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CASE11 五月病殺人事件《問題編》

「おっはよぉぉぉぉぉ! 元気いっぱいのぜにーちゃんでぇぇぇす! みんなに幸せのお裾分けっ! ぶちゅう」
 今日も朝から、鬱陶しいくらいに陽気な銭山警部である。
「あら、どうしたの? 黒田ちゃん。ずいぶんと浮かない顔をしちゃって」
 ため息をつく黒田刑事に、警部が顔を近づけた。
「わかった。エッチなビデオに夢中になって、ついつい夜更かししちゃったんでしょ? ノンノン。徹夜はお肌の大敵よ。黒田ちゃんも規則正しい生活を送らなくっちゃ。あたしなんて、朝起きてすぐにフルマラソンをしたあと、カンフー映画を一本観て、それから分厚いステーキを三枚食べてきたから、全身にエネルギーが満ちあふれているわ」
「一体、毎朝何時に起きてるんです?」
「午前一時」
「早すぎませんか?」
「なにいってんのよ。早起きは三文の徳っていうでしょ? 見て、この元気な肉体。元気すぎて、毛穴から変な汁がにじみ出してるくらいなんだから
「それ、たぶん病気です。一度、医者に診てもらってください」
 黒田刑事が冷たくいい放つ。
「医者に診てもらわなくちゃいけないのは黒田ちゃんのほうなんじゃないの? なんだかとっても顔色が悪いけど」
「実は……学生時代に仲の良かった友人が、亡くなりまして」
「あら、それは大変。病気だったの?」
「いえ。彼の母親の話だと、今朝になって突然、下痢と嘔吐を繰り返し、そのまま死んでしまったそうです」
 重苦しいため息を吐き出す黒田刑事。
「たぶん、ストレスがたまっていたんだと思います。彼、四月に新しい職場へ移ったばかりだったんです。通勤に二時間以上かかるせいもあって、何度も遅刻を繰り返し、そのため人間関係もあまりうまくいっていなかったみたいで……。僕にもずいぶんと愚痴をこぼしていました。ああ……こんなことになるなら、もっと親身になって話を聞いてやるんだった」
 黒田刑事はがっくりと肩を落とした。と、デスクの上に置いてあった彼の携帯電話がけたたましくベルを鳴らす。
「……亡くなった友人の母親からです。なんだろう?」
 首をひねりながら、通話ボタンを押す黒田刑事。
「もしもし。このたびはご愁傷様で……え? 腐った鮭? どういうことです? ……はい、わかりました。すぐに調べてみます」
「どうしたの?」
 通話を終えた黒田刑事に、銭山警部が尋ねた。
「なんだかよくわからないんですが、亡くなった友人の部屋から腐った鮭の切り身が大量に出てきたそうです。友人の嘔吐物からも未消化の鮭が見つかったそうで……もしかして彼は、大量の腐った鮭を食べたせいで死んでしまったのかもしれません。ということは、これは自殺なんでしょうか? でも、腐った鮭って……。どうして、そんなものを食べたりしたんでしょう?」
 黒田刑事のそのひとことが引き金となり、銭山警部の脳細胞はフル回転を始めた。
「わかったぴろぴろぴろぉぉぉん。ぜにーちゃん、あったまいいぃぃぃぃ」
「え? 真相がわかったんですか?」
「自殺じゃないわ。これは事故よ。あなたのお友達は、やむにやまれぬ理由から、腐った鮭を食べたんじゃないかしら」
「やむにやまれぬ理由って、一体どういうことですか?」
「それはね」
 銭山警部は分厚い唇をぺろりと舐め、先を続けた。

《ぜにーちゃんからの挑戦状》
 黒田ちゃんのお友達は、どうして腐った鮭なんかを食べちゃったのかしら? あなたも推理してみてね。うふ。

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