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銭山警部の事件簿(ロングver.)03

消えたデリンジャー03

「ラーメン食べる?」
「いえ、お腹いっぱいです。結構です」
「あらあ、これおいしいのよ。ただのカップヌードルじゃないんだから」
「遠慮するな。せっかく銭山さんがご馳走するとおっしゃってくださってるんだからもらっておけ」
 警部の言葉には逆らえない。僕は仕方なく銭山から箸を受け取ると、麺を一本すすった。あらららら。思いのほか美味しい。
「ね、イケルでしょ?」
 銭山がにっこりと笑った。
「ええ……。これ、シーフードヌードルですか? ほのかにイカの香りが……」
 警部の集めたカップヌードルの空容器に目をやると……おや? 普通のカップヌードルだ。――と思ったら、どの容器も底にぽっかり直径5センチほどの丸い穴が空いている。
「おかまでも性欲は処理しなくっちゃね」
 銭山がカラカラカラと陽気に笑う。
 僕は銭山にラリアートをくらわして、そのままトイレへ駆け込んだ。

 トイレでうげうげ唸っていると、部屋のほうから黒田警部と銭山の話し声が聞こえてきた。その口調は先ほどまでと違い深刻だ。僕は耳を澄ませた。
「銭山さん。連続銃殺魔事件のことはご存知ですよね?」
「もちろん知ってるわ。若い女の子が無差別に撃ち殺されている事件でしょ? 物騒な世の中よねえ。ぜにー、怖くて夜道も歩けなぁい」
 物騒なのは己の顔ぢゃ。――そう毒づきながら僕は再び便器を抱えた。
「あれ? でも確か、犯人ってもう捕まったんじゃなかったっけ?」
「捕まりました。週刊誌に『連続銃殺魔は子供の頃からずっと女性にもてなかった男に違いない。そのため世の女性すべてに恨みをもっているのだ』――ってな推測記事が載ったんです。犯人はそれを読んで、『馬鹿野郎っ! 俺は学生時代はモテモテだったんだいっ!』と出版元へ電話をかけた。――で、電話機に表示された着信番号を調べてあっけなく逮捕――」
 くだらない。あまりにもくだらない幕切れだ。
「男の部屋からは犯行を裏づける証拠の品がいくつも発見されました。でも肝心の銃だけがどうしても見つかりません。犯行に使われたのはデリンジャー。小型の拳銃ですが、しかしいくら小さいからといってこれだけ捜索しても見つからないとは……」
「なるほど。話はわかったわ。要するに凶器の拳銃を見つけ出せばいいわけね」
「協力していただけますか?」
「もちろん。あたしとただならぬ関係を持った黒ちゃんの頼みじゃない!」
 ぞわぞわと背中に鳥肌が立つ。一体、二人の間にはどんな過去があるんだ? 知りたくない、知りたくない。

つづく

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