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下手の横スキー65

第65回 バッジテストの思い出

 日を追うごとに寒くなっていきますね。冬は確実に近づいてきております。皆様、いかがお過ごしでしょうか? 僕はといえば、スキー板をチューンナップに出したり、スタッドレスタイヤを倉庫から引っ張り出してきたりと、スキーの準備に大わらわの毎日。……仕事は?

 先日、自宅近くのスキーショップで、高校時代の友人とばったり出会いました。ここ数年、スキーにどっぷりはまっているらしく、「今年こそ、バッジテスト1級に合格してやるんだいっ!」と意気込みは充分(バッジテストについては第50回参照)。僕にもそんな時期があったなあと、しみじみ昔を懐かしんじゃいましたよ。思わず家に帰ってから、過去の日記を読み返してみたり。

 そんなわけで、今回は僕の「バッジテスト奮戦記」を日記より抜粋。こら、そこ。手抜きとかゆーな。

 まずは2級受検編。1997年──今から9年前のお話です。当時はまだ作家デビューしておらず、某スーパー家電売り場で販売員などしておりました。
では、どうぞ。

 3月1日(土)
 仕事から戻ると、急いでスキーの準備。地元スキークラブのツアーに飛び入り参加させてもらうことになったのだ。
 夜10時半に集合。メンバーは40余名。いくら地元とはいえ、知り合いはまったくいないだろうと思っていたら、偶然にも高校のときの同級生N君が参加していて、10年ぶりの再会を果たす。……そうか。高校を卒業して、もう10年も経つのね。歳をとるわけだ。

 3月2日(日)
 早朝4時、野沢温泉スキー場に到着。うぎゃあ。すんげえ寒いでやんの。重い荷物をガラガラと引きずりながら民宿へ。昔ながらのスキー場のお宿って感じ(はっきりいえばボロ)で、寒さに震えながら仮眠。
 んでもって、朝からスキー講習。バスの中は暗かったんで、よくわからなかったんだけど、N君のほかにも知ってる顔がちらほら。皆さん、僕の姿を見るのは高校以来なわけで、第一声は決まって、「身体、がっちりしたなあ」「ウェイトトレーニングでもしてるのか?」「たくましくなったなあ」
 いえ……ただ太っただけです(笑)。
 そりゃ、あの頃から20キロ以上も体重が増えたんだからね。
 で、スキー講習。明日が検定日なので、とにかく必死で頑張りました。シュテムターンが苦手で、今までそればっかり練習してきたんですが、いつの間にやら検定種目がステッピングターンに変わっていたのね。とほほ。ちっとも知らなかったわ。
 というわけで、後半はひたすらステッピングの練習。講習前ははしゃいでいたのに、講習中はすっかり無口になってしまいました。

 3月3日(月)
 今日は緊張の検定日。バッジテストは2年前に何度か挑戦したけど、あえなく玉砕。「まだまだ僕には早かった……」と、それからひたすら練習に励んできたわけで、今回こそはどうしても受かりたかったんであります。
 うひゃあ、緊張したあ。大学を卒業して以降、こーゆー緊張感ってほとんど味わったことがなかったから新鮮でした。いざ自分の順番になると、頭の中は真っ白。学習したことが、すべて消え失せちゃったり。
 でも、ま、大きなミスもなく……合格しましたよっ! 合格しましたよっ! 合格しましたよよよよよっ(浮かれすぎ)。
 ホントは、2級ごときで浮かれていたんじゃダメなんだろうけど。でもこれでようやく、1級検定を受けることができるもんね。目指すぞ、1級。何年かかるかわからないけどさ。

 続いて、1級受検編。2級に合格してから約10ヵ月後のお話であります。

 12月27日(土)
 仕事納め。今夜からスキーに出かけるんで、明日からの仕事は休ませてもらうことに。年末だから正月休み用の商品が次々に入荷してきて、それこそ目の回るような忙しさだったんだけど、さっさと定時であがっちゃいました。うわははは。あとのことは知るか。
 風邪はまだ治らない。気分もあまりよくなかったけど、そんなことでスキーをキャンセルするような僕ではない。鞄にティッシュペーパーとビニール袋(万一のゲロ吐き用)を大量に詰め込み、うがいをしつこいくらいに繰り返し、めいっぱい厚着をして、長野の菅平高原スキー場へ。

 12月28日(日)
 朝5時、菅平高原に到着。軽く仮眠をとって、9時から講習会スタート。単純なもので、スキーを始めた途端、風邪はすっかり治ってしまいました。
 しかし、とにかく雪が少ない。スノーマシンが動いてなかったら、おそらくただの野原だったんじゃないかなあ。2月のオリンピックは大丈夫なのか?

 12月29日(月)
 うわああい。今年も残りわずか数日となったところで、最大のニュースだいっ。
 ぬぁんと、バッジテスト1級に合格しちゃいました(万歳)。まさか受かっちゃうとは。記念受検のつもりだったから、あんまり気合いも入ってなかったのに。あ、ほどよく力が抜けたことが有利に働いたのかも。
 想像以上に調子がよかったため、もしかしたら? という思いも脳裏をかすめたんですが、なんせスキーってやつは、自分ではうまいと感じていても、実際は全然ダメってことが多い――実に思い込みの激しいスポーツなので、これもきっとひとりよがりの勘違いだろうと思っていたんです。それが……ぐふ、ぐふふ。
 いや、こうやって書き込んでいる今もまだ、目尻がだらんと垂れ下がったまま。奇跡的に運がよかったってことは百も承知していますが。ええええいっ! 運も実力のうちぢゃあああっ!
 1級に合格することは、ここ5年くらいの夢だったので、今はホント浮かれまくり。2級合格にはひどく苦労しましたから、まさかこんなにもあっさりと夢がかなってしまうなんて、なんだか複雑な気分です。合格者の中に自分の名前を見つけたときは、正直戸惑いましたよ。あとから指導員に、「なんで合格したんですか?」と詰め寄っちゃったくらい。
 祝賀パーティーのあと、布団に入ってようやくじわじわと喜びが湧いてきて、その日はほとんど眠ることができませんでした。隣のいびきがうるさかったってこともあるんだけどね。
 さ、今度は、もうひとつの夢もかなえなくっちゃ。

 12月30日(火)
 今日はフリータイム。「1級の滑りを見せてくれ」と皆に冷やかされながら、帰りの時間ぎりぎりまでひたすら滑り続ける。ホント、大満足の3日間でした。
 帰宅後、1級合格を姉に自慢すると、「ええええええ? そりゃ、いくらなんでも採点が甘すぎるわ」となかなか納得してくれません。
「ふん。なんとでもいえよ。僕は生まれ変わったんだ。新生ケンジを見て、驚くなよ」
「え? あんたって真性だったの?」
「包茎の話じゃないっ!」
 いい気分が台無し(怒)。

 12月31日(水)
 大晦日になっても、幸せ気分は継続中。
 今年1年、なにがあったかなあと軽く振り返ってみたけど……うーん、1級合格の喜びがでかすぎて、それ以外はなにも思いつかないや。
 来年の終わりも、こんな幸せな気持ちで迎えられたら最高だと思います。

 1級に合格したときの感激が、多少は皆様にも伝わったでしょうか?
 ちなみに、12月29日の日記に書いた「もうひとつの夢」というのは、作家になること。その夢をかなえるまでには、さらに2年半の歳月が必要でした。
 ……ああ。そのときから堕落の人生が始まったんだよなあ(しんみり)。

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