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VOCADOL 01

FILE.001 マリアちゃん誘拐事件(1)


▼プロローグ

新宿某所にそびえ立つカーキ色の雑居ビル。

1階は《麺処ちゅるうま》。
行列のできるラーメン屋として、何度もマスコミにとりあげられている人気店です。

2階は有名芸能人も多数訪れると噂されるネイルサロン《女王様》。
こちらも大勢の客でにぎわっている様子。

そして、3階にあるのが《須霧(すきり)探偵事務所》と《鵜鳥(うとり)芸能プロダクション》。

1階、2階とは違い、このフロアはひっそり静まり返っています。

(事務所)

【蒼姫ラピス】
「あーあ。今日も暇ですね」

「そもそも留守番係なんて必要なのでしょうか? 朝から電話1本かかってきませんけど」

《鵜鳥芸能プロダクション》で大あくびを繰り返しているのが私――所属タレントの蒼姫ラピス。

先日結成されたばかりのアイドルグループ《VOCADOL》のメンバーなのですが、売れっ子アイドルさんたちみたいにそうそう仕事があるわけもなく……。

【蒼姫ラピス】
「なにか刺激的な事件でも起こりませんかねえ」

物語はため息をつく私の姿から始まったわけなのですが、さて。

【笹羅飛鳥】
「探偵さん! 助けてください! うちのマリアちゃんが行方をくらませてしまったんです!」

【蒼姫ラピス】
「え? あの……すみません。うちは芸能プロダクション。探偵事務所はお隣ですけど」

【笹羅飛鳥】
「それが、隣はいくらドアをノックしても返事がなくって」

【蒼姫ラピス】
(あのナマケモノ探偵。またパチンコに出かけましたね)

【笹羅飛鳥】
「マリアちゃんはまだ2歳。一人じゃなんにもできない娘なんです」

「最近、近所を怪しい人がうろついていましたし、もしかしたら誘拐されたのかもしれません」

【蒼姫ラピス】
「来たっ! 刺激的な事件っ!」

【笹羅飛鳥】
「え?」

【蒼姫ラピス】
「いえ、ただのひとりごとです」

(誘拐事件だとしたら大変です。早くしないとマリアちゃんが危険にさらされてしまいます)

(ほかにやることもありませんし、マリアちゃん探しを手伝ってあげることにしましょうか)

「マリアちゃんの特徴を詳しく教えてください」

【笹羅飛鳥】
「ピンク色の洋服を着ています。かけっことボール遊びが大好きで」

【蒼姫ラピス】
「元気な女の子なんですね」

【笹羅飛鳥】
「元気すぎて困ってしまいます。この前なんて屋根から飛び降りて……」

【蒼姫ラピス】
「え? 怪我はなかったんですか?」

【笹羅飛鳥】
「あんな高いところから飛び降りたのは初めてだったので、しばらくはおどおどしていましたが、大好物のサンマを食べたら、すっかり元気になりました」

【蒼姫ラピス】
「……サンマ?」

【笹羅飛鳥】
「サンマを食べると、ヒゲがくにゃあっと垂れ下がるんです。その姿がとても可愛らしくて」

【蒼姫ラピス】
「あの……もしかしてマリアちゃんっていうのは……」

【笹羅飛鳥】
「ええ。血統書つきのペルシャ猫です」

なんだ。猫探しの依頼ですか。
……刺激的な事件なんて、やはりそうそう起こるものではないみたい。

(探偵事務所)

「社会勉強だ。行ってこい」とマネージャーに背中を叩かれ、飛鳥さんの依頼を受けることになった私。

手ぶらじゃさすがに不安なので、お隣の探偵事務所にお邪魔して、探偵道具を借りていくことにしました。

【蒼姫ラピス】
「いろんな色のカプセルがありますけど、これは一体、なんでしょう?」

「役に立ちそうですから、とりあえず借りていきますね」


▼FILE001-1 東新宿

(駅前1)

ペルシャ猫のマリアちゃんがどこにいるかなんてまったくわからないまま、依頼人の自宅近くまでやって来てしまいました。

マリアちゃんの姿が消えたのは、今日のお昼前。それからまだ3時間ほどしか経ってないし、そんなに遠くへ行ったとは思えないのですが。

まずは情報を集めてみましょうか。

(駅前2)

【北条ミレイ】
「マリアちゃん? ああ。あの丸々と太ったペルシャ猫ね。もちろん、知ってるわよ」

「とにかく、サンマに目がない猫でね。サンマのにおいを嗅ぎつけると、いきなり人の家にまで飛び込んでくるの」

「こちらが抵抗する隙もなく、丸ごとサンマを呑み込んじゃうんだよ。びっくりでしょ? うちも何度被害にあったことか」

「あの猫の飼い主と知り合いなの? だったら、もうちょっとちゃんと躾けてくれって注意しといてもらえるかしら」

(戦闘モード 初回)

【???】……敵B
「お待ちなさい。可愛らしいお嬢さんたち」

【蒼姫ラピス】
「え? 可愛らしいって、もしかして私のこと?」

【???】……敵B
「あまりでしゃばると痛い目に遭いますよ」

【蒼姫ラピス】
「え? え? どういうこと?」

【???】……敵B
「いざ、勝負!」

【蒼姫ラピス】
「きゃあっ! どうしよう?」

(探偵さんの事務所から借りてきたカプセルがなにかの役に立つのでしょうか?)

※戦闘モードに突入。

【???】……敵B
「くっ……まさか、ここまでとは。これですむと思ったら大間違いですよ。覚えておきなさい!」

【蒼姫ラピス】
「今の人……なんだったのでしょう?」

「誰か怪しい人を見かけなかったか、もっと聞き込みを続けましょうか」


……つづく

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