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VOCADOL 08

FILE.003 ラピス誘拐事件(1)

▼プロローグ

 今日は全国の駆け出しアイドルを名古屋に集めて行なわれる合同スペシャルライブ――《アイドル尾張の陣》の開催日。

 観客の投票でナンバーワンとなったグループは、大手レコードメーカーから即メジャーデビューできるという、私たちひよっこアイドルにとっては、なんともビッグチャンスなイベントです。

 当然のことながら、メンバー全員いつも以上に気合が入っています。

 それがまさか、こんな事件が起きてしまうなんて……。

【???】
「ほら、ラピス。置きなさい。目的地に到着したよ」

【ラピス】
「あれ? ……ここ、どこ?」

「……車の中?」

「みんな、どこにいるのですか?」

「……あ、思い出しました。私、みんなと別れて親戚の叔母さんの家へ向かってる途中で、急に後ろから襲われて、気を失っちゃったんですね」

「早くみんなのもとに戻らないと」

「……え? 手足を縛られてる? これじゃあ、身動きが取れません」

「誰か助けてください! 誰か!」

【ディスコード】……敵A
「うるさいね。近所迷惑だろう? ぴーぴーわめくんじゃないよ」

【ラピス】
「……! ……あなたは」

「どうしていつも、私たちの邪魔をするんですか?」

「ロープをほどいてください!」

【ディスコード】……敵A
「それは無理な相談だね。さあ、車を降りて、さっさと歩きなさい」

【ラピス】
「ここはどこ? ……アパート?」

【ディスコード】
「あんたにはライブが終わるまで、ここにいてもらうから」

【ラピス】
「……どうして?」

「私をどうするつもりなんですか?」

▼MAP004-1 愛知県名古屋市中区栄 

(久屋大通公園)

【lily】
「グレート! 会場もすごく盛り上がってますね。このグループ、ワンダフルです!」

「とくに右端のポニーテールのガール、目がキラキラしてて、ベリープリティーじゃありませんか?」

【MIZKI】
「………………」

【lily】
「ダンスもアグレッシブでパワフル! 見ているだけで元気が出てきます」

【MIZKI】
「………………」

【lily】
「MIZKI。さっきから黙り込んで、どうしたのですか? ほら。レッツエンジョイ!」

「せっかく名古屋まで来たのですから、もっと楽しまなくては」

【MIZKI】
「lilyはよくもそんなに陽気でいられるわね」

「私たち、こんなすごい人たちと戦わなくちゃいけないのよ」

【lily】
「敵が強ければ強いほど、ミーはわくわくしてきますけど」

【MIZKI】
「私はダメ。朝から緊張しちゃって……」

「自信なんて全然ないわ」

【lily】
「ノープロブレム! この子たちは確かにプリティーでグレートでワンダフルですけど、《VOCADOL》はそれ以上です」

「今日のために、あれだけ頑張ってきたんですもの。ファイトです! いつもどおりエンジョイしましょうよ」

【MIZKI】
「え……ええ。そうね」

【lily】
「あ、見てください。テレビ局のカメラです」

「優勝したグループのライブは、BSチャンネルで放映されるそうですね。とても楽しみです」

「でも事務所のテレビ、BS放送がうまく映りません。どうしてだかわかりますか?」

【MIZKI】
「パラボラアンテナの角度が少しずれているんだと思うわ」

「あのアンテナ、マネージャーが茨城営業所からもらってきたものでしょう?」

「アンテナの設置角度は南へ行くほど大きくなるから、設定をし直さないといけないのよ」

「東京だったら、仰角38度に設定しないと」

【lily】
「ずいぶんと詳しいですね」

【MIZKI】
「自宅のパラボラアンテナを調整したばかりだったから」

【lily】
「……なんのために?」

【MIZKI】
「決まってるじゃない。初めてのテレビ放送なのよ。私たちがテレビに映るのよ。録画に失敗したら大変でしょう? だから……」

【lily】
「自信がないといいながら、優勝する気満々なのですね。安心しました」

【MIZKI】
「あ……ううん。べつに、そういうわけでは……」

【cul】
「あ、2人ともこんなところにいたのか」

「あちこち探し回ったよ」

【MIZKI】
「cul。どうしたの? 汗びっしょりじゃない」

【cul】
「ここじゃちょっと……。ひと目につかないところへ行こう」

【MIZKI】
(なんだか様子が変。なにがあったのかしら)

つづく

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