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アンラッキーガール 06
1 バー〈孔雀〉(承前)
麻里 「気持ちがスッキリしたら喉が渇いちゃった。ママ、おかわり」
翔子 「ちょっと、大丈夫?」
麻里 「まだまだ大丈夫だってば」
翔子 「これが最後だからね」
カウンターにグラスを置く翔子。
麻里 「(グラスを持ち上げて)あ、お酒が少ない。もっとたくさん入れてよ」
麻里、カウンターの中に入っていく。
麻里 「あれ? これってママの服?」
カウンターの奥から派手な帽子とコートを取り出す麻里。
翔子 「そう。あたしの私服」
麻里 「はおってみてもいい?」
翔子 「かまわないけど」
帽子とコートを身に着ける麻里。
茜 「うわあ、派手! 目がチカチカしちゃう」
翔子 「お店の名前が〈孔雀〉だからね。お店の名前に負けないようにあたしも派手にしないと」
麻里 「お店そのものは地味なのにね」
翔子 「ちょっと麻里ちゃん。元気になった途端、お店の悪口?」
菜々美 「……麻里?」
雑誌から目を離し、カウンターのほうを振り返る菜々美。
菜々美 「間違いない。日向麻里――あの女だ」
ナイフの入ったバッグを握りしめ、立ち上がる菜々美。
麻里 「(いきなり口もとを押さえ)うっ……」
茜 「どうしたフーコ? フーコはもういいか。どうした麻里?」
麻里 「気持ち悪い……」
翔子 「ほら、いわんこっちゃない。飲みすぎるから」
麻里 「ちょっとトイレ」
菜々美 「……トイレ? そうだ。先にトイレで待ち伏せして、あとからやって来たあの女をナイフでブスリとひと突きしてやる」
トイレへ駆けこむ菜々美。
カウンターを離れ、よたよたとトイレへ向かう麻里。
麻里 「ダメ……吐きそう」
翔子 「ちょっと。お願いだから、コートを汚したりしないでよ」
麻里 「(ふらふらしながら頭上に丸を作り)大丈夫……大丈夫ですって」
翔子 「全然、大丈夫じゃない」
茜 「酔っぱらって財布を落としたりしないでよ」
翔子 「心配しすぎだってば。明日、タケルさんとデートする予定だったから、さっき五万円おろしてきたばかりなの。そんな大金が入った財布を、いくら酔っぱらってるからって簡単に手放すわけないでしょ。私はそんなドジじゃありません」
茜 「そんなドジだから心配してるんだってば」
ルカ 「(聞き耳を立てて)大金? ひどく酔っぱらってるみたいだし、今日のお客さん見ーつけた♪」
忍び足でゆっくりとトイレに向かうルカ。
トイレ内で息をひそめ、ナイフを握りしめる菜々美。
麻里 「(トイレのドアを開けて)あは。世界がぐーるぐるぐーるぐるって回ってる。(バランスを崩してその場に倒れこみ)いてててて。転んじゃった。もしかして私、酔っぱらってるのかな?」
麻里の背後にゆっくりと近づく菜々美。ナイフを振り上げたところに、ルカが飛びこんくる。慌てて、ナイフを隠す菜々美。
菜々美 「あは。この人、かなり酔っぱらってるみたい。大丈夫かな?」
ルカ 「(麻里のそばに駆け寄り)お姉さん。しっかりして」
菜々美 「介抱はあなたにお任せして、あたしはこちらの個室を使わせてもらってもいいかしら?」
菜々美、下手側に退場。
ルカ 「(麻里の背中をさすりながら)気持ち悪かったら、ここに吐いちゃってもいいから。……財布、見ーつけた。(周囲を見回して)では遠慮なくいただきます」
麻里の財布を自分のポケットにしまいこむルカ。
つづく
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