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下手の横スキー64

第64回 オフシーズンならインライン

 スキーシーズン突入まで、あとわずか。
 毎年この時期になると、頻繁にスキー関係のサイトをチェックし始める私であります。各スキー場が、あれこれお得な懸賞を行なったり、数量限定の格安シーズンチケットを発売したりしますからね。毎日、気が抜けませんよ。……って、仕事はいつやってるんだか(焦)。

 さて。
 そんな前フリとはまったく関係なく、今日はインラインスケートのお話。意外にも、このエッセイではまだ一度もとりあげたことがありませんでした。
 皆様、インラインスケートをご存知でしょうか? え? 素っ裸で街を徘徊する変態野郎のこと? それはインラインスケートではなく、淫乱すけべ男ですね。
 インラインスケートとは、乱暴にいってしまえば、車輪のついたブーツのこと。え? それってローラースケートでしょ? と思われるかたもいらっしゃるかもしれませんが、ノンノンノノン♪(石野真子「失恋記念日」風に)。ローラースケートと決定的に違うのは、インラインスケートの場合、車輪が縦一列に並んでいるという点。ローラースケートに較べて、左右のバランスはとりにくくなりますが、アウトエッジ、インエッジを使い分けることができるため、その滑走感はスキーにとてもよく似ているんです。ってなわけで、オフシーズンのトレーニングに、インラインスケートを活用しているスキーヤーも大勢いらっしゃいます。

 かくいう僕も、4年ほど前からスキーのオフトレを目的に、インラインスケートを始めました。両手にストックを持って、手頃な坂道を見つけては、スキーのように滑っていたんですけど、その効果は……。
 うむむむむ。確かにイメージトレーニングとしては最適なんですが、スキーと違って、転倒したときのダメージがメチャクチャ大きいんですよね。滑っている場所が雪上ではなく、アスファルトの上ですから、当然といえば当然なんですけど。擦り傷っていうのがこれまた厄介で、なかなか治りません。4年前にこしらえた傷跡の数々は、今でもまだお尻や太ももにくっきりと残っております。

 インラインスケートには、ほかにも様々な楽しみ方があります。スピードを競うロードレース。パイロンと呼ばれる円錐形の障害物をくぐり抜けながら技を競い合うトリックスラローム。ハーフパイプやバートと呼ばれる鉄パイプを使って飛んだり跳ねたりするアグレッシブ。ほかにも、インラインホッケー、インラインダンス、インラインクロスなどなど。
 スキートレーニングばかりでは飽きてしまうと思い、インラインスケートを通じて知り合った友人に誘われるがまま、僕もいろいろなジャンルにチャレンジしてきました。あまり器用ではないため、どれもこれも中途半端な技術しか習得しておりませんが、そんな中、とくに夢中になったのがインラインダンスでした。……いえ、僕のやっているのはダンスというより、単なるおちゃらけ踊りなんですけど。

 インラインスケートというのは、僕みたいな下手くそがただ滑っているだけでも、それなりに人目を惹くんですよね。街なかを走っていて、「あ、カッコイイ」とかいわれちゃうと、快感で全身がビリビリ。根が目立ちたがり屋なので、注目を浴びるのは大好きなんです。
 だから、僕の所属するスケートチームにイベントの出演以来があったときは、我先にと参戦しております。

 先週末は、リニューアルオープンしたショッピングモールの客寄せイベントに出演してまいりました。
 そのお店のイメージキャラクターに扮してスケートショーを行なうという、なんとも魅力的な企画。キャラクターは5人家族で、僕に割り当てられたのは丸々太ったお母さん。……ひょっとして体型で決められちゃった?
 話を聞いてみると、どうやらかなり本格的なショーらしい……。「僕なんかが出て大丈夫?」と、正直不安ではありました。でも、着ぐるみ人形をかぶって滑るのであれば、高度なテクニックは求められないだろうと思っていたんです。
 ……が。
 うぎゃ。
 本番前日のリハーサルで、僕の認識が甘かったことを思い知りました。
 まず、着ぐるみの重さがハンパじゃありません。普通の運動靴を履いていても上半身がふらふらしちゃいます。スケートブーツだと歩くのがやっと。こんなものをかぶったまま踊れるのか? と心臓はドキドキ。
 さらに……暑い! 着ぐるみの中は蒸し風呂状態だって話はよく聞きますけど、これほどだとは思いませんでした。じっとしているだけでも、どばどばどばっと滝のように汗が流れ出すんだもん。しかも、その汗が拭えないんだからまたツライ。
 その上、息苦しいんです。一応、頭のてっぺんに換気扇がついているんですけど、ときどき僕の髪の毛が巻き込まれるだけで、なんの役にも立っていません。ってゆーか、僕のキチョーな髪の毛を返してくれ(涙)
 もひとつおまけに、視界の狭いこと狭いこと。前方のごく一部分と足もとしか見えません。踊るだなんてとんでもない。ひょっとしたら、移動すらできないかも……。
 うーん、本当に大丈夫なのか? と不安がっていたところに、プロデューサーからとどめのひとことが。
「じゃあ、まず、スケートブーツを履いたまま、長縄跳びに挑戦してみようか?」
 えええええええええ?
 あの……縄跳びなんて、着ぐるみをかぶっていなくても、まともにできた試しがないんですけど……。
「あ、くれぐれも転倒しないようにね。中身が見えたら、子供たちの夢を壊しちゃうから」
 うううう。プレッシャーだあ。
「ちなみにその着ぐるみ、オーダーメイドでン十万円ほどかかってるから、絶対壊さないよーに」
 がああああああ。
 ……まったく跳べる気がしなかったので、僕の演じたお母さんは自分の順番がやって来るとあちらこちらへ逃げ回ったり、上手に滑れないとまわりに当たり散らす困ったちゃんという設定に決めました。店のイメージキャラなのに、勝手に性格づけしちゃってよかったんでしょーか?

 そして、いよいよ本番。
 3回公演×2日間の計6回公演。
 ここで舞台の詳細を語ると、1年以上の長期連載になってしまうので、このあたりはさくっと割愛(おい)。
 なんとか無事にこなすことができましたけど、いやあ、疲れました。これまでにも100キロ以上の距離を延々と滑り続けるウルトラマラソンや、長時間ひたすら踊り続けるパレードなど、ハードなイベントを経験してきましたが、そのどれよりも過酷でしたよ。あと1日やっていたら、ホントにぶっ倒れてたかもしれません。
 でも、これまでに行なったどんなイベントより楽しかったのも事実。大勢の人の前でパフォーマンスを見せるっていうのは、ホント快感ですね。子供たちの笑顔もいっぱい見られて、幸せな2日間でした。これだから、インラインスケートはやめられません。

 スキーのオフトレとして始めたインラインスケートですが、もはやスキーとはまったく別のベクトルへ進んでおります。とにもかくにも、スキーと共に一生続けていきたいスポーツです。
 スキーのオフトレ用にブーツを買ったけど、数回やって飽きちゃったってかたも、きっとたくさんいらっしゃることと思います。でも、インラインスケートの世界は想像以上に奥が深いですよ。スキーのオフトレだけじゃなく、もっとディープな世界にまで足を踏み入れてみませんか?

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