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VOCADOL 04

FILE.002 5億円盗難事件(1)

▼プロローグ

(鵜鳥芸能プロダクション)

新宿某所。古ぼけた雑居ビルの3階に、私たちがお世話になっている《鵜鳥芸能プロダクション》はあります。

レッスンを終えた私たちは、マネージャーにもらった《でりしゃす堂》のでりしゃすクッキーをつまみながら、いつものようにとりとめのないおしゃべりを楽しんでいたのですが……。

【ラピス】
(笑顔で)「…………」

【鳥音】
「ラピス!」

【ラピス】
(相変わらず笑顔で)「…………」

【鳥音】
「ラピスってば!」

【ラピス】
「あ……カノンさん。どうかされました?」

【鳥音】
「どうかされました? じゃないよ。さっきから全然返事しないんだもん」

「わたしを無視するなんて、一体どういうつもり?」

【ラピス】
「すみません。マネージャーさんからいただいたクッキーがあまりにもおいしくて」

【杏音】
「あーあ。あたしはパンのほうがよかったなあ」

「このクッキー、水にひたしてふくらませたらパンになったりするのかな?」

【鳥音】
「なるわけないでしょう。アノンはあいかわらずとんちんかんなんだから」

「ほら、二人とも早くクッキーを食べちゃってよ。これから、ビラ配りに出かけるんでしょう?」

【杏音】
「うーん。おいしいパンをおなかいっぱい食べたいなあ」

「誰か、あたしにぽーんと気前よく100万円くれたりしないかなあ?」

「そうしたら、パン屋さんごと買っちゃうのに」

【ラピス】
「100万円でパン屋さんは買えないと思いますけどね」

【杏音】
「え? そうなの? だったら、どのくらい? 120万?」

SE ベルの音

【鳥音】
「ほら、お客さんだよ」

【ラピス】
「もしかして、マネージャーさんがパンを買ってきてくれたのかもしれませんね」

のんきすぎる会話を交わしながら、私は事務所の扉を開けたのですが、さて。

▼MAP002-1 新宿三丁目

(鵜鳥芸能プロダクション)

【結城まどか】
「た、探偵さん! た、た、大変! 大変なの! こそ泥に……た、た、た、大金を盗まれてしまって……」

【ラピス】
「あの……すみません。探偵事務所はお隣。ここは芸能事務所です」

【結城まどか】
「え? そうなの?」

【鳥音】
「こんな可愛い探偵がいるわけないじゃん」

【結城まどか】
「でも隣のドアに、急用の方はこちらをお訪ねくださいと書いてあったんだけど」

【鳥音】
「はあ?」

【ラピス】
「探偵さん。きっとまたパチンコに行かれたのですね」

【鳥音】
「だからって、わたしたちに仕事を押しつけるってどういうこと?」

【結城まどか】
「お願い。あれがなかったらあたし、この先どうすればいいか……」

「警察は全然頼りにならないの。困り果てていたら、この探偵事務所の噂が聞こえてきて」

【ラピス】
「お金を盗まれたのはいつなんですか?」

【結城まどか】
「ついさっきよ。まだ30分も経っていないわ」

「近所のコンビ二へ昼ご飯を買いに出かけている間に、泥棒が窓を破って侵入し、金庫を荒らしていったの」

【ラピス】
「一体、いくら盗まれたんです?」

【結城まどか】
「5億円」

【鳥音】
「ご、5億円!?」

【杏音】
「それってパンがどのくらい買えるのかなあ?」

【結城まどか】
「もしお金を取り戻してくれたら、そのときは1割をお礼に差し上げるわ」

【ラピス】
「あの……大変申し訳ありませんが、先ほども申し上げたとおり、私たちは探偵ではありませんので、この話はお断り――」

【鳥音】
「盗まれたお金は必ず取り返しますから、詳しくお話を聞かせてください!」

【ラピス】
「ええ? ちょっと……カノンさん」

そんなわけで、私たちは依頼を引き受けることになってしまいました。

うーん、本当に大丈夫なのでしょうか? 私、とても不安です。

つづく


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