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VOCADOL 49

FILE.007 時の館殺人事件(10

▼MAP007-8 時田邸(承前)

【杏音】
「どの場所も段差がまったくなかったから、楽勝だったよ」

【kokone】
「時田さん。すばやく行動できるよう、ドアロックをはずし、明かりもつけたままにしておいたのでしょうけど、犯行後も放っておいたのはまずかったですね」

【星霜】
「……素晴らしい。見事な推理ね」

「だけど、あなたたちは私にも犯行が可能だったということを証明したにすぎないわ」

「私が妹を殺したという証拠はどこにもないでしょう?」

【kokone】
「はい。残念ながらおっしゃるとおりです」

「だけど、私たちにはこれがあります」

「メルリ。時田さんに見せてあげて」

【メルリ】
「時田さん。この鍵に見覚えはある?」

※画面いっぱいに、巻き鍵の画像。

【星霜】
「ど、ど、どうして、あなたがそれを持っているの?」

「返して。どこかで落としてしまったみたいで困っていたの。それは私がもっとも大切にしている奇跡の鳩時計の鍵よ」

【メルリ】
「この鍵、マンション内に落ちていたわ。時田さんのものに間違いない?」

【星霜】
「そうよ」

【メルリ】
「どうして、マンションに?」

「昨日の午後9時前には、まだあなたの手もとにあったはずだけど」

「犯行後、マンション内を移動しているときに、うっかり落としてしまったんじゃないの?」

【星霜】
「メイよ。きっと、あの子がほかの時計の巻き鍵と間違えて持ち出したんだわ」

「マンション内に飾ってある時計の掃除をするように頼んでおいたから、そのときに落としてしまったのね」

【kokone】
「メグさん、そうなんですか?」

【メイ】
「え……ええ……」

【メルリ】
「ご主人様を守るためとはいえ、嘘はよくないわ」

【メイ】
「私は嘘なんて……」

【星霜】
「そうよ。彼女は嘘なんてついてない」

【kokone】
「わかりました。私たちはおふたりの話を信じることにします」

【星霜】
「だったら、その鍵を返してもらえる?」

【メルリ】
「それは無理。事件の重要な手がかりとなるかもしれないもの」

「この鍵はしばらく預かって……そうね、次の土曜日にでも返すわ」

【星霜】
「ふざけないで! ゼンマイが伸びきれば、時計は壊れてしまうのよ。今すぐ返してちょうだい!」

【kokone】
「時田さん。最後にもう一度だけ確認させてください。昨晩の午後9時から9時半の間、あなたはどこでなにをしていましたか?」

【星霜】
「何度も話したでしょう? コレクションルームで時計のゼンマイを巻いていたわ」

【kokone】
「大切にしている鳩時計のゼンマイも?」

【星霜】
「もちろん。とても大切な時計だもの。巻き忘れるはずがないわ」

【kokone】
「奇跡の鳩時計のゼンマイは、1週間で伸びきると話していましたよね?」

「ということは、次の土曜日の夜まではゼンマイを巻かなくても時計は動き続けるはずです」

【メルリ】
「だから、あたしたちが土曜日の昼まで鍵を預かったとしても、なにも問題はないでしょう?」

「あなたが昨晩の午後9時から9時半の間、ゼンマイを巻くといって会場を出たあと、実際にはゼンマイを巻かずに殺人を行なっていたのでなければ」

【星霜】
「…………」

「……私の負けよ」

「このままゼンマイを巻かなければ、鳩時計は金曜日の夜に止まってしまうわ」

「命の次に大切なコレクションを失うわけにはいかない……そう、あなたたちのいうとおりよ。私が妹を殺したの」

「私に命を狙われているなんて、夢にも思っていなかったのね。私が落としたハンカチを拾おうとしてしゃがみ込んだところを、隠し持っていた鉄パイプで殴りつけてやったわ」

「烏兎が約束の時間に遅れなければ、殺害はもっと早くに行われるはずだった。もし予定どおりに事が運んでいたなら、こうやってあなたたちに追いつめられることもなかったのに……」

「最後の最後まで私の足を引っ張って……本当にどうしようもない人」

人の心は、ゼンマイ時計のように精密で繊細なもの。

大切なものを失いたくないという彼女の強い思いは、逆に彼女からもっと大切なものを奪い取っていきました。

泣き崩れるその人に、私はかけるべき言葉を見つけられませんでした。

たくさんの人に笑顔を届けたい。そう思ってアイドルを続けている私たちですが、もしかしたらそれはひどく大それた夢なのかもしれません。

ふと、そんなことを考えた私だったのですが、さて。

TO BE CONTINUED……

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