VOCADOL 11

FILE.003 ラピス誘拐事件（４）

▼MAP004-2 名古屋市千種区

（地下鉄 覚王山駅）

【MIZKI】
「ここから南へ進めば、川崎町にたどり着くはずだけど……南ってどっちかしら？」

【cul】
「よく考えてみたらボクたち、そろいもそろって方向音痴なんだよね」

「しまったなあ。勘のいい鳥音でも連れてこればよかった」

【MIZKI】
「迷子になってる暇はないわ。向こうからスーツ姿の女性が歩いてくる。あの人に訊いてみましょう」

【cul】
「大丈夫か？　あの人、分厚い地図を広げながら歩いてるけど」

「もしかして迷子になってるんじゃない？」

【lily】
「日本のコトワザにあるでしょう？　アタッテクダケロです。とにかく声をかけてみましょう」

【MIZKI】
（あれ？　……なんだかいいにおいがする）

「あの……すみません。私たち、川崎町に行きたいんですけど、こちらの方向で合っているでしょうか？」

【秋本ハル】
「川崎町って千葉県の？　それとも滋賀県？　あるいは兵庫？　三重？　一体、どこの川崎町なの？」

【MIZKI】
「え？　川崎町ってそんなにたくさんあるんですか？」

【秋本ハル】
「あたしの記憶が確かなら、川崎町と表記される地名は全国に20あるはずだけど」

彼女はそう答えると、背負っていたカバンの中から、さらに分厚い地図を取り出しました。

どうやらこの人、相当な地図マニアのようです。

【秋本ハル】
「全部、教えましょうか？　北から順番に行くわよ。岩手県は２つあって一関市川崎町と久慈市川崎町。宮城県は柴田郡川崎町、福島県岩瀬郡鏡石町川崎町。茨城県も２つあって龍ケ崎市川崎町と常総市川崎町。栃木県は足利市川崎町」

【MIZKI】
「あの……もう結構です。私たち、急いでいるので」

【秋本ハル】
「それから千葉県千葉市中央区川崎町、新潟県長岡市川崎町、福井県敦賀市川崎町、岐阜県各務原市川崎町、愛知県名古屋市千種区川崎町」

【cul】
「ああ、そこだ。名古屋市千種区の――」

【秋本ハル】
「黙って最後まで聞きなさい。愛知県はまだあと２つあって豊橋市川崎町、半田市川崎町。三重県は桑名市川崎町と亀山市川崎町。西へ移動して、滋賀県長浜市川崎町、兵庫県明石市川崎町、香川県坂出市川崎町、福岡県田川郡川崎町。以上で20。ちなみに、神戸市には東川崎町という地名もあるから、それを含めたら21ね」

【MIZKI】
「私たちが向かっているのは名古屋市内の川崎町です。すぐ近くに学校があるそうなんですけど、どのあたりかわかりますか？」

【秋本ハル】
「名古屋市内の川崎町ならすぐそこよ。でも、町内に学校なんてないはずだけど」

【MIZKI】
「……え？」
（ということは、ラピスが監禁されている場所は、別の川崎町なのかしら）

【秋本ハル】
「なんだかお困りのようね。だったら、この地図をあげるわ。きっと、なにかの役に立つでしょうから」

【MIZKI】
「え？　いいんですか？」

【秋本ハル】
「困ったときはおたがいさまよ。目的の場所にたどり着けるといいわね」

【MIZKI】
「はい。どうもありがとうございます」

（コーヒーハウス）

【MIZKI】
「ねえ。私たち、一刻も早くラピスを助け出さなくちゃいけないのよね？」

「それなのにどうして、こんなところでのんびりとくつろいでるわけ？」

【cul】
「ラピスがどこにいるかわからないのに、闇雲に歩き回ったって仕方ないだろ？」

「ここは一度腰を据えて、彼女の居場所をじっくりと考えてみなくちゃ」

【MIZKI】
「でも、こうしている間にもライブの開催時刻は迫ってるのよ。もし間に合わなかったら――」

【lily】
「落ち着いてください。ハラガヘッテハイクサハデキヌというではありませんか」

「このスイーツ、ベリベリデリシャスですよ。MIZKIもひと口食べてみたらどうです？」

【MIZKI】
「いらないわ。ラピスのことが心配でなにも喉を通ら……あら、美味しい」

【lily】
「ホットなパンケーキの上に、コールドなソフトクリームを乗せて食べるなんて、名古屋の人は面白いことを考えますね」

【MIZKI】
「……もうひと口もらってもいいかしら？」

【cul】
「甘いものを食べたら、頭の回転もよくなったんじゃないか？」

「さあ、考えよう。ラピスが監禁されている場所は一体どこだ？」

【MIZIKI】
「まさか、日本全国に20以上も川崎町があるなんて思いもしなかったから」

「ラピスはどこかといわれても……うーん……全然わからない。どうしよう？」

【真壁ふわり】
「お客様。なにかお困りですか？」

【MIZKI】
「あ。ウェイトレスさん」

「……いえ。ちょっと探し物をしていまして」

（このウェイトレスさん。とってもいいにおいがする）

（さっきもどこかで、同じようなにおいを感じなかったっけ？）

【真壁ふわり】
「あら。私、探し物を見つけるのがすごく得意なんですよ」

「よろしければ、失くしたものを見つけ出す極意をお教えしましょうか？」

「きょろきょろとあちこち見回したって、失くしたものは出てきません」

「しっかり足もとに目をやること。そうすればきっと、探し物は見つかります」

【MIZKI】
「……足もと？」

【lily】
「足もとにはパンケーキのカスが落ちてますね」

「ウェイトレスさん。スイーツのお代わり、お願いします」

つづく