下手の横スキー07
第7回 夏スキー!
あぢー。
あまりの暑さに、とうとう身体が溶け始めました。どうせなら、腹まわりの脂肪とかが溶けてくれれればいいのにさ、目や鼻がどろどろと液体化して、のっぺらぼうみたいになっちゃうんだもんなあ。これがホントの溶解。あはははははは……あーあ、どうやら脳味噌まで溶けてきたみたいです。
夏、到来! こんなくそ暑い時期に、スキーのネタなんてさすがにないだろう? と思っているあなた、ふふふ、甘いぜ、甘いでごわすよ(誰?)。
7月に入ってもまだ滑ることのできるスキー場が、日本国内に存在するって知ってましたか? なにいってんだ、バーカ。屋内スキー場のSSAWS(ザウス)なら、とっくに潰れちまったよ──ですって? ふはははは、そんなことはもちろん知ってますとも。屋内じゃなくお天道様の下で、人工じゃなく天然雪の上で、心ゆくまでスキーを楽しむことのできるエリアが、ちゃんと存在するんです。
ってなわけで、行ってまいりました。山形県西川町にある月山スキー場。「つきやま」じゃありません。「がっさん」とお呼びください。くぴっぷう。それはガッちゃんだな。
月山。
雪があまりに多いため、冬の間は滑走不能。4月半ばになってようやくオープンするという不思議なスキー場であります。なんと7月下旬まで滑れるというんですから、スキー馬鹿にはこりゃもうたまりません。
ああ、憧れの月山。
一度は行ってみたいと思ってたんですが、さすがに山形は遠かった。僕の住む三重県からじゃ、移動に丸一日かかっちゃいます。そこまでしてつき合ってくれる友人もなかなかおらず、これまで出かけるチャンスがなかったんですけど、今回、『ちゃれんじ?』の完成記念に、東野圭吾さんが編集者の方々とスノボをやりに行くという話を聞いて、「うおおおお、拙者も連れてってください! 掃除、洗濯、飯炊き、なんでもやりますから!」と土下座でお願いし、無理矢理OKをいただいたのでした。
いや、もう嬉しいのなんの。
夢にまで見た月山ですよ。しかも、東野圭吾さんと一緒だなんて……。ああ、僕はなんて幸せ者なんだろう。このまま飛行機が落ちて死んでしまっても悔いは残りません。いや、死んだらダメだよ。スキーできないぢゃん。やっぱり今の取り消し。飛行機が墜落しても、僕だけは生き残りますよーに。アーメン。ってなことをあれこれ考えているうちに、飛行機は庄内空港へと到着。
いやあ、暑い。
東北だし、スキー場がすぐそばにあるわけだから、もう少し肌寒いのかと思ってたけど、東京を出発するときとなんら変わりありませんでした。ほのかに潮の香りも漂ってくるし、どちらかといえば海で泳ぎたい気分。大体、周りの山を見渡しても、雪なんてカケラも存在してないし。
こんな状況で本当に滑れるのか? ひょっとして悪い人に騙されてるんじゃない? このまま荷馬車に乗せられ、市場へ売られちまうんでは? と怯え、思わず「ドナドナ」を口ずさむ僕。しかし、荷馬車にゴトゴト揺られることも、哀しそうな瞳で周りを見ることもなく、無事レンタカーに乗車できました。ほっ。
カーナビの指示どおりに走っていくと、なぜか途中で高速道路を下ろされ、いつの間にやらクネクネの山道を走らされる羽目に。再び、不安の積乱雲がもくもく。まさか、悪の盗賊ドナドナ団の陰謀か?
高速道路を走り続けたほうが早かったのでは? と思いつつも、カーナビを信じて進む一行。さんざん山道を走ったあげく、目の前に現れたのは、《この先、積雪のため通行止め》の看板。うぎゃあ。しかも、《閉鎖期間・当分》って、そんなアバウトな。
《月山スキーを楽しむためのアドバイス・1》
レンタカーのナビゲーションを信用するな! 山形自動車道は月山インターで降りろ!
あちこち道に迷いながらも、なんとか月山へ到着。
をを。雪がある。雪があるよ、お母ちゃん。
嘘じゃなかったんだね。おいら、騙されてなかったんだね。うわあ、感動だあ。
車を降りると、心なしか空気がヒンヤリ。「うーん、気持ちいいなあ」と大きく伸びをした途端、いきなりブンブンブンと大きなアブが寄ってきました。
そーか、冬じゃないんだもんな。当然、虫もいっぱいいるわけで。
現地の方のお話だと、虫除けスプレーは必需品らしい。動いて汗をかけば、さらに虫の数は増え、露出している顔や首を刺されて、パンパンにふくれあがっちゃうこともあるそーな。
うう、恐ろしい。
暑くなるからウェアは薄手のものを選ぼうとか、紫外線には気をつけなくちゃとか、あれこれ考えてはいたんですけど、虫除け対策にまではまったく気が回っていませんでした。
《月山スキーを楽しむためのアドバイス・2》
アブに刺されるぞ! 虫除けスプレーは必需品!
スキーウェアに着替え、ブーツを履いて、さあ、出発だあっ!
元気に飛び出したまではよかったんですが、う……リフト乗り場ははるか彼方。《スキー場まで徒歩1分》の宿に泊まって、「うわあい、楽チンだあ」と思っていたら大間違い。
確かに雪のあるエリアへは数十秒とかからずにたどり着けるんですが、そこからリフト乗り場まで20分近く歩かなくちゃなりませんでした。
しかも、かなりハードな登り坂。
ぬかるんだ雪道を、重たいスキー板を抱えて歩くんだから、体力に自信のある人でもバテバテです。Tシャツ1枚という軽装だったにも拘わらず、リフト乗り場に到着したときには汗だくになってました。
《月山スキーを楽しむためのアドバイス・3》
リフト乗り場までの道のりはかなりハード。体力をつけておかないと、途中で遭難するぞ!
「ようやく……リフト乗り場にたどり着きました……ぜいぜいはあはあ」
「ちょ……ちょっと休みましょう……ぐはあ」
顔を真っ青にしながら、ばたばたと倒れていく一行。その場だけを見たなら、「え? 細菌兵器?」と勘違いされたかもしれません。
「僕たち……ぜいぜい……まだ1本も滑ってないんですよね……はあはあ……こんな状態で……ぐはあ……この先……体力が保つんでしょうか?」
「大丈夫……げほげほ……リフトの上で休めるから……」
身体に鞭打ち、立ち上がる僕。ありゃりゃ。リフト下には雪が存在しないため、どうやらスキー板をはずして乗らなければいけないみたいです。板を脱いでリフトに乗った経験なんてほとんどないから、足が軽くて変な感じ。しかも、手に持った板を落としてしまわないかとそればかりが気になって、とても身体を休める余裕なんてありません。リフト横にはスキー板を置くスペースがあったんですけど、なにもかもが初体験なんで、それをどう利用するかもよくわからなかったんですよね。
「ああ……腕がしびれてきた。ダメだ、板が落ちるうううううっ! 研ちゃん、大ピンチっ!」
まさに、地獄の苦しみでした。おまけに、リフトから降りるときは、足が地面まで届かないし(涙)。
《月山スキーを楽しむためのアドバイス・4》
リフトに乗ったら、脇のスペースに素早くスキー板を置くべし! 足の短い人は、リフトから降りるときも気を抜くな!
リフトを降りて、さあようやっと滑れるぞお! ……と思ったら、またまた板をかついでえっちらおっちら。一体、どれだけ歩けばゲレンデに到着するんだよおおおっ! おがあぢゃあああああんっ! おがあぢゃあああああああんっ! おがあぢゃあああんっあんっあんっあんっ……(やまびこ)
ありゃりゃ。枚数が足りないや。そんなわけで、夏スキーの魅力をなにひとつお伝えできないまま、今回のお話は終わってしまうのでありました。わははは。笑ってごまかしとけ。たぶん、次回に続く!
(作者註:すべて2004年当時の情報です。今はいろいろ変わっていると思うので、決して旅の参考にはなさらないよーに💦)
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