アンラッキーガール 09
1 バー〈孔雀〉(承前)
菜々美 「なによ、ここのトイレ。座り心地はサイコーだし、シャワーも柔らかくて、まるでマッサージされてるみたいだし。あまりにも気持ちいいから、便座に座ったまま、居眠りしちゃったじゃない。(店内を見回し)日向麻里はどこ? どこにもいない! まさか、あたしが居眠りしている間に帰っちゃったとか? あの女だけは、絶対に殺さなくちゃ気がすまない。あとを追いかけなきゃ」
上手に移動し、店の外へ出ようとする菜々美。
翔子 「お客様、お帰りですか? お帰りでしたらお勘定を――」
菜々美 「まだ帰んないわよ。目的を果たしたら、ここで祝杯をあげるから」
勢いよく店を飛び出す菜々美。店の前で浮かれていた富子とぶつかる。
富子 「きゃっ!」
道端に倒れる富子(菜々美からは顔が見えない)。
菜々美 「日向麻里、見つけた! この性悪女が……よくもタケルをたぶらかしてくれたわね」
富子 「麻里? タケル? え? なんのことでしょうか? 私はスピリチュアル富子。世間ではわりと有名な占い師なんですけど。あなた、テレビの深夜番組とか見ていないのですか?」
菜々美 「死ねええええっ!」
ナイフを握りしめ、富子に飛びかかる菜々美。
富子 「え? ちょ、いやあっ!」
とっさにナイフをよける富子。
菜々美 「なんでよけるの?」
富子 「よけなきゃ殺されるでしょう!」
菜々美 「素直に殺されなさいよ」
富子 「は? あなた、頭は大丈夫?」
菜々美 「あんたこそおかしいんじゃない? 人の男を誘惑するなんてサイテー。死んじゃいなさい、日向麻里」
富子 「だから、私は日向麻里なんて名前では――」
再び襲いかかる菜々美。ナイフをよけて立ち上がる富子。
富子 「ダメだ。この人、頭に血がのぼって、なんにも見えてない」
繰り返し襲いかかる菜々美。菜々美の攻撃を必死でよける富子。(ちょっとしたアクションシーンになったら面白いかなと)
富子 「(菜々美の攻撃をよけながら)このままでは、本当に殺されちゃう。どうすればいい? 私は占い師……(菜々美の攻撃をよけつつ、目を閉じて)心の目を見開いて未来を占えば、自ずと解決策も見えてくるはず。(目を見開き)見えました。ここはひとまず全力で走って逃げましょう」
富子、上手に退場。
菜々美 「待て! 日向麻里!」
富子のあとを追いかけて、菜々美も退場。
入れ違いで佳穂、キサラギ、サツキが上手から登場。佳穂はオレンジジュースの入ったコンビニ袋を手に持っている。
佳穂 「(店のドアを開けながら)どうぞ。こちらになりまーす」
キサラギ「オー! ここがバー〈孔雀〉ですか?」
佳穂 「イエス、イエス、プリーズ」
サツキ 「ずいぶんと薄汚い店だな」
キサラギに頭をはたかれるサツキ。
サツキ 「いてっ」
佳穂 「(二人のほうを振り返り)なにか?」
キサラギ「ノープロブレム。なんでもありません。バー〈孔雀〉ビューティホー! すばらしいお店です」
佳穂 「そうかなあ?」
佳穂、店内へ。
佳穂 「ただいまー」
翔子 「あんた。オレンジジュースを一本買ってくるだけで一体、何分かかってるんだよ。あんたのことだから、どうせ雑誌でも立ち読みしてたんだろ?」
佳穂 「ひどぉい。佳穂、こんなに一生懸命仕事してるのにい。遅くなったのは、コンビニで外国人さんに声をかけられたからだもん」
翔子 「外国人?」
佳穂 「バー〈孔雀〉はどこにありますか? って訊かれたの。だからここまで案内してあげたんだよ。佳穂、できる女だと思わない?」
つづく
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