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CASE38 黒田刑事殺人事件《問題編》

 黒田刑事が殺された。凶悪犯の放った銃弾が胸に命中し、あっけなく命を落としてしまったのだ。
 というわけで、彼は今、黄泉の国へと続く道を、一人とぼとぼ歩いている。
 生きているうちに、もっとあれこれ楽しいことを経験しておきたかったなあ――と思っても、もはやあとの祭り。がっくりうなだれていると、いきなり後ろから肩を叩かれた。
「黒田ちゃん、おひさぁ」
 振り返ると、銭山警部が満面の笑みを浮かべながら立っている。
「え? ど、ど、どうしたんですか? 警部」
「うふ。黒田ちゃんのいない人生なんて考えられないもの。舌を噛み切って、あとを追いかけてきちゃった」
 恥ずかしそうにぺろりと伸ばした彼の舌は、確かに先端がちぎれて、血がどくどくとあふれ出していた。
「走ってきたら、お腹が空いちゃった。途中にあったマクドナルドでバリューセットを買ったんだけど、黒田ちゃんも食べる?」
 そう口にするなり、銭山警部は勢いよくハンバーガーにかぶりつく。
「死んだばかりなのに、よくそんなもの食べられますね」
「なにいってんの? 死んだ今だからこそ、健康に気をつかうことなくジャンクフードを食べられるんじゃない。黒田ちゃん、ポテトはいかが?」
「いりませんよ」
「だったら、シェイクは?」
「いりませんって」
「ちゃんと食べなくちゃ元気出ないわよ。シェイクを飲んで、股間もシェイク、シェイク! いや、あたしったら下品っっっ! きゃっ! ぜにーちゃん、死んでもお下劣は治りませぇぇぇんっ!
 ハンバーガーを頬張りながら、一人騒ぎ続ける銭山警部を無視して、黒田刑事は先を急いだ。
 と突然、目の前にふたつの門が現われた。それぞれの門の前には、姿かたちがそっくりな二人の男が立っている。頭には鋭く尖った二本の角。背中からはコウモリのような翼が生えている。
「あら。これが噂に聞く『あの世の門番』ってヤツね」
 銭山警部は目を輝かせながらいった。
「……あの世の門番?」
「門がふたつあるでしょ? そのうちのひとつは天国、もうひとつは地獄に繋がっているのよ。あたしたち、今からどちらの門へ進むか決めなくちゃいけないってわけ」
「ずいぶんと詳しいですね」
「あたしの情報収集力をなめちゃいけないわよ。で、黒田ちゃんは天国と地獄のどちらへ行きたい?」
「そりゃあもちろん天国ですよ。どちらが天国へと通じる門なんですか?」
「そんなこと、あたしにだってわからないわ。でもね、門を選ぶ前に一回だけ門番に質問してもいいんだって」
「じゃあ、どっちが天国の門か尋ねればいいんですね?」
「それがそんな簡単な話じゃないのよ。天国の門を守る門番は本当のことしかいわないし、地獄の門を守る門番は絶対に嘘をつくそうだから」
 銭山警部の言葉に、黒田刑事は笑みを浮かべた。
「だったら、なんの心配もいりません。これって有名な論理クイズですよ。どちらかひとりの門番に、『もうひとりの門番はどちらを地獄の門だと答えますか?』と尋ねればいいんです。そうすれば、本当のことしかいわない門番であっても、嘘つきの門番であっても、必ず天国への門を指し示すはずで――」
「ちょっとあんた。さっきからどうしてあたしのことばかりじろじろと眺めてくるわけ? もしかして、あたしのことが好きなの?」
 黒田刑事を無視して、いつの間にやら銭山警部は右側の門の前に立っていた門番と会話を交わしている。
「いえ。自分には好きとか嫌いとかいう感情はありませんので」
 門番は淡々と答えた。
「もう素直じゃないんだから。タイプならタイプだって正直にいってくれれば、お尻の穴だって貸してあげるのに」
 銭山警部はぷりぷりと怒りながら、残っていたハンバーガーを一気に平らげた。
「あなたたちの質問はこれにて終了です。では、どちらの門を開くか決めてください」
 お尻の穴などといわれてドン引きしたのか、右側の門番は銭山警部から視線をそらし、そう口にした。左側の門番は気の毒そうにこちらの様子をうかがっている。
「ちょっと、警部! なに勝手に質問しちゃってるんですか? どっちが天国の門かわからなくなっちゃったじゃないですか!」
 警部に詰め寄る黒田刑事。
「なにいってんの? 黒田ちゃん。天国の門がどちらかなんて明らかじゃない」
 銭山警部は慌てることなく、にこりと笑って答えた。

《ぜにーちゃんからの挑戦状》
 天国の門は右、左のどちらだと思う? あなたも推理してみてね。うふ。

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