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CASE24 御神木殺人事件《問題編》

 町のはずれにある小さな神社。しめ縄の巻かれた御神木の下で、体格のよい中年男性が背中を血で染めて死んでいた。
「被害者は鍋屋太郎(なべや・たろう)。この近くで鍋料理のお店を経営していた男です。とても美味しいと近所では評判だったみたいですね」
 手帳を広げながら、黒田刑事が説明する。
「中年太りを気にし始めた鍋屋さんは、店を閉めたあと、『ちょっと運動をしてくる』といって外出し、そのまま帰ってこなかったそうです。おそらく、この神社でシェイプアップに励んでいる最中、何者かに襲われたのでしょう」
「あらららら。背中にいっぱい短刀が突き刺さっているじゃない。可哀想に」
 銭山警部は遺体のそばに屈み込むと、太い眉毛を大きく歪めた。
「突き刺さっている短刀は全部で十二本。その一本は心臓を貫いていました。それが死因となったことは間違いありません」
「神様の前で殺人を犯すなんて、罰当たりにも程があるわね。犯人を捕まえたら、こっぴどくお仕置きしてやらなくっちゃ。首に縄をくくりつけ、警察署の周りを引きずり回してやるわ。……あ。でも、犯人があたし好みのイケメンだったら、話は別。あたしのうちに招いて、ひと晩中、身体を舐め回してもらおうかしら。うふ。うふふ」
 頬をピンク色に染めながら、警部は不気味に微笑んだ。イケメンだったほうが地獄じゃないか――喉もとまで出かかったその言葉を、黒田刑事はぐっと呑み込む。
「それにしても、ひどい殺され方。犯人は被害者に、相当な恨みを持っていたんでしょうね」
「それがですね、殺された鍋屋さんは人柄もよく、誰からも好かれていたそうで。なぜ、このような無惨な殺され方をしたのか、今のところ動機はまったくわかっていません」
「あら、そうなの」
「それに、不思議なことがもうひとつ。ほら、よく見てください。夕方降った雨のせいで、地面がぬかるんでいるでしょ? 遺体を見つけたのは、このあたりをパトロールしていた巡査なのですが、現場には鍋屋さん以外の足跡はひとつも残されていなかったそうです。つまり現場は、一種の密室状態だったわけで」
「じゃあ、自殺? ううん、あり得ないわね。これだけたくさんの短刀を、自分の背中に突き刺すことなんてできるはずがないし。……なにか、ほかにわかっていることはないの?」
「御神木には、鍋屋さんの手の痕がたくさん残っていました」
「手の痕? 被害者は御神木にべたべたとさわっていたときに殺されちゃったわけ? 一体、なにをやっていたのかしら? イヤだ。もしかして……むふ。むふふ。きゃ。いやらしいっ!」
「勝手な妄想はやめて、仕事に集中してもらえませんか?」
「仕方ないじゃない。最近、いい男にめぐり合えなくて欲求不満なんだから」
 唇を突き出しながら、銭山警部がいう。
「だったら、この御神木に『彼氏がほしい!』とお願いしたらどうです? どんな願いでも叶えてくれる木だ、と評判になっているそうですから」
 黒田刑事のその言葉が引き金となり、銭警部の脳細胞がフル回転を始めた。
「わかったぴろぴろぴろぉん。ぜにーちゃん、あったまいいぃぃぃぃぃ」
「え? 事件の真相がわかったんですか?」
「ねえ。もしかして、被害者の経営していたお店って、ちゃんこ鍋屋さんだったんじゃない?」
「そうですけど……え? どうしてわかったんです?」
「だったら、間違いないわ。この事件の犯人は――」
 そういって、警部は太い人差し指を突き立てた。

《ぜにーちゃんからの挑戦状》
 鍋屋太郎はどうして死んじゃったのかしら? あなたも推理してみてね。うふ。

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