フォスター・チルドレン 88
最終章 ありがとう、さようなら(6)
3
蘭と別れたあと、僕は一人、バイクを飛ばして南へ走った。
親父が交通事故に遭った日――それは「ロック天国」初戦を勝ち抜いたことを祝うためにやってきた店の前で、僕がバンド仲間と喧嘩をした日と同じだった。
そうだ。あの日、僕らがやってきた店は「愛夢」だった。僕らが喧嘩をしていたその店の中に親父はいたのだ。
僕はそこからまっすぐ海へ――南へと走った。ひょっとしたら、親父は僕を追いかけてきたのではないだろうか?
――実現するはずもない夢にしがみつくのはやめたらどうだ?
――夢を見てなにが悪い?
店の前で起こった喧嘩は、十三年前の親父と僕の台詞をそっくりそのまま繰り返していた。僕の叫び声を店の中から聞いた親父は、その言葉に敏感に反応し、十三年前と同じように、靴を履くのももどかしく外へ飛び出したのだ。車に飛び乗った親父は懸命に僕を追いかけ――そして信号無視を――。
裸足の親父。
そうだ。もっと早く気がつくべきだった。
ずっと不思議で仕方がなかったのだ。
僕が自殺未遂をしたあの夜、駆けつけた親父になぜ底知れぬ愛情を感じたのか?
親父は――僕を追いかけてきた親父は裸足だった。その光景を目の当たりにして、僕はこの人に愛されていることを知ったのだ。
自殺未遂という思い出したくない記憶と共に、裸足の親父の記憶も封印されてしまっていたのだろう。
あの夜と同様、親父は僕を追いかけ、海へ続く道を走り続けたのではないだろうか。
親父が朋美のアパートから転落した事件と同じように、もう真相は誰にもわからない。僕の考えているとおりなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。結局のところ、僕が親父を殺してしまった――それが真実とも考えられるし、実はそうでないのかもしれない。
真相がどうであったとしても、僕がずっと親父の愛情を忘れていたことだけは明らかだった。僕は親父のために罪滅ぼしをしなければならない。
罪滅ぼし。
一体、なにをすればいいのだろう?
謝りたくても――親孝行をしたくても、もう親父は存在しないのだ。
海を眺めていると、涙がこみ上げてきた。
なにもかも遅すぎた。
真実に気がつくのがあまりにも遅すぎた。
僕は愚かだった……。
実家に戻ると、何通かの郵便物が届いていた。
僕は封筒を握りしめると、家の中に上がりこみ、明かりをつけた。ここへ来るのは告別式の日以来だ。あれからずっと閉めきったままだったので、まだかすかに線香のにおいが漂っているような気がした。
しんと静まり返った家の中は、ひどく寂しかった。僕は応接間に飛びこみ、ステレオのスイッチを入れた。自動的にカセットテープが再生されて演歌が流れて出したので、舌打ちしながらラジオのスイッチを入れる。が、FMのアンテナを取り付けていないらしく、いくらチューニングを合わせても、雑音しか入らない。
つづく
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