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フォスター・チルドレン 77

第6章 私の願いを聞いてください(11)

3(承前)

 朋美の笑顔がよぎった。メモ用紙に描かれたクマのイラストは、朋美が好きでコレクションしていたキャラクターだった。 
 蘭はメモ用紙をペンダントから取り出すと、何度も朋美に謝りながら、それを広げた。
 蘭の後ろから紙片を覗きこむ。
「……間違いなく、朋美の字だ」
 遺書と同じ丸文字が僕の目の中に飛びこんできた。

 私がずっと、あなたの心の中に住み続けますように

 文章はそれだけだった。 
 僕は思わず辺りを見回した。僕に対してのメッセージではないはずだが、まるで朋美が僕に語りかけているようにも思える。
「笑わずに聞いてくれるかな」
 僕はためらいがちに口を開いた。
「決して自惚れているわけじゃない。でも、ずっと思っていたことがあるんだ」
「なに?」
 蘭はメモ用紙を折り畳みながら、僕に顔を向けた。
「ひょっとしたら……朋美は俺のことを好きだったんじゃないのかな? 高校の頃からずっと……」
「どうしてそう思うの?」
 蘭の目には明らかに驚きの色が含まれていた。
「いや、なんとなくさ。だって、そうだとすれば辻褄が合うじゃないか。六月の雨の日、どうして朋美はいきなり君をひっぱたいたりしたんだ? 『私の気持ちなんてなにもわかってないのよ!』と君に叫んだ理由は?
 朋美が好きだったH君というのは――葉月じゃなくて俺――樋野のことだったんじゃないのかな? でも、君が先に俺の名を口にしたものだから……朋美はとっさに嘘をついた。……だって彼女はそういう奴だっただろう? いつも他人のために自分を犠牲にしてきたじゃないか。
 君は気をきかせたつもりで、葉月と朋美の仲を取り持った。朋美にとっては余計なお世話だったんじゃないのかな?」
 蘭は目を閉じて首を横に振った。
「ううん。ごめんね……それはやっぱりあなたの自惚れよ。朋美が好きだったのは葉月。間違いないわ。そうじゃなかったら、これまでずっとつき合い続けていたはずがないじゃない」
「朋美は全然、幸せそうに見えなかった。別れたくても、葉月が朋美を離さなかったのかもしれない。朋美は便利な女だったから、小間使いのように扱っていたのかも」
 僕は蘭に、朋美のアパートの前で出くわした女の話をした。
「信じられるか? 葉月は朋美の前で、他の女と平気で抱き合ったりしていたんだぞ。それで本当に彼女が幸せだったと思うか?」
 僕はそこで言葉を止めた。蘭の視線が頬に突き刺さり、ひりひりとした痛みを覚える。

つづく

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