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下手の横スキー12

第12回 恐怖の3月5日~ジンクス(3)

 1999年3月5日、野沢温泉スキー場において肩を脱臼した哀れな男・黒田研二。
 どうやら、「3月5日の野沢温泉」というのは、僕にとって不幸を呼び寄せる魔空間だったみたいです。
 翌年、翌々年と、僕にはさらなる恐怖が待ち受けておりました。
 そんなわけで、今回は当時綴った日記を公開しちゃいましょう。……え? 手抜き? ち、違わいっ!(焦りまくり)

【2000年3月5日(日)】
 昨年3月5日は野沢温泉スキー場にて、肩を完全脱臼した記念すべき日でありました。
 今年は、明後日に大事な約束が控えていることもあり、絶対に怪我などできず──でも、野沢まで来て慎重に滑るのもイヤだったんで、一応それなりに注意しながら、コブ斜面ばかり攻めまくっていたのですが……。
 ぎゃあああああ。今年もやらかしちゃいました。
 昨年に引き続き、ぽっきりとまっぷたつ。奇しくも、昨年と同じ日にやってしまうとは……。
 いや、心配ご無用。折れたのは板です、スキー板。
 一体、いつ折れたのやら。滑っている最中は全然わからなかったんですが、「さあ、もう一度ゴンドラに乗ろう!」と、スキー板をはずして左右そろえてみると、あらららら、なんだか曲がってる。よおく見ると、右の板がビンディングの後ろからぽっきりまっぷたつ(涙)。
 買ったばっかりなのにいいいい。今シーズン、8万も出して買った板なのにいいい(号泣)。
 明日は、レンタルスキーで我慢するしかないか。

 ね、呪われてるでしょ?
 え、ただの偶然だろうって?
 そんなことありません。この翌年には、もっと恐ろしいことが起こったんですから。
 こちらは事件の起こる2日前の日記からどうぞ。

【2001年3月3日(土)】
 野沢温泉スキーツアー初日。ぽかぽか陽気で、どんどん雪が削られていき、いたるところにコブ、コブ、コブ。僕のグループは最初6名でスタートしたんだけど、途中、1人が腰を痛めてリタイア。さらに1人がほかのスキーヤーと接触して病院へ。続く1人は足のマメが潰れ、これまたさようなら。午後はわずか3名での講習となってしまいました。むむむ。最後まで生き残るのは果たして誰か? うーん、とってもスリリング。
 途中、足を捻挫したのか、パトロール員の肩にもたれかかりながら、ゲレンデを歩いていく外国人とすれ違う。「ああ、あの人も怪我をしたんだ。可哀想に……」と哀れみの視線を向けると、突然、その外国人、僕に親指を立て、ウィンクしながら「OH! 野沢、最高ネッ!」と叫んで去っていきました。外国人、強し。
【2001年3月4日(日)】
 野沢温泉スキーツアー2日目。午前中はあいにくの雨。雨水が容赦なく、下着の奥まで染み込む、染み込む、染み込む……。かと思ったら、午後から急に冷え始め、雨は雪へと変化。濡れたウェアはバキバキに凍りついて、全身冷凍人間状態。次第に視界も悪くなり、「なんでこんな思いまでして滑らなくちゃならないんだろう?」と半ベソ状態。
 しかし、山の天気は変わりやすい。夕方近くになると、突然晴れ渡り、一気にベストコンディションに。ちょうど、見晴らしのよいスカイラインコースを滑っていたこともあって、まるで映画のワンシーンでも見ているような美しい光景にぽわわわわわぁん。これで隣に可愛い女の子でもいたら、たぶん恋に落ちてました。残念ながら隣にいたのは、むさくるしいおぢさんばっかりだったんだけど。
 昨日の時点で3名が生き残っていた恐怖のサバイバルゲーム。本日、1人が足を捻挫して、残りは2人になりましたとさ。わはははは。笑いごとじゃないって。さあ、最後に生き残るのどちらか? 今のところ、僕のほうが分が悪そう。
 なぜなら、明日は恐怖の3月5日。一昨年の3月5日はここ野沢温泉スキー場で転倒――肩を脱臼し、昨年の3月5日はやはりここ野沢温泉スキー場で買ったばかりのスキー板をぽきりと折ってしまったのだ。今年もなにかあるのではないかとハラハラドキドキ。「肩→板」と続いたのだから、韻を踏んで、次は「股」じゃないかと予想する人多数。ああああ、股だけはやめてくれええ。股をぶつけて、タマが潰れでもしたら、今後の楽しみがひとつ減ってしまうではないか。いや、逆に新たな楽しみが増えるかも。それはそれでいいか。むふふふふ。あけみでええす♪ おにいさん、あたしのこ・の・み♪ ――と、よからぬ妄想にふけりつつ、しかし今年もマジでなにか起きるんじゃないかと、そんな不安を押さえきれず、ついつい地酒を飲み過ぎてしまう。どうか明日を無事に越せますように。なーむー。
【2001年3月5日(月)】
 午前2時。草木も眠る丑三つ時。まさか、こんな早くに悲劇が起こるとは予想していませんでした。
 トイレにうずくまり、嘔吐を続ける私。ああ、馬刺が、野沢菜が、地酒が、滝のように便器の底へと滑り落ちていく。もったいない……。
 そこまで飲んだつもりはなかったのだが、珍しく重度の二日酔い。朝になっても気分はよくならず、でも最終日なんだからと、ストックを杖代わりによたよたと出発する。
 最大の難関はゴンドラ。野沢温泉の立ち乗りゴンドラは、普通に乗っていても酔ってしまうくらいなんで、今にも吐きそうな自分に耐えられるかどうか。密閉されたゴンドラの中で、ゲロったりしたら、たぶん乗客全員の袋叩きに遭い、山中へ放り出されてしまうに違いない。胃がぐるるとなる。定期的に迫り上がってくる酸っぱい胃液を飲み込みながら、ただひたすら耐える。新鮮な空気を吸えば、まだ少しは気分が楽になるのかもしれないが、深呼吸をすれば、酒くさい息が周りに漏れてしまうので、それもままならない。おまけに、昨日の雨でぐっしょり濡れた手袋が、この世のものとは思えぬ悪臭を放っており、それがさらに吐き気を誘う。さらにさらに、こんなときに限って、「あそこのレストハウスのカレーライスがうまい」だの、「ケーキはどうかな?」だの、周囲の人間が食い物の話をするもんだから、ホント死ぬかと思ったわさ。
 なんとか持ちこたえ、山頂までやって来たものの、ゲレンデは猛吹雪で視界ゼロ。方向感覚がまったくない真っ白な場所を、ふわふわ飛んでるような感覚で滑っていたら、ますます気分が悪くなってきて、結局、数本滑っただけでダウン。帰りのバスの出発時刻まで、うんうんうなりながら寝ておりました(涙)。サバイバルゲームは、二日酔いで1人脱落。……一番情けないリタイアの仕方だな。
 ってわけで、「肩、板、股」の予想ははずれ、「肩、板、吐いた」だった3月5日でした。
 やっぱり、この日は呪われてるな。来年がこわひ。

 これ以降、3月5日の野沢温泉には出かけておりません。
 もし出かけたら、一体次はどんな惨劇が待ち受けているやら。
 「肩、板、吐いた」の次はなんだろう? まさか、月形半平太? 月様、麺が。はるさめじゃ、食べて行こう。ずるずるずるうううっ。って、わけわからんわい。

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