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VOCADOL 14

FILE.004 飛べない白鳥殺人事件(1)

▼プロローグ

3月3日。大阪市街地から少し離れた場所にある十二階建ての古びたホテル。

真夜中。その最上階で事件は起こりました。

酔っ払っているのでしょうか? 1人の女が、おぼつかない足取りで、ひっそりと静まり返った通路を歩いています。

【スワン】
(誰か助けて……このままじゃ本当に死んじゃう。誰か……)

女は苦しそうにあえぎながら、通路をゆっくりと進んでいきました。

通路の突き当たりには頑丈そうなドアがひとつ。

ドアには赤い文字で《危険! 立入厳禁》と書かれています。

【スワン】「助けて! 死にたくない!」

女は勢いよくドアを開けると、外へ飛び出しました。

しかし、ドアの向こうにはなにもありませんでした。

【スワン】「あ……きゃああああっ!」

女はそのまま、地面に叩きつけられ、息絶えたのであります……。

▼MAP004-1 大阪府吹田市豊津町 

(江坂駅前)

【kokone】
「……メルリ。早すぎるってば。このへんでちょっとだけ休憩しようよ」

【メルリ】
「だらしないわね。3キロ走っただけでダウンなんて」

「これくらいで息切れしているようじゃ、今夜のひな祭りライブが心配だわ」

「いい? 今日はアノンとカノンの生誕祭でもあるんだからね。ファンの人たちと一緒にお祝いして、あの2人をびっくりさせるんでしょう? そのための下準備をちゃんとしておかなくっちゃ」

【kokone】
「それはわかってるけど……。まだ朝の6時前だよ。さっき起きたばかりなんだから、パワーも出ないってば」

「ひと足先に会場を見に行こうって、私たちを無理やり誘い出したlilyはあの調子だし」

【lily】
「みんな、ウェイト! 待ってください。アイムハングリー。お腹が空きすぎて、もう走れません」

【メルリ】
「……情けない」

【kokone】
「ほら、lily。頑張って」

「《チーム動物園》の前座を務めることができるなんて、こんなチャンス、次はいつ巡ってくるかわからないんだから」

「しっかり気合いを入れないと」

【メルリ】
「チーム動物園ってそんなに有名なの?」

【kokone】
「メルリ、知らないの?」

「ほら、ここにもポスターが貼ってあるじゃない」

※チーム動物園のライブを告知するポスター。白地に赤と緑の2色刷り。開催日時は3月3日午後8時~。場所はホテルおおきに11Fの展望レストラン。ポスターには鷲鼻の男のイラストが描かれている。

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【メルリ】
「ずいぶんとチープ感の漂うポスターね」

【kokone】
「そういう素朴なところが、チーム動物園の魅力なんじゃない」

【lily】
「チーム動物園は、ヤングに大人気の4人組お笑いユニットです。全員がアニマルの格好で、どたばたコントを演じるんですけど、これがベリー面白くて」

【メルリ】
「……ふうん」

【kokone】
「お笑いとはまったく関係ない仕事をしていた4人が意気投合して出来上がった異色ユニットなんだよ」

「リーダーのスワンは元スタントマン。ウルフは元ギタリスト。ウサ美は元外科医。ハム子は元ペットショップ店員」

「スワンは2年前、スタント事故で全身を炎に包まれ、大やけどを負ったの」

「それ以降、火を怖がるようになって、やむを得ずスタント業を引退したんだって」

「ウルフはライブ中にステージから転落し、骨折したことが原因で、得意のギタープレイができなくなってしまい、バンドを解散」

「似たような傷を抱えた2人がひょんなことから意気投合し、おたがいの知り合いを集めて結成したのがチーム動物園ってわけ」

【メルリ】
「ポスターに描かれてるへたくそな鷲鼻の男は誰なの?」

【kokone】
「スワン、ウルフ、ウサ美、ハム子が暮らしている動物園の園長さんだと思う。あ。もちろん、コントの中での話だけど」

【メルリ】
(どうして、鼻が緑色なのかしら?)

【kokone】
「全員、園長さんのことが大嫌いで、毎回、彼に嫌がらせをしようとあれこれ計画を立てるっていうのが、コントの基本設定なんだよ」

【メルリ】
「……ふうん」

(なにがそんなにうけてるのか、あたしにはよくわからないわ)

つづく

作者註
どこかで見覚えのある話だなあ…と思ったあなた、正解です(^^;
 以前紹介した「逆転裁判」の未発表原稿の焼き直しだったりします。
どうか広い心でお読みくださいませ。



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