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下手の横スキー85

第85回 そして今年もフォーメーション(2)

 あ~づ~いいいいいっ!
 なんなんですか、この暑さは? 40℃って、どこの国の気温だよ。こりゃたまらん、と近所のプールへ出かけたら、なんと水温36℃。うーん、お風呂みたいで気持ちいい~。ゆーてる場合か。そんな水温で泳ぎ続けたら鼻血出すわ。
 猛暑の年は、冬に寒くなる……ってな話を聞いたことがありますけど、今年の冬は期待してもいいのかな?
 それにしてもあぢぢぢぢぢ。あまりの暑さに、エアコンも役に立ちません。しょーがないから、テレビアニメ「ひぐらしのなく頃に」でも観て涼しくなろうと思ったのですが、梨花ちゃんのあまりの可愛さに興奮し、ますます暑くなってしまいました。お持ち帰り~!(おい)
 それにしても、梨花ちゃんのなんとまあ可愛いことか(ロリコンモード全開)。「可愛いから、ハグしたい」と打ち込もうと思ったら、「可愛いから、剥ぐ屍体」と変換されました。ひいいいいいいっ。一気に涼しくなっちゃった。

 さて。
 こんな暑い日は、季節はずれのスキーエッセイでも読んで、涼をとるのもまた一興。
 ってなわけで前回に引き続き、フォーメーションのお話です。

 僕たちはひどく焦っていました。
 一昨年や昨年に較べると、圧倒的に練習量が少なく、必殺技として用意した内足ターンも、なかなかタイミングを合わせることができません。
 このままではヤバイ、と焦れば焦るほど失敗が増え、メンバー同士の衝突も多くなる始末。
 ギスギスした気持ちのまま、ついに大会一週間前となりました。
 スキークラブのツアーで野沢温泉へやって来た我々メンバー。本来であれば、クラブ員の指導に当たらなければならないんですが、わがままをいってフォーメーションの練習をさせてもらうことに。
 以前にもちらりと書きましたが、このときの野沢温泉はとにかく積雪が少なく、雪質も最悪。何度もバランスを崩し、メンバー同士が激突することもたびたび。
「無理だあっ! こんなの絶対にうまくできないよ」
「あんた、足をあげるタイミングがおかしいんじゃないの?」
「ええ? 俺のせい?」
「梨花ちゃん、萌え~」
 誰もがイライラし始め、次第に険悪な状態に。
「どうして、これくらいのことができないんだよ!」
「あたしはちゃんとやってるってば。タイミングがずれてるのは、あんたのせいだって」
「今はそんなこといってる場合じゃないだろ? 練習を続けようよ」
「梨花ちゃん、萌え~」
 あれこれいい合っているところへ、僕らと同じようにウェアの柄をそろえた4人のスキーヤーがやって来ました。
「トップはYちゃんね」
「4カウント数えたら右にターンして……」
 立ち止まって、なにやら打ち合わせをしています。もしかして、彼らもフォーメーションの練習を?
「手の動きは……」
「右ターンのときに……」
 熱心に話し合いを続ける4人。誰もが真剣な表情です。格好から察するに、これはかなりの上級スキーヤー。
 ををを。いいものが見られるかもしれないぞ。しっかり観察して、パクれるところはパクっちまおう。
 僕らは喧嘩をやめ、彼らの動きに注目しました。
「じゃあ、行くぞ」
 リーダーらしき男性の合図で、全員がポケットからなにかを取り出します。
 え……なに?
 彼らが握りしめているのはゴムでできた大仏の仮面でした。それらを素早く頭にかぶります。
 僕らの間に戦慄が走りました。
 な、なんだ? 一体、なにが始まるんだ?
「行くぞっ!」
 かけ声と共に、大仏4人衆がスタート。
 さあ、どんな演技を見せてくれるんだ?
 僕は唾を呑み込みました。
 ……え? プルークボーゲン?
 のろのろと滑り始めた4人は、プルークボーゲンで最初のターンを終えました。
「1、2、3、はいっ!」
 先頭の合図で、全員があちこちの方向へ両腕を伸ばしたり縮めたり。
「うおおおおおおっ! みんな、見てくれ! 千手観音だああっ!」
 細かく腕を動かしながら、雄叫びをあげるリーダー。
「千手観音だあああっ!」
「千手観音だあああっ!」
 リーダーのあとを継いで声を張りあげるほかのメンバーたち。
「千手観の……あ」
 仮面をかぶっているため、ほとんど前が見えないらしく、最後尾を滑っていた大仏さんが前方の大仏くんに追突。その衝撃で全員がバランスを崩し、
「うわあっ!」
「きゃああああっ!」
 4体の大仏は悲鳴をあげながら、ゴロゴロと雪の上を転がっていきました。
「…………」
 呆然とその場にたたずむ我々メンバー。
 雪まみれになった大仏たちは、けらけらと明るい声で笑っています。
「……さ、練習を始めようか」
「うん、そうだね」
 僕たちを励ましてくれた大仏4人衆。どうもありがとう! あのとき、君たちに会わなかったら、僕らはいつまでも喧嘩を続け、もしかしたら出場を取りやめていたかもしれません。君たちの笑顔を見て、ようやく見失っていた大切なものを取り戻しました。優勝できたのは君たちのおかげです。
 ――そう。僕たちは昨年に引き続き、2つめの金メダルを手に入れました。

 決して満足のいく演技ではありませんでしたが、やはり内足ターンのインパクトは大きかったみたいです。
 大会終了後、ほかのスキークラブのかたが、「来年のフォーメーションは打倒レブランだな」と話しているのを耳にして、嬉しいやら恥ずかしいやら。
 ほかのチームがそのように思ってくれるからには、来シーズンも頑張らなくちゃなりません。技術は今ひとつの僕らですが、フォーメーションはチームワークとアイデア次第で、いくらでも優勝が狙えます。
 その日の祝賀会では、早くも来年の大会へ向けての作戦会議が始まりました。
「来年は、今年以上にインパクトのある演技をしないとね」
「肩車をして滑るとか」
「宙返りってのはどう?」
「最初は雪の中に隠れていて、スタートの合図と共に空中へ飛び出すってのもよくない?」
 フォーメーションというよりは、ほとんどサーカスなんですけど。
 さあ、V3目指して来シーズンも頑張るぞおっ!

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