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下手の横スキー67

第67回 ホットワクシングを楽しむ

 先日、プレーンオムレツを食べながらテレビを眺めていたところ、エクストリームアイロニングなるものが紹介され、そのあまりのくだらなさに、口の中のものをぶほっと吐き出してしまいました。宙を舞うプレーンオムレツ(唾液入り)。うわあ、飛行機みたい♪ これがホントのプレインオムレツ。おーい、山田くーん。

 それはさておき。
 いやあ、すごいっすよ、エクストリームアイロニング。山や海などの厳しい自然環境下で、涼しい顔をしながらアイロンがけを行なうという、イギリス発祥のスポーツなんだそーな。……これってスポーツなのか?
 興味のあるかたは、「エクストリームアイロニング」で検索してみてください。本気なのか冗談なのかよくわからないサイトが見つかりますから。
 海でサーフィンをしながらアイロニング、スカイダイビングをしながらアイロニング、断崖絶壁の山頂でアイロニング、ボンベを背負って海中でアイロニング(それって、アイロンをかける意味があるのか?)などなど。
「どうして、そこまでアイロンがけにこだわるんですか?」
 インタビュアーの質問に、アイロニストは胸を張って答えておりました。
「そこにしわがあるから」
 …………。
 凡人の僕にエクストリームアイロニングの魅力はさっぱり理解できませんが、しかし、アイロンがけの楽しさってのはなんとなくわかります。いや、衣服のしわを伸ばすためのアイロンがけは、ほとんどやったことありませんけどね。
 そう! スキーヤーのアイロニングといえば、それはワックスがけ。
 ってなわけで、今回はワクシングのお話です。

 ♪あたしの脇は~ ちょっと汗くさい~
 だけどもそれは~ 青春の証~ 
 ああ! 脇 脇 脇 脇 ワッキー&翼
 8×4(エイトフォー)は欠かせないの~
 ああ! 脇 脇 脇 脇 和気あいあい
 そんなあたしはワッキーガール

 ……いや、それは脇ソングだから。
 もとい。
 滑走性を高めるため、スキー板には定期的にワックスを塗らなければなりません。滑走面にゴシゴシとこすりつけるだけでOKの簡易ワックスもありますが、今回ご紹介するのは、もう少し手間のかかるホットワクシング。ホットワクシングではアイロンが大活躍します。
 では、ホットワクシングの方法を、ものすごく大雑把にご紹介。

1)固形ワックス(ロウの固まりみたいなもの)を用意します。種類によって色分けされてますので、テキトーなものを選んでください。ピンク系は興奮します。
2)アイロンで固形ワックスを溶かし、スキー板の上へポタリポタリと垂らします。SMプレイみたいなものだと思ってもらえればOK。ピンク系は興奮します。
3)垂れたロウは、滑走面上で丸く固まります。SMプレイが終わって、ひと息ついてるオジサンを想像してみてください。このまま家に帰ったら、「あんた、身体についたそのロウはなによ?」と怒鳴られること間違いナシ。オジサンを助けるために、丸くなってこびりついたロウの固まりを、アイロンがけで均一に伸ばしちゃいましょう。ピンク系は興奮します。

 3の作業が、実に楽しいんですよ。滑走面にアイロンを当てて動かすと、ロウの固まりが引き伸ばされ、薄い膜になって、スキー板の上に貼りついていきます。アイロンを当てるたびに、デコボコだった滑走面が綺麗になっていくのが快感で……。ピンク系だと興奮します。しつこいって。

 うーん、これだけの説明では、楽しさが伝わらないかなあ? 凹凸のたくさんある木片にカンナをかけて、表面をツルツルにするような快感っていえば、多少はわかってもらえるでしょーか?
 ワックスがけはケーキ作りに似ている、と口にした友人もおります。僕、ケーキを作ったことなんてありませんけど、なんとなくわかりますね。パテで生クリームを整える感覚に、ちょっと似ているかもしれません。

 実を申しますと、僕がホットワクシングを始めたのは昨シーズンから。それまではずっと、簡易ワックスだけで手入れを終わらせていました。
「指導員になったんだし、もうちょっときちんとワックスをかけたほうがいいよ」
 と周りの人に注意され、
「えええ? 面倒くさいなあ」
 ぶつくさ愚痴をこぼしながら、いやいや始めたワクシングだったんですけど、をををを。これが思いのほか楽しい。それ以降、ずっとホットワキシングを楽しんでおります。
 正直、滑走性に関しては、簡易ワックスと較べてどのくらい差があるのか、へっぽこスキーヤーの僕にはあんまりわからないんですが、板を保護するという点ではものすごく役立ってますよ。
 ただ、確かにアイロンがけは楽しいんですけど、ワキシングの作業はそれで終わりじゃないんですよね。

4)スクレーパーでワックスを削ぎ落とす。

 塗りつけたワックスを、今度は削らなくちゃなりません。アイロンがけとは裏腹に、こちらの作業はひじょーに面倒。想像以上に体力を消耗するし、削り取ったワックスのカスで部屋中が汚れるし……。
 ワックスを塗るのは大好きですが、ワックスを落とすのは大嫌い。でも、塗ったからには落とさなくちゃならない。人生、楽ありゃ苦もあるわけで。
 塗るはよいよい、落とすは怖い♪ これってどうしてなんでしょう? あ、わかった。あれと同じかな? ほら。ローションを塗りつけるときは楽しいけど、洗い落とすときはちょっと虚しい気分に……(以下、自主規制)。

 えっと。

 最後に、ホットワクシングの問題点について述べたいと思います。
 ホットワクシングを行なおうと思ったら、自宅に作業スペースを作らなくちゃなりません。スキー板を寝かせて作業できるくらいの広さがないとダメ。ロウが垂れたり、カスが出たりするので、多少汚れてもかまわない場所を捜す必要があります。
 屋外でやればいいぢゃん、と思われるかもしれませんが、アイロンを使うので電源も要るんです。それに、北風がぴーぷー吹く中、何十分もアイロンがけなんてやってられませんよ(エキストリームアイロニングの精神には反しますが)。
 悩みに悩んだ末、僕は書庫でアイロンをかけてます。ここなら多少汚しても、誰にも文句はいわれませんし、表紙にしわのよった本を見つけたら、ついでにアイロンをかけられますし。
 ただ、書庫のエアコンはオンボロで、室温の微調整がうまくできないため、冬場はやたらと暑いんですよ。裸にならないと作業ができないくらい。
 薄暗い書庫で、パンツ1枚になって、「うひうひ、楽しいな♪」と呟きながら、床にロウソクを垂らす男。うーん、よくよく考えてみると、ただの変態ですな。
 アイロンプレイ未体験のスキーヤーのかた、新たな楽しみを発見できますから、ぜひぜひお試しくださいませ。うひ。ピンク系は興奮しますぜ。

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