VOCADOL 05
FILE.002 5億円盗難事件(2)
▼MAP002-1 新宿三丁目(承前)
(麺処ちゅるうま前)
【ラピス】
「まどかさん。あなたが大金をお持ちだと知っているかたは、ほかにもいらっしゃいますか?」
【結城まどか】
「えーと……妹のありさ。友達のヒトミ。職場の先輩、兼子さんの3人だけかしら」
「みんな、あたしの部屋へ何度も遊びに来たことがあるから、5億円のことはよく知っているはずだけど」
「あたしがいつも、お昼ご飯を買いにコンビ二へ出かけることも、その3人なら知っていただろうし」
【ラピス】
「確かに、その3人が怪しいですね。こちらから出向いて、話を聞いてみることにしましょう」
▼MAP002-2 世田谷区
【ラピス】
「結城まどかさんが5億円の大金を隠し持っていることを知っていたのは3人」
「妹の結城ありささん。友人の七瀬ヒトミさん。職場の先輩、兼子唯さん」
「全員、世田谷区に住んでいるそうなので、一人ずつ訪ねてお話を聞いてみましょう」
「犯行が行なわれてから、まだそれほど時間も経っていませんし、もしかしたら犯人は5億円を所持したままかもしれません」
「電車賃は私が立て替えておきましたから、みなさん、あとできちんと支払ってくださいね」
【杏音】
「5億円を取り戻したら1割もらえるんだから、ケチくさいことはいわないで」
「事件が解決したら、100倍にして返してあげるね」
【ラピス】
「さて。まずはどなたを訪ねましょうか?」
(砧公園)
【ラピス】
「妹の結城ありささんは、いつもこのあたりをジョギングしているそうなのですが……」
「ああ、きっとあのかたですね。お姉さんと顔がそっくりです」
【結城ありさ】
「なにか用?」
「お姉ちゃんちが荒らされた?」
「やっぱりね。いつかそんなことになるんじゃないかと思ってたけど」
【ラピス】
「それはなぜです?」
【結城ありさ】
「お姉ちゃんって昔から、頭に浮かんだ数字を口に出しちゃうクセがあるの」
「たぶん、金庫の暗証番号も、扉を開けるたびにつぶやいていたんだと思う」
「それを誰かに聞かれちゃったんじゃないのかな?」
【ラピス】
「なるほど。考えられますね」
【鳥音】
「そんなこといって、ホントはあなたが盗んだんじゃないの?」
「観念して、私が盗みましたと白状しなさい! ほら、今持っているものを残らず出して」
【ラピス】
「カノンさん……少し、強引すぎませんか?」
【結城ありさ】
「べつにかまわないけど。はい、どうぞ」
【ラピス】
「スポーツ飲料の入ったペットボトルと……テレビのリモコン? なぜ、リモコン?」
【結城ありさ】
「あ。携帯電話と間違えてうっかり持ってきちゃったみたい」
【鳥音】
「……怪しい。やっぱりこの子、怪しすぎる」
(豪徳寺)
【ラピス】
「お友達の七瀬ヒトミさんは、このお寺の住職なのだそうです」
【鳥音】
「おっかない人だとイヤだなあ」
【七瀬ヒトミ】
「どのようなご用件でしょうか?」
【鳥音】
「うわっ! 出たっ!」
【ラピス】
「あの……私たち、住職さまに尋ねたいことがあってこちらへうかがったのですが」
【七瀬ヒトミ】
「まどかさんの部屋にドロボウが?」
「そのドロボウ、今頃がっかりしていることでしょう」
【ラピス】
「え? どういうことですか?」
【七瀬ヒトミ】
「だって、まどかさんの部屋には盗まれるようなものなどなにも置いてありませんから」
「部屋にあるものといったら、冷蔵庫とテレビとこたつとストーブ……それだけです」
【ラピス】
「部屋の中に隠していた5億円を盗まれたそうですけど」
【七瀬ヒトミ】
「5億円? あの子がそんな大金、持っているわけないでしょう」
「その日に食べるご飯ですら、困っているくらいなのですから」
【ラピス】
「……なんだか話が食い違ってますね」
【鳥音】
「騙されないで、ラピス。すっとぼけてるだけかもしれないよ」
「この人、怪しいかも」
【ラピス】
「あの……持ち物を調べさせてもらってもよろしいでしょうか?」
【七瀬ヒトミ】
「よろしいですよ。それで私の疑いが晴れるのであれば」
【ラピス】
「使い捨てカイロと風邪薬。とくに怪しいものは見つかりませんね」
【杏音】
「……仏様の頭って、ブリオッシュみたいでなんだか美味しそう」
つづく
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