータだと思われます。
一方、PAに侵入された回数がリーグ平均を超えるのは6試合、割合でも6試合です。19試合中32%になります。50%を超えないので、リーグの中では低い数字でしょう。
つまり、押し込まれた後、PAに侵入される回数、割合は比較的少ないことがわかります。
ですが、被シュートは、回数では10回、割合でも10試合になります。19試合中53%になり、わずかに5割を超えます。崩しきれずのミドルシュートが多いと予想できます。
その中でリーグ4位タイの1試合平均1.2失点に抑えているのは、2018年からの積み上げである『堅守』のおかげでしょう。
ですが大事なのは、自陣30mまで運ばれる回数、割合がリーグ平均よりも多い試合が6割あるという事実でしょう。
シーズン開幕前に「ショートカウンター」を謳っていたチームとしては、よくない出来だと思います。
④ゴールを奪う
リーグ5位タイの1試合平均1.6ゴールです。ちなみに、リーグ下位の中では唯一得失点がプラスで、8です。
数字上、得点失点は悪くないですが、先制された試合で勝ち点を取れていない影響は大きいと思います。
もっとゴールを奪うにはどうすればいいのか!というところで、先ほどクロスの話はしたので、今回は選手にフォーカスします。
30得点中、半数の15点はペレイラ(8)とヴィエイラ(7)です。ついで浅野の5得点となっています。
しかし、彼ら2人の守備タスクというところでなかなか安定せず、最近は永井が頭角を表しています。
そんな中、期待を背負わざるを得ないのが浅野です。
当初、左WBとして出てきましたが、最近は右シャドーの起用が多くなっています。
理由としては、そこまでドリブルが武器ではなかったこと、DFラインでの守備の不安、ですが一番大きいのは得点能力でしょう。
スピードを生かして背後をとる『モビリティ』を兼ね備えた彼は、このままシャドーに定着すると予想しています。
となると、左シャドーは森島が当確の中、WB、トップの人選が悩みどころです。
本題とはズレてしまいました。ごめんなさい。
ゴール数という数字だけ見れば上々ですが、いつとったのか、が重要になります。
30得点中、先制点は12得点、追加点は12得点、同点弾は3点、追い上げ弾は3得点です。
そして、先制しつつも落とした勝ち点は9(3分1敗)、追加点も7試合で12点で、先制した12試合のうち追加点が取れなかった5試合の成績は1勝3分1敗です。
また、同点弾は2試合で3点で1分1敗、先制された6試合は全敗で、うち3試合で追い上げ弾を決めるも、同点には至っていません。
このチームに足りない得点力は、拮抗した試合での追加点、先制された試合での同点弾、そして逆転ゴールを奪う力です。
広島は、鹿島戦、神戸戦、清水戦だけで10得点をあげており、これは全体の3分の1の数字です。それぞれ1-0、1-0、2-1でも勝ち点は変わりません。
固め取りしているだけで、拮抗した局面では貴重な1点を奪うことができていません。
特に、先制された試合では、相手が広島にボールを持たせてくることが多くあります。その中で、いかにクオリティをあげて、点を取るかがこれから下位に沈まないための鍵になります。
そのためにも、引いて構えてカウンターだけでなく、サイドでのコンビネーション、クロスを点に結びつける力が必要になってきます。
いかがでしたでしょうか。これらが改善されることが、城福監督の目指すサッカーに近づくために必要なことです。
では、具体的にどういったトレーニングが考えられるでしょうか。いくつか考えてみたので、次の章で紹介します。
第四章 僕がアシスタントコーチになったら
さて、問題点の分析をしたら、次は改善案を作ることが求められます。
今シーズン、降格が無いという特殊なレギュレーションの中、若手GKを起用するというような「リスク」を負った決断をしているクラブもあります。そんな中、通常通りのプレッシャーのもとで広島はやってきましたが、現実的にタイトル、ACL圏内は厳しいのは事実です。
だとすれば、多少のリスクはあるにせよ、確実に来季に結びつくような内容を積み上げていくことが大切だと思います。
前章でも書いた通り「相手を押し込む」ことが城福監督のサッカーの根底にあるものですが、実際はそのような場面は少ないのが現状です。
なので、ビルドアップ、ハイプレスといった、リスクをはらみながらもやらなければならないことを実戦を通して試す、というのは合理的な判断です。
また、得点力向上という面では、引いた相手を崩し点を奪うシーンを増やさなければならないと思います。
そこで今回は、『ビルドアップ』『クロス』『ハイプレス』をテーマにいくつかトレーニング案を考えてみました。
①ビルドアップ
ビルドアップのテーマとして、『WBの幅を活かす』『シャドーがボールを引き出す』の2つを掲げました。
(1)WBの幅を活かす
「ルール」
ゴールキックからスタートし、ラインゴールを目指します。
サイドのラインゴールは、両WBが1回以上ボールに触っていないと通れず、中央のラインゴールはどちらかのWBがボールに触っていれば狙えます。WBは一度ボールに触ったら中に入って自由に動けるが、STは2タッチ制限で、ボールに触っても中に入れません。
守備側がボールを奪ったらゴールを目指し、中の選手だけで守ります。奪い返したら続行、ボールがでたらキーパーから再スタートです。
また、守備側のオーガナイズは試合ごとに変えたいところですが、5バックのチームだとプレスの枚数が5枚になるので、仮のWBをラインゴール奥に置き、WBが中に入るごとに対面のWBが中に入ってDFできるようにします。
「目的」
GK+3CB+2DMFの6人で相手のプレスをかわしてWBに届け、そこから中央が空いていれば狙うが、閉じられていたらやり直して逆サイドまで展開することが目的です
ピッチをワイドに使いながら、STへのくさび、落としを利用して前進していくプレーが求められます。
「キーワード」
『引き込んで剥がす』『相手を広げる』
(2)シャドーがボールを引き出す
「ルール」
CBからボールを入れます。底辺のCBは、自陣にボールがある間は中に入れません。
ミニゴールを2つ設置しそこを目指しますが、ハーフェーラインを越えないとシュートできません。
基本、選手はハーフェーラインを跨いで移動できないですが、STのみ可能です。
また、ハーフェーラインを越えたら8秒以内にシュートまで目指します。自陣に戻すのはなしです。また、底辺のCBも中に入り、NTに備えます。
敵陣でロストした場合、守備側はハーフェーラインを跨ぐパスを通せば勝ちで、自陣でロストした場合、守備側はピッチの底辺をライン突破すれば勝ちです。攻撃側が取り返せば続行し、ボールが外に出た後は底辺のCBから再スタートです。
守備のオーガナイズは、対戦相手の守備ラインとMFラインを参考にします。
また、オフサイドありで、DFはハーフェーラインまでラインを上げることができますが、スタート時はゴールから10mくらい(敵陣半分)のところから始めます。
「目的」
自陣選手は相手を引き付けながらSTを見つけ、敵陣選手は絶えず背後を狙い相手にラインを上げさせないことが求められます。
STはタイミングよく自陣へ降り、また降りすぎず、ボールを引き出します。もちろん大外のWBへのパスでハーフェーラインを越えるのもありです。
ボールホルダーをフリーにすることで、背後のスペースをダイレクトに狙える状況を作ることで、ラインを後退させます。
また、ライン間に侵入(敵陣に侵入)した後は素早くゴールを目指します。
「キーワード」
『引き込んで剥がす』『裏と足元のバランス』
②クロス
クロスを構成する要素として、『どうサイドを突破するか』『どうクロスに合わせるか』に加えて、どこからクロスを上げるかで、『浅い位置』『深い位置』『えぐった位置』の3つに分けられます。
(1)浅い位置
「ルール」
特に書くことはないですが、中の選手がヨーイドンからコーンを回り、ゴール前のスペースに入っていきます。
『どのスペースに入っていくか』がとても大切なので、それについて書きます。
「フィニッシュトライアングル」などと呼ばれたりしますが、ニア、ファー、PKスポットの3箇所にバランスよく選手が入っていくことによって、効果的にクロスにあわせられます。特に重要な効果は、PKスポットと、ニア・ファーに人がいることで、DFラインの表と裏を埋めることができて守りづらい状況を作ることができることです。
選手のスタートのやり方(長座とか、腕立ての姿勢とか)を変えることで、ゲーム感を増すことができると思います。
「目的」
それぞれがどのスペースに入っていくのかを確認するためのトレーニングになります。
また、コーンを回る、スプリントするといった要素があるので、フィジカルトレーニングの一環として採用することができます。
コーンまでの間にラダーやミニハードルを追加するのもいいと思います。
「キーワード」
『前線のモビリティ』
(2)深い位置
「ルール」
サイドのエリアで2v2から黄色いラインをこえ、クロスを上げます。ですが、CFの選手がワンタッチのみならサポートすることができます。
また、サイドのDFは黄色のラインを越えて守備をできません。
攻撃側は、ボールが深い位置に入ってから3秒以内にクロスをあげないといけません。そして、中の選手はボールが黄色のラインを越えたら動くことができます。
「目的」
サイドでの2v2をどうやって突破するか、CFのサポートのタイミングの向上が目的です。サイドのDF側にフォーカスしてもいいんじゃないでしょうか。
「キーワード」
『目指すスペース』『前線のモビリティ』『サイドでのフットボール』『相手を能動的に剥がす』
(3)えぐった位置
「ルール」
サイドでの3v1から突破し、黄色のラインを通過するクロスを上げます。
また、えぐったときはニアの深い位置に飛び込まず、手前で止まってマイナスのボールを待つことが大切です。これにより、ファーへのクロスのコースを確保することができます。
「目的」
3v2でもいいかなと思ったのですが、あくまで目的は中の合わせ方なので、1人にしました。ですが、崩しにもフォーカスしたい場合は、3v2もありだと思います。
「キーワード」
『目指すスペース』『前線のモビリティ』『サイドでのフットボール』『相手を能動的に剥がす』
③ハイプレス
ハイプレスのトレーニングは2種類作りました。
(1)5v5+3
「ルール」
5v5+3のゲームです。白がサーバーで、サイドのサーバーはライン上で動けますが、真ん中のサーバーは動けず、GKを想定しています。
また、その他の選手は黄色い線関係なく自由に動けます。
基本、ラインゴールは1点ですが、黄色の線をボールを越えた回数が点数に追加されます。ですが、1回のドリブルで2回跨ぐ(またいですぐ戻る)のは禁止です。
つまり、3回黄色い線を跨いでラインゴールを取れば4点です。
ボールを奪ったら真ん中のサーバーに戻して攻守交代で再スタートです。
「目的」
メインはサイドチェンジをさせない守備、つまり前線からの規制です。ですが、その中でのボール保持の能力であったり、ポジショニングなども向上すると思います。
ただ、あくまでサイドチェンジをさせないためのカバーシャドウ、プレスの強度が大切です。
「キーワード」
『前線からの規制』
(2)実戦ベース
「ルール」
攻撃側はサーバーを目指します。浮き玉もありです。
基本、どこでも移動できますが、攻撃側のSBorWB、守備側のWBはサイドのレーンから出られません。
攻撃側のオーガナイズは対戦相手のシステムによって決めます。
ボールを奪ったらWBも中に入って10秒以内にゴールを目指します。10秒経過したり、ボールアウト、DF側が奪い返したらGKから再スタートです。
「目的」
サーバーをうまく隠しながらプレスをかけることが大切になります。また、サイドのレーンは2v1になるので、WBがどこまでプレスに参加するかの判断が求められます。
また、実戦に近い形なので、どう誘導し、どこで奪うかの共有が必要になります。
「キーワード」
『前線からの規制』『構えてから、もう一度スイッチを入れる』
いかがでしたでしょうか。実際は、どういう指示を出すか、どんなコーチングをするか、などもっと細かいオーガナイズが必要になると思いますが、今の僕にはそれだけの能力はないので、努力します。
第五章 おわりに 〜ウェールズから広島の皆さんへ〜
ここまで約12800字、お読みいただきありがとうございます。ここから読まれる方も、よろしくお願いします。
さて、僕がこのnoteで書きたかったこと、それは「謎大きプロサッカークラブを、得られる情報からどこまで読み解けるのか」ということです。
僕たちサッカーファンは、「サッカーの試合」というコンテンツを楽しみますが、その「サッカーの試合」というのは多くの要素が複雑に絡み合って成り立つものです。
そして一番の問題は、そのコンテンツが必ずしも満足いくものではなく、またクラブの実力が拮抗し、大半のクラブが「優勝」を軽々しく口にできるリーグでは、ほとんどのクラブが失敗に終わる、ということです。
なので、多くのサッカーファンは、基本的に「不満」を抱えています。
なんで勝てないんだ、なんでこんなサッカーをしているんだ、なんでこんな順位なんだ...
Twitter、SNSの特性上なのかもしれませんが、自分の愛するチームを卑下し、愚痴を重ね、馬事雑言を浴びせる方が多いように感じます。
「アホ、バカ、無能…」
自分の専門域外でプロとして活動されている方に対する言葉として適切なのでしょうか。
ですが、これはしょうがないことだと思います。なぜなら、評価をしようにも判断材料が乏しく、自分の納得いかないチームに浴びせる言葉は「無能」しか出てこないからです。
だからといって、「うちのチームはこういう意図で、こういう戦術を…彼の年俸がどうこうで、予算が…」など全てを表に出すことはできません。
この、サッカーファンとクラブの間にある溝は、永遠に埋まることはないでしょう。奈良クラブのようにMaiki Reviewでもやらない限り…
この溝を少しでも小さくするにはどうしたらいいんだろう!という疑問のもと、サンフレッチェ広島と城福監督について、かなりの分量になりましたが考えてみました。
ですが、はっきり言ってこれは妄想の域を出ないし、仮にあっていたとしても、監督以上の存在、フロントについては何もわかりません。
「フロントは何をやっているんだ!!」
成績不振のクラブでよく耳にしますが、すごく真っ当な感情だと思います。
なぜなら、本当に何をやっているか分からないからです。
ですが、だから何も言わないというのは、ちょっと違うと思います。
自分が大好きなクラブだからこそ、もっとよくなって欲しい、と思う気持ちは当然です。だからこそ、それをどう表現するか、だと思います。
僕の場合は、今クラブに直接何かをできるわけではないので、こうやってネチネチSNSで発信しながら、勉強しています。
それでも、ここまで調べに調べた人はいないんじゃないかと思うくらい、コメントを探し、データ分析など、できる限りのことはやったし、後悔はありません。
それと同時に、ここまでやればこれだけのことが見えてくるんだ、ということもわかりました。
そして、おこがましいにも程がありますが「改善案」も作らせていただきました。
この記事が、誰かの、何かの役にたっていたら、嬉しいです。
ヘッダー画像 サンフレッチェ公式Twitter 2017/12/22
図解 TACTICALista
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