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下手の横スキー10

第10回 真っ赤なパンツ~ジンクス(1)

 関西のおばちゃんが、豊満な乳房を揺すりながらひとこと。
「わてね、ボイン、ビッグやねん」
 わてね、ボイン、ビッグやねん。わてねぼいんびっぐやねん。わてねぼりんぴっくやねん、アテネオリンピックやねん。ばんざーい、ばんざーいっ!

 オリンピック真っ盛り。明けても暮れてもごりんごりんごりん。会社に遅れてごめんごめんごめん。たぶん、寝不足の方も多いのではないでしょうか。
 日頃はスポーツ観戦なんてほとんど興味のない僕でさえ、この時期はテレビに釘づけとなってしまうんですから、ホント、オリンピックの醸し出すパワーというのはすさまじいもんです。

 JOC(日本オリンピック委員会)のサイトを見てみると、日本代表選手団のプロフィールが掲載されており、これがなかなか面白い。
 とくに目を惹いたのは、「縁起かつぎしますか?」という項目。
 僕自身、スキーの大会に出るときは、ものすごくジンクスを気にするほうなんで、「世界レベルの選手は、一体どんな縁起かつぎを行なっているんだろう?」と、興味深く眺めた次第。

 ……あ。ほとんどの選手が、ジンクスなんて信じてないみたいですね。
 やはり、これくらい実力のある選手になると、運などには頼らないってことなんでしょうか。

 縁起かつぎをしている選手はごく少数ですが、その中でも多数の意見を占めているのは、「おばーちゃんからのお守り」(柔道・谷本歩実)、「応援してくださる人達にもらったたくさんのお守り」(トライアスロン・中西真知子)、「やたがらすのお守りを持ってる」(サッカー・下小鶴綾)など、やはりお守りみたいです。
 最近は、いろんな種類のお守りが売ってるんですよね。邪気を払うお守り、外国語習得のお守り、緊張をほぐすお守り、部屋の中が水浸しになるお守り……それはお守りじゃなくて、雨漏りだな。

 お守りの次に目立ったのが、「大学時代の恩師、具志堅先生に頂いた必勝はちまき」(体操・水鳥寿思)、「おばあちゃんにもらった東京オリンピックの100円玉」(体操・中野大輔)、「社長から頂いたネックレスとピアス」(陸上競技・福士加代子)など、大切な人から譲り受けた品物をお守り代わりに身につけている選手。「8年以上首につなげ続けているネックレス」(セーリング・鈴木國央)という回答には、ほっとしました。ネックレスでよかった。パンツとかだったら大変です。

 「靴やズボンは左足からはくこと」(ライフル射撃・田澤修治)、「スパイクは右足からはく」(陸上競技・高平慎士)、「何をするにも右足から!」(サッカー・茂庭照幸)など、足にこだわっている選手も多いみたいです。

 変わったところでは、「まゆげをきちんとかく」(カヌー・足立美穂)、「メイクのアイラインを一筆で美しいラインで描くこと」(シンクロナイズドスイミング・武田美保)。僕にはよくわかりませんけど、眉の形が一発で決まると気持ちいいものなのかもしれません。

 ほかにも、「ごみ拾い」(セーリング・佐竹美都子)、「朝、電話する」(自転車・唐見実世子)など、なにかその選手なりの理由がありそうで、面白いですね。「試合が終わるまでヒゲをのばす」(レスリング・小幡邦彦)、「体の毛をそる」(競泳・三木二郎)と、まったく正反対のことを書いている選手もいたりして、興味は尽きません。

 ではここで、僕の気に入った「ちょっと変わった縁起かつぎ・ベスト3」。

 第3位「海に梅干の種を投げる」(セーリング・吉迫由香)

 セーリングならではの縁起かつぎ。「酸っぱい(失敗)を放り投げる」ってことなのかな? と勝手に思い込んでいるんですけど……たぶん、違いますね。

 第2位「ベルギーでムール貝を食べる」(セーリング・高木正人)

 またまた、セーリングの選手。試合のたびに、ベルギーまで出かけているとしたら、めちゃくちゃ大変でしょうな。

 第1位「森永のラムネを食べる事(競泳・森田智己)

 ベルギーのムール貝とは異なり、こちらはとっても安上がり。試合前に、一心不乱でラムネをむさぼり食う姿を想像すると、ちょっと笑えます。

 では、最後に特別賞を。


 「試合の時は勝負パンツ」(ライフル射撃・柳田勝)

 いや、実は僕も、まったく同じ縁起かつぎをしているんで、ひじょーに親近感を抱いてしまったんです。ってなわけで、ここから本筋。

 昨シーズンの僕は、「ここぞ!」というときには、いつも真っ赤なボクサーパンツを履いていました。大切な大会前に、ついうっかり勝負パンツを忘れてしまったときは、すぐに友人宅へ電話をかけ、
「ごめん。僕のパンツをスキー場まで届けて」
 と、わざわざお願いしたくらい。他人のパンツをタンスの中から探し出し、百キロ以上の道のりを、パンツを届けるためだけにやって来た友人には、ひじょーに悪いことをしたと思っています。

 僕が昨シーズンの指導員検定を受けたことは、このエッセイを読んでいる皆さんなら、すでにご存知だと思いますが、もちろんそのときも、勝負パンツで挑みました。真っ赤なパンツのミラクル・パワーで、1日目、2日目……と順調に課題をこなしていったんですが……。
 2日目の夜になって、ふと気がつきました。勝負パンツは、全部で2枚しかありません。これまで、3日以上縁起かつぎをしなくてはならないような事態には遭遇していなかったので、ついうっかりしていました。
 うわあ、明日穿くパンツがないぞ。どうしよう? どうしよう?
 慌てふためく僕。明日も同じパンツを穿けばいいだけのことなんですが、風呂に一週間入らなくても平気なくせに、妙なところで潔癖性だったりするから厄介です。
「2日続けて、同じパンツなんて穿けるかっ!」
 ウンがついてるかもしれないからオッケー……などと呑気なことはいってられません。
 今から洗濯するか? いや、それも面倒だし、もし明日の朝までに乾かなかったら悲惨だ。うーん、どうしよう? どうしよう? グレイのパンツなら持ってるんだけど……これを真っ赤に塗るか? いや、でも絵の具がないぞ。隣ですやすやと眠っている友人を刺し殺して、その血で染めてやろうか。うひうひうひ。
 などと危険なことまで考えながら結局、3日目は裏返して穿くことにしました。勝負パンツを裏返した結果は……いや、過ぎたことです。もう忘れました(涙)。来年は、勝負パンツを3枚持っていくことにします。

 さて、スキー場のジンクスといえば、実はほかにもいろいろありまして。
 たとえば、スキー場では絶対にお金を拾わないことにしているんですが……あ、枚数が足りないや。その理由は、また次回にでも。

 では今からまた、オリンピック観戦に戻りたいと思います。頑張れ、日本! 踏ん張れ、日本! シリコンバレーはアメリカだっ!(本文中、敬称略)

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