VOCADOL 09
FILE.003 ラピス誘拐事件(2)
▼MAP004-1 愛知県名古屋市中区栄(承前)
(テレビ塔)
【cul】
「ラピスを見かけなかったか?」
【lily】
「ノー。そういえば、今日はまだ顔を見ていませんね」
【MIZKI】
「ゆうべは名古屋の親戚の家に泊まったんでしょう?」
「最近、いろいろと忙しかったから、気が緩んで寝坊しちゃったんじゃないかしら」
【cul】
「いつまで経っても現われないし、携帯電話にも出ないから、マネージャーがラピスの叔母さんと連絡を取ったんだけど、彼女、昨日は泊まりに来ていないんだって」
「リハーサルが忙しくて、予定が変わったんだろうと、叔母さんは思っていたみたいなんだけど」
【MIZKI】
「ええ? でもラピス、晩御飯のあと、ホテルに泊まる私たちと別れて、地下鉄に乗ったわよね」
「叔母さんの家に泊まってないのだとしたら、一体どこへ行っちゃったの?」
【cul】
「ラピスがボクたちに嘘をつくとは思えない。きっと、叔母さんの家に向かう途中でなにかあったんだ」
【lily】
「オーマイゴッド!」
【MIZKI】
「そんな……。みんな、そのことは知ってるの?」
【cul】
「いや。マネージャーがラピスの叔母さんと電話しているところを、たまたま聞いちゃっただけだから」
「まだ事件と決まったわけじゃないし、騒ぎが大きくなっても困るから黙ってろって、マネージャーには釘を刺された」
「でも、このままおとなしくしているわけにはいかないだろ? 早くラピスを見つけ出さないと」
【MIZKI】
「見つけ出すといっても、どうやって?」
「今、午前9時。私たちのライブは午後7時だから、あと10時間しかないわよ」
【cul】
「とりあえず、昨日、ボクたちがラピスと別れた場所まで行ってみよう」
(地下鉄 栄駅)
【MIZKI】
「ラピスと別れた場所まで来たけど……手がかりなんてなんにもないみたい」
【lily】
「彼女とは連絡を取れないのですか?」
【cul】
「さっきから何度もラピスのケータイに電話をかけてるんだけど、全然繋がらなくて」
S.E. コール音
【ラピス】
『……もしもし。cul?』
【cul】
「嘘!? 繋がった?」
【MIZKI】
「ラピス、一体なにがあったの?」
【ラピス】
『……どうやら私、誘拐されてしまったみたいです』
【MIZKI】
「えええ? 誘拐って一体誰に?」
【ラピス】
『ほら。最近、私たちの前に突然現われては戦いを挑んでくる困ったチャンがいたでしょう? あの人たちに捕まってしまって……』
【lily】
「エスケープ! 逃げられないのですか?」
【ラピス】
『手足をロープで縛られているので無理です。それでもひと晩かけて、なんとか手首のロープだけは緩めることができました』
『上着の隠しポケットに入れておいたケータイが、震えているのはわかっていたんですが、ずっと見張られていましたから、出るに出られなくて』
『見張りの人が外へ出ていったタイミングで、culから電話がかかってきたので、今初めて助けを求めることができました』
『……私、どうすればいいでしょう?』
【MIZKI】
「すぐに警察に連絡しなくちゃ」
【ラピス】
『それはダメです』
【MIZKI】
「え……どうして?」
【ラピス】
『私のせいでライブが中止になったら大変じゃないですか。メジャーデビューできるかもしれない大きなチャンスなのに』
『みんなに迷惑をかけることはできません』
【cul】
「だったら、すぐに助けに行くよ。今、どこにいるんだ?」
【ラピス】
「それが……目を覚ましたときには、もうこの場所に到着していたものですから。アパートの一室だってこと以外はなにもわからなくて」
【MIZKI】
「ケータイのGPS機能を使えば――」
【ラピス】
「ダメなんです。私のケータイ、そういうハイテク機能はついていません」
【MIZKI】
「なにか場所を知る手がかりはないの?」
【ラピス】
「窓の外に学校が見えますけど」
【MIZKI】
「学校名はわかる?」
【ラピス】
「そこまでは……」
【lily】
「窓を開けて、助けを呼ぶことはできないのですか?」
【ラピス】
「それがダメなんです。窓には特殊な鍵がつけられていて、内側からでも開けることができないみたいで」
【cul】
「だったら、窓の外の景色を写真に撮って、すぐにメールで送ってくれ。そうすれば、そこがどこだかわかるかもしれない」
【ラピス】
「……わかりました」
つづく
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