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下手の横スキー28

第28回 クラブ対抗戦、迫る

「神様、お願いです」
 天を仰ぎ、ひたすら祈り続ける僕。
「フォーメーションの練習ができる期間は、あと1日しか残されていません。天気予報によると、明日はかなりの確率で雨らしいのですが、どうか神様の力で晴天にしていただけないでしょうか?」
 すると突然、空から七色の光が舞い降りてきて、
「ふぉっふぉっふぉっ」
「ああっ! その声はもしかして」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「もしかして……バルタン星人?」
「どーだ、ウルトラマン。スペルゲン反射鏡の威力を思い知ったか。いや、そうじゃなくてわしは神様ぢゃ」
「ノリツッコミをする神様というのも珍しいですね。でも、そんなことはどうだっていいんです。あなたが本当の神様だというのなら、ぜひお願いがあります。どうか、明日を晴天にしてください!」
「なに? アシカをセイウチにしてください? それはできん相談ぢゃ。せめて、オットセイくらいならどうにかなるんぢゃがのう」
「一体、どんな耳をしてるんです? そうじゃなくて、雨が降らないようにお願いしてるんですけど」
「雨が降らないように? 残念ながら、その願いごとは受け容れらレイン」
「えーい、おのれは小学館の学習雑誌の付録についてくるダジャレブックかっ! ふざけるのもいい加減にしろ! くたばっちまえ!」
「♪アーメん」
 神様のくそつまらないダジャレに脱力しながら目を覚ますと、外はどしゃ降りの雨。クラブ対抗戦前日の天気は、悲しいことに予報どおりとなってしまいました。

 こりゃ、ダメかも。

 いつも持ち歩いている手帳に、力強い文字で「目標は優勝!」と記していたのですが、それを消して、「目標は入賞!」に書き換える弱気な僕。
 しかし目標をワンランク下げたからといって、練習を中止するわけにはいきません。
「ええ? こんな天候の中で、本当に練習するの? 風邪ひいちゃうよお」
 愚痴をこぼすメンバーを無理矢理引きずって、ゲレンデへと赴きましたが、うひゃあ、想像を絶する濃霧で、なんにも見えやしない。これじゃあ、練習なんてできません。
 仕方なく、いったん屋内へ戻って、霧が晴れるのを待ちましたが、天候は回復するどころかますますひどくなるばかり。
「今日はもう無理だよお」
「明日、早めに会場へ行って、そこでみっちり練習したほうがよくない?」
 いや、そうしたいのは山々なんですが、僕は今夜締め切りの仕事を抱えていたので、いったん自宅へ戻らなくてはなりません。さらに、明日は自分の車に地元クラブ員を3名同乗させて会場に向かわなければならず、早朝から現地で練習をするのは、到底無理な話。
 その旨を伝えると、
「入賞したいんでしょ? だったら、それくらいなんとかしてください」
 と厳しいお言葉。
 ふええええん。なんとかしろっていわれてもおおおお。どうしよう?(焦りまくり)
 とりあえず、このまま待っていてもらちが明かないので、車を走らせて自宅へ帰還。パソコンに向かって原稿を書きながら、僕の車に同乗する3人へ電話をかけることにしました。
 もともと決められていた集合時刻は午前6時。しかし、僕の早朝練習につき合って早く出発する場合、少なくとも午前3時には集合しなくてはなりません。果たして、みんなOKしてくれるでしょうか?
 えーと、同乗するメンバーは誰だっけ? 僕のわがままにこころよくつき合ってくれる人ならいいんだけど……。
 参加者名簿に目をやり、同乗者をチェックします。
 まずは、Aさん。ああ、あの子はおとなしくて素直な子だから、たぶん大丈夫だろう。それから、Bさんか。うん。彼女も思いやりのある優しい人だから問題ナシ。よしよし。これなら、なんとかなりそうだぞ。残りの1人は……。

 三林ケメ子

 あああああああ。ダメだ、ダメだああああ。
 机に突っ伏し、泣き叫ぶ僕。
 あの女王様が、OKするわけないぢゃん!
 しかし彼女を説得しなければ、早朝の練習は不可能。そうなったら、入賞なんて夢のまた夢です。
 萎えかけた気持ちを無理矢理奮い立たせ、ナセバナルナサネバナラヌナニゴトモと、呪文のように繰り返しながら、三林ケメ子に電話をかけました。
『はい。雪原にきらめく200カラットのダイヤモンド、三林ケメ子です』
「あのさ……お願いがあるんだけど……」
『ほーっほっほっほっ。あなたがあたしに頼みごとをするなんて、珍しいわね。なあに? あたしの美貌の秘密でも知りたくなった?』
「いや、そうじゃなくて……明日の出発時刻、少し早めてもらってもいいかな?」
『ほーっほっほっほっ、面白いことをおっしゃるわね。ほーっほっほっ』
「はは……ははは……」
『ほーっほっほっ』
「じゃあ、そういうことでいいかな?」
『ふざけんなあああああっ!』
 雷、直撃。
『あたしの貴重な睡眠時間を奪おうっていうの? 体調を壊したらどう責任を取ってくれるのかしら? そこまでして、あたしに勝ちたいわけ? き、汚いわっ! 男なら、正々堂々と勝負しなさい!』
 予想どおり、にべない返事が戻ってきました。
 仕方ない。こうなったら、同乗者を説得するのはあきらめて、僕の代わりに車を出してくれる人を探し出し、僕は一人で会場へ向かうしかありません。
 そのあとはたくさんの人に電話をかけ、ぺこぺこと頭を下げ、「明日のフォーメーションでは、絶対に入賞しますから!」と約束を交わし、なんとか代わりの車を見つけ出すことに成功したのでありました。
 ああああああ。疲れたよおおお。こんな調子で、明日の大会は大丈夫なのかしら?

 さてさて。そんなわけで、大勢の人に迷惑をかけた末、早朝に大会会場へと到着。
 昨日の雨が嘘みたいに、空は晴れ渡っております。しかも、真冬に逆戻りしたかと思わせるようなものすごい寒さ。いったん緩んだ雪が、再び凍ったため、ゲレンデはカチカチのアイスバーン状態。僕のもっとも苦手とする雪面です。
「…………」
 手帳を取り出し、「目標は入賞!」と綴った一文を、「目標は完走!」に書き換える僕。
 運命のときは、あと数時間後に迫っています。
 大丈夫か、研二? ジャイアン役の男の子は、メガネをはずすと、ちょっぴり羽賀研二に似ているぞ!

★お知らせ★
 現在発売中の『ダ・ヴィンチ』6月号「Monthly e-NOVELS」コーナーに、「初めてのスキー」というエッセイを書きました。そちらもどうぞよろしく。

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