![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/91545013/rectangle_large_type_2_57134fe6b2695a6adba1a6d0bb09a618.jpeg?width=1200)
アンラッキーガール 14
1 バー〈孔雀〉(承前)
リモコンボタンを押そうとするサツキ。その瞬間、無言の客が立ち上がり、念仏を唱え始める。
サツキ 「え? (サツキの手足がおかしな方向に捻じ曲がる)な、なんだこれ? からだが……」
無言の客の動きに合わせて、奇妙なダンスを踊り始めるサツキ。
無言の客「(手のひらをサツキに向けて)はああっ!」
サツキ、無言の客の気合に吹き飛ばされるように倒れこむ。
とっさに立ち上がった茜が、キサラギとサツキに手錠をかける。
なにくわぬ顔でカウンター席へと戻る無言の客。
茜 「殺人未遂および銃刀法違反で現行犯逮捕する。(無線機を取り出し)テロリストを確保しました。至急、応援をお願いします」
キサラギ「(苦しそうに)……シット」
サツキ 「(心配そうにキサラギを見つめて)ボス!」
茜 「大丈夫。傷は急所をそれてる。あなたのボスは心配ないから」
佳穂 「え? え? どういうこと? お姉さん、警察官だったのお?」
茜 「警視庁公安部機動捜査隊の立花茜です」
ルカ 「公安……そんなすごい人がどうしてこんな薄汚いバーに?」
翔子 「薄汚くて悪かったわね」
茜 「日向麻里を守ることが私の役目ですから」
佳穂 「え? 意味がわかんない。日向麻里って、あたしの足もとで酔いつぶれちゃってるこの人でしょ?」
佳穂、麻里を担ぎ上げ、強引にカウンター席に座らせる。カウンターに突っ伏し、眠ったままの麻里。
佳穂 「この酔っ払いさんってそんなにすごい人なのお?」
茜 「日向麻里はね、世界一幸運な女性なの」
翔子 「……え? どういうこと? 本人は『世界一不幸な女だ』って嘆いてなかった?」
茜 「不幸だなんてとんでもない。彼女、マンションのベランダから落ちたことがあるって話していたでしょう?」
翔子 「ああ、いってたね。足首を捻挫したんだろ? だから自分はついてないんだって」
茜 「ついてないなんてとんでもない。麻里はマンションの十五階から落ちたんですよ」
翔子 「……え?」
茜 「それなのに足首の捻挫だけですむなんて、普通はあり得ないでしょう?」
翔子 「ちょっと待って。ほかにもいろいろと話していたよね? 自動車事故に遭ったとか、変質者に追いかけられたとか……」
茜 「半年前にあったトンネル内での玉突き事故を覚えていますか?」
佳穂 「あ、佳穂、覚えてるよ。トンネルの中で火事が起こって、三十人以上の人が閉じこめられたんだけど、なぜか炎や煙が広がらなくって、みんな奇跡的に助かったんだよねえ」
茜 「麻里はあの事故に巻きこまれた一人です。火災発生地点にいたにも拘わらず、彼女はかすり傷ひとつ負っていませんでした」
唖然とした表情で茜の話を聞く面々。
茜 「三ヵ月前、繁華街にサバイバルナイフを持った男が現れ、通行人を刺し殺そうとした事件があったでしょう?」
翔子 「まさかそのときも……」
茜 「そう。麻里は偶然その現場に居合わせて、犯人に襲われそうになりましたが、彼女の肩をつかんだ途端、犯人はいきなり泡を吹いて倒れ、結局、誰も被害に遭わずにすみました」
ルカ 「なに? どういうこと? 麻里って子はスーパーマンなの?」
茜 「わかりません。日向麻里はこれ以外にもたくさんの危険な目に遭遇しています。何度も危ない目に遭いながら、なぜかほとんど無傷で助かっているんです」
翔子 「どういうことなんだろう? 誰かに守られているのかな?」
茜 「一種の特殊能力なんだと思います。我々公安警察は彼女のその能力に注目しました。危険を回避する日向麻里の力は、国を守るために利用できると考えたのです」
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?