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CASE10 奇跡のドクター殺人事件《問題編》

 持病のイボ痔が悪化した銭山警部。嫌がる黒田刑事を無理やり引き連れ、顔なじみの病院へとやって来た。
「知ってる? 黒田ちゃん。この病院の院長はね、どんな難しいオペでも必ず成功させてしまう名医なのよ。別名、奇蹟のドクターと呼ばれているわ。彼の手にかかれば、治らない病気はないとまでいわれてるくらいなんだから」
「それなのに、警部のイボ痔はなかなか治らないんですね」
「そうなのよ! 世界的な名医までも手こずらせてしまうあたしの肛門って、相当すごいと思わない? 屈強アナルコンテストがあったら、たぶん優勝間違いナシね
 二人が待合室でくだらない会話を続けていると突然、
「ぎゃあっ。院長先生が刺されたあああっ!」
 看護師の悲鳴があたりに響き渡った。
 銭山警部と黒田刑事は跳ねるように立ち上がると、すぐさま悲鳴のあがった手術室へ駆け込んだ。
「院長先生! まだ死んじゃダメ! あたしのイボ痔を切り落としてよ! ついでにナニも一緒に切り落としてくれるとありがたいんだけど。むふふ」
「警部。冗談こいてる場合じゃありませんよ」
 黒田刑事は、胸から血を流して倒れている初老の男性に近づくと、残念そうに首を振った。
「すでに息はありませんね」
「あ……あの人が先生を殺したんです!」
 そばにいた看護師が血相を変え、手術台に横たわる顔色の悪い男――伊舎似成造(いしゃに・なるぞう)を指差した。
「この人、院長先生のオペに憧れて、先生の家で居候しながら勉強を続けている医学部の学生なんです。でも、あまりに一生懸命勉強しすぎたせいもあったのか、胃に腫瘍が見つかって……今から胃の切除手術をするところだったんですよ。それが、手術台に横たわった途端、なぜか麻酔が覚めてしまって。しかも、急に『手術はイヤだ!』って抵抗を始めて、先生の胸をメスで……」
「どうして? 手術が怖かったの?」
 銭山警部が成造に尋ねる。だが彼は、
「まさか。僕は医者の卵だよ。そんなものが怖いわけないだろう」
 と、ふてくされた態度で答えた。
「先生の手術の腕は確かだからね」
「じゃあ、どうして先生を殺したりしたのよ?」
「この人、かなりの遊び人なんです」
 成造を睨みつけながら、看護師が声を荒らげる。
「いつも、街で女の子をナンパしてはホテルに連れ込んでいました。院長先生の娘さんにも手を出して、それが原因で院長先生といざこざまで起こしていたんですよ。あなた、先生のことが邪魔だったんでしょう?」
 看護師のその言葉が引き金となり、銭山警部の頭はフル回転を始めた。
「わかったぴろぴろぴろぉぉん。ぜにーちゃん、あったまいいぃ!」
「さすが警部。で、やっぱり先生の娘さんのことが事件の引き金だったんですか?」
「ノンノン。事件はもっと単純よ」
 銭山警部は鼻の穴をふくらませ、得意げに答えた。

《ぜにーちゃんからの挑戦状》
 伊舎似成造は、どうして憧れの院長先生を殺してしまったのかしら? あなたも推理してみてね。うふ。

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