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銭山警部の事件簿(ロングver.)05(終)

消えたデリンジャー05

「あのー、ちょっとお尋ねしたいんですけど……」
 銭山が口を開く。
「……連続銃殺魔の家ってどこにあるか知ってますう? あたし、なんにも聞かずに家を飛び出して来ちゃったもんで。わは。わはは」
 僕と黒田警部はおたがいの額へ頭突きをくらわし、その場に倒れた。
「おお、姉ちゃん、べっぴんやなあ。専属悩殺ウーマンの店? そんな店があったらわしも行ってみたいもんぢゃ。くわっくわっくわっ。あ、でもとびきり安いヘルスなら知っとるぞ。姉ちゃん、そこで働く気ないか? なあに、ここからそう遠いところじゃない。この道をまっすぐ行って、右へ曲がって、次の角を左――」
 銭山は酔っ払い親父の戯言を必死でメモに取っている。
「ありがとう、おじさぁん。ぜにーちゃん、感激ぃ。今度、うちのお店にも来てね。ちゅっ」
 投げキッスを放り、銭山は酔っ払いと別れた。
「あ……アホだ。あのおかま、本物のアホだ……」
 僕はこれ以上つき合うことに我慢できなくなり、「こらああっ!」と叫びながら銭山に駆け寄った。
「あ、馬鹿」
 警部も僕のあとを追いかけてくる。
「あら、二人とも一体どうしたの? あ、わかった。あたしの帰りを待ちきれなかったのね。うふん。甘えん坊さん。でもこんなところじゃダメ。ほら、人が見てるでしょ?」
「こ、この変態おかま野郎がぁぁぁっ!」
 僕は怒りにまかせて銭山の頬を殴った。
「あ……き……気持ちいい……。もっとやってほしいけど、でも今は仕事が先よ」
 突然、銭山の口調が真剣なものに変わる。
「わかったぴろぴろぴろぉぉぉん。ぜにーちゃん、あったまいいいいぃぃぃっ! ひさしぶりのフレーズだから細かいところまで忘れちゃった。これでよかったんだっけ? 黒ちゃん」
「たぶん間違ってないと思います。――で、銃のありかがわかったんですか?」
「ええ、今の酔っ払いのおじさんの証言ですべてはっきりしたわ」
「さすがです、銭山さん! 早速、署に連絡を入れます」
 警部は上気した顔を見せながら、携帯を手に取った。
 僕にはなにがなんだかわからない。
「どういうことです?」
 銭山に詰め寄る。
「酔っ払いの親父に道を尋ねただけじゃないですか? それだけでどうして拳銃の在処がわかるんです?」
「だってあたしは名探偵よ。証言者が口にしたわずかな手がかりから事件の全貌を探り当てる――それくらいできなくてどうするの?」
「でもただ道を尋ねただけじゃ……」
「ノンノンノン。わかってないわね。道を尋ねたら拳銃の在処がわかる――すなわち、道を訊いて銃を知るよ」
 銭山は高らかに笑い、どさくさまぎれに僕の唇を奪っていった。

 この世にも馬鹿馬鹿しい出会いが、その後の僕と瑠璃子の運命を翻弄していくのである……。

終わり

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