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下手の横スキー04

第4回 スキーv.s.スノーボード

 実業之日本社より、人気ミステリ作家東野圭吾さんの最新刊『ちゃれんじ?』が発売されました。四十歳を超えてスノーボードにはまった著者の奮闘、転倒、歓喜の日常が描かれた爆笑エッセイ。僕も「爽やか好青年」として(?)、ほんのちょっぴりですが登場してますんで、皆さんぜひぜひご一読くださいませ。

『ちゃれんじ?』東野圭吾 角川文庫https://www.amazon.co.jp/dp/4043718055/

 さてそんなわけで、今回はスノーボードのお話。といっても、僕はスノーボードのことなんてほとんどなにも知りませんし、告白してしまうと、スノーボーダーを憎んだ時期さえありました(えーと、スノーボードを愛する皆さんには、この先偏見に満ちた不快な文章が続くことになると思いますが、どうかお許しを)。

 スノーボーダーの数が急増したのは、今から十年ほど前だったと記憶しています。最初の頃は、かなり戸惑いました。それまでみんなが仲良く散歩を楽しんでいた公園に、突如得体の知れないパフォーマンス集団が現れ、暴れ始めたような感じ……といったら、わかっていただけますでしょうか(よけいにわかりにくいか?)。
 予測不能な動きで我々スキーヤーをびびらせ、かと思うと、今度はゲレンデの真ん中に座り込んで邪魔をする……その結果、それまで平和だったスキー場は、かなり居心地の悪い空間へと変化していったのです。

 重力を利用して斜面を滑り降りるという点で、スキーとスノーボードはかなりよく似ていますが、動き方や描かれるシュプールがまるで異なるわけですから、おたがいがおたがいの邪魔になるのは当然のこと。でも、あとからこの聖地へやって来たくせに、我が物顔に振る舞うスノーボーダーがどうしても許せなかったんですね。

 さすがにあれから十年も経ってしまうと、今の状態に慣れてしまって、もう腹を立てることもありませんけど、スキー族とスノーボード族──ふたつの勢力の確執は、今も水面下で続いていると思います。
 具体的に、スノーボーダーのどういうところに怒りを覚えるのか、またそれとは逆に、スノーボーダーはスキーヤーのことをどう思っているのか、知人やネットから情報を収集して、対談形式(ってゆーか口喧嘩?)で以下にまとめてみました。

スキーヤー(以下スキーと略)「ボーダーは、ゲレンデの真ん中に座り込むなっ! 邪魔になってしょうがない」

 おおっと。いきなり強烈なジャブだあ。おそらく、ほとんどのスキーヤーが一度は感じたことだと思います。両足が固定されているため、一度転んでしまうと、なかなか移動できないのはわかりますが、中には座り込んだまま呑気に煙草を吹かしている人なんかもいて、そーゆーのを見ると、やっぱり腹が立っちゃいますね。

スノーボーダー(以下スノボと略)「だったらいわせてもらうけどな、ダンゴ状態に固まって、ゲレンデの真ん中で講習を行なっているスキーヤーの集団も、かなり鬱陶しいぞっ!」

 う……講習好きの僕としては、耳に痛いお言葉。一応、周りに気を配っているつもりなんですけど、関係ない人にとっては、ものすごく邪魔に感じるのかもしれません。

スキー「リフト降り場の周辺に、うじゃうじゃと座り込まれるのは迷惑だっ!」

 これもスノーボードの性質上(リフトを降りたあとで、ボードを装着しなければならないので)、仕方ないことだとわかっていながらも、進路をふさがれるとやっぱりイライラしちゃいます。最近はマナーもずいぶんとよくなって、皆さん端のほうに寄ってくれるため、花道を歩いているみたいで、逆に気分がよかったりもするんですけど。

スノー「リフト待ちの行列に並んでいるとき、狭い場所にぐいぐいとスキー板を割り込ませてくるなあっ!」

 ああ、これは文句をいわれても仕方がないか。ストックで隣のスノーボードに傷をつけちゃったという経験もありますし。反省。

スキー「なんの前触れもなく、いきなりジャンプするなっ!」

 なにが一番怖いって、前方を滑るスノーボーダーの動きがまったく予測できないこと。とくに、突然ジャンプされ、しかもそのままコケたりされると、かなり焦っちゃいます。

スノボ「キッカー(ジャンプ台)の前に突っ立って、おしゃべりするなっ! レールに座るなっ!」

 レールというのは、雪の上に設置された金属パイプのこと。スノーボーダーはその上を滑ったりするんですが、スキーヤーはそれをベンチだと思っちゃうんですな。

スキー「滑走禁止エリアを滑るなっ!」

 圧雪されてない場所ってのは、スノーボーダーにとってかなり魅力的なものらしいんですけど、やはりルールは守ってもらわないと。まあ、ルールを破っているのは、スノーボーダーばかりではありませんけどね。

スノボ「同じラインを何人も連なって滑るなっ!」

 トレーン(第2回参照)が邪魔だってことでしょうか? これもあんまり、深く考えたことがありませんでした。でも確かにいわれるとおりかもしれないなあ。

スキー「なんでスノーボーダーはケツ毛が濃いんだっ!?」

 ……え?

スノー「見たんかいっ? スキーヤーは禿げたオヤヂが多いから、羨ましいんじゃねえの?」
スキー「うるせえ。おまえらこそ、茶髪ばっかりで全然個性がないじゃん。ちゃらちゃらした格好ばかりしやがって」
スノー「スキーヤーの格好がダサすぎるんだよ」
スキー「ニキビ面が気持ち悪いっ!」
スノー「息がくせえよ。加齢臭もするし」
スキー「若造がなに粋がってるんだ。レストランで食事もできない貧乏人のくせに!」
スノー「そーゆーところがスキーヤーは説教くさいんだっ!」

 うーーん、このあたりになってくると、「スキーヤー、スノーボーダーのココが嫌いっ!」じゃなくて、「オヤヂ、若者のココが嫌いっ!」になっているような気もするけど……。「スキーヤーV.S.スノーボーダー」の闘いって、実は「オヤヂV.S.若者」の闘いとイコールで結ばれるのかもしれませんなあ。

 異文化交流ってのは、ホント難しい。スキーヤーにはスキーヤーの事情が、スノーボーダーにはスノーボーダーの事情があるわけですが、みんな自分の物差しで相手を測ろうとするから、どうしてもそこに摩擦が生じちゃうんですね。

 これまで、スノーボーダーと滑る機会などほとんどなかった僕ですが、東野圭吾さんと雪山へ出かけるようになって、自分があまりにも無知だったことを思い知らされました。
 たとえば、コースの途中で休もうと思ったとき、スキーヤーなら比較的斜度のない場所に止まろうと考えます。そのほうが休憩しやすいし、安全だからです。
 でもスノーボーダーの場合は、いったん平地に止まってしまうと、次に動き出すときが大変。できれば、そういう場所には止まってほしくはないそうで。なるほど、説明されればまったくもってそのとおりだとわかるわけですが、そんなことには今までまったく気づきませんでした。

 若者のスポーツだから。スキーよりも危険だから。尻毛が濃くなるから(?)。そんな理由で、なかなか手を出すことができなかったスノーボードですが、僕より十歳以上年上でありながら、ガンガンとスノーボードを操る東野さんを見ていると、「よっしゃ! いっちょう僕もチャレンジしてみようかな」って気にさせられます。スノーボードを始めれば、スキーだけをやっていたときにはまったく見えなかった事柄が、いろいろと見えてくるかもしれませんし。

 とはいうものの、みっともない姿は見せたくない。そこで、自宅で鏡に向かってこっそり練習を開始。スノーボードなんて持ってないから、アイロン台を代用して、腰をくねくねと動かしてみる。……むむむ。所かまわず発情しまくってる危ないオヤヂにしか見えないぞ。なぜだ? もっとこうカッコよく腰を動かせないものか。なぜさかりのついた犬になる?
 ……どうやら僕のスノーボードデビューは、まだまだ先のことになりそうです。

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