見出し画像

CASE29 サンタクロース殺人事件《問題編》

 まもなくやって来るクリスマスに備え、銭山警部は昨夜から眠ることなく巨大な靴下を編み続けていた。
 聖夜に思いをめぐらせ、むふふと笑みをこぼす。プレゼントの贈り先は、もちろん黒田ちゃんだ。この靴下の中に全裸でもぐり込み、彼の眠るベッドのそばへ横たわる計画だった。
「いやああああ。ぜにーちゃんったら大胆すぎるううううっ!」
 興奮のあまり、鼻血を垂らす銭山警部。とそのとき、玄関のドアが強くノックされた。
「もしかして黒田ちゃん? あたしの愛に気づいて、彼のほうから駆けつけてくれたのかしら? いやあね、気が早いわよ。クリスマスはまだ来週――」
 ドアを開けると、そこにはトランクス以外なにも身につけていないガチムチ体格の男が二人立っていた。
「あら、ステキ♪」
 発達した胸筋に目を奪われる銭山警部。
「あの……どんな難事件もたちどころに解決してしまうと評判の銭山警部ですよね?」
 右側の男が丁寧な口調でいった。酒でも呑んだのか、全身が真っ赤に染まっている。
「実は、どうしても解決していただきたい事件がございまして」
 続けて、左側の男が口を開いた。こちらは青白い肌。寒空の中、ほぼ裸に近い格好をしているのだから、当然といえば当然だ。
「私たち、鬼が島からはるばるやってまいりました」
「……え? 鬼が島?」
 目をこすり、二人の姿を凝視する。驚いたことに、彼らの頭からは二本の立派な角が生えていた。トランクスはトラジマ模様。右手には太いこん棒を握りしめている。
「あなたたちってもしかして……」
「申し遅れました。赤鬼です」
「青鬼です」
 そういって、彼らはぺこりと頭を下げた。
「鬼? 節分にはまだ早いと思うけど。あ、なに? あなたたち、あたしを食べるつもりなの? いやああああっ! 食べられるのはいやっ! それより、その太い棒をあたしの大事なところにぶち込んでええええっ!
「あの、落ち着いてください」
 取り乱した警部を、赤鬼がなだめる。
「心配しないでください。僕たち、ゲテモノ食いの趣味はありませんから」
「じゃあ、なにしに来たっていうのよ?」
「だから、解決していただきたい事件があるんですってば」
「事件? なにが起こったの?」
「実は先日、サンタクロースの生け捕りに成功しまして
「は?」
「僕たちの大好物は、人間のロース肉なんです。そこで一度、サンタクロースを食べてみようということになりまして。名前にロースとつくくらいですから、サンタクロースのロースは間違いなく美味だと思いませんか?
 そういって、赤鬼は舌なめずりを繰り返す。
「クリスマスに食べようということになり、サンタクロースの世話は小間使いに任せておくことにしました」
「ちょっと待って。小間使いってなに?」
「人間世界からさらってきた少女です。働き者なので助かっています。彼女に任せておけば安心と思ったのですが、今朝起きてみると、サンタクロースは骨だけになっていました」
「クリスマスまで待つことができず、こいつが食べてしまったに違いないんだ!」
 それまで黙っていた青鬼が、赤鬼を指差して叫んだ。
「なにをいってやがる? おまえが食べたんだろう? 正直に白状しろよ」
 しかし、赤鬼も負けてはいない。
「俺は朝までずっと、コンビ二のレジ打ちのバイトをやっていたんだぞ。食べる暇なんてあるわけないだろう?」
「俺だって、昨夜はビルの清掃に出かけていたんだ。抜け駆けなんてできるわけがない」
 どうやら、鬼の世界もいろいろと大変らしい。
「というわけで、どちらがサンタクロースを食べたのか、ぜひともあなた様に推理していただきたいのですが」
 鬼たちに深々と頭を下げられては、無下に断ることもできない。
「わかったわ。じゃあ、誰がサンタクロースを食べちゃったのか教えてあげる」
 ぴくぴく動く二人の胸筋をうっとり眺めながら、銭山警部はゆっくりと口を開いた。

《ぜにーちゃんからの挑戦状》
 サンタクロースを食べてしまったのは誰なのかしら? あなたも推理してみてね。うふ。

※解決編はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?