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下手の横スキー62

第62回 チームウェア決定!

 ……ううう(涙)。
 寝たきり生活からようやく解放されたというのに、今度は本当に寝込んでしまいましたよ。
 なんだか喉が痛いなあ、と思っていたら、次第に身体がだるくなってきて発熱。最初は微熱だったのに、うわあ、どんどん上がる、どんどん上がる。喉のほうもますます痛くなり、唾も飲み込めないまでに。
 ひと晩過ぎても熱が引かず、水を飲むのもひと苦労なので、こりゃたまらんと病院へ。
 喉を覗き込んだ先生。
「あは。扁桃腺に膿がいっぱい♪」
 なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。
 さらに、チューブ状のカメラを鼻に突っ込まれちゃいました。
「痛くありませんか?」
 痛くないけど……あ……あ……気持ちいい(ぽっ)。
「うわあ、腫れてますねえ」
 いや、先生。そんなところをじろじろと見つめないで。研二、恥ずかしい。
 こうして、私は新たな快感に目覚めたのでした(おい)。
 診断の結果は急性扁桃炎。要するに、風邪をこじらせて扁桃腺が腫れちゃったってことらしいです。
「ずいぶんと涼しくなってきましたからね。窓を開けたまま眠ったりしていませんでしたか?」
 あう。ビンゴ。
「あと、身体も疲れていたのでは?」
「はい、確かに」
「仕事もほどほどにしてくださいね」
 いえ。仕事はいつもほどほどです。疲れていたのは、残り少ない夏を満喫しようと、昼間はプール、夜はカラオケとはしゃぎすぎたせいで……。考えてみれば、どちらも喉には悪そうだよな。
 ってなわけで、3日ほどくたばっておりました。あ、今はすっかり元気になりましたので、皆様ご心配なく。え? 誰も心配してない?
 おまえら、鼻からカメラ突っ込んで、ひいひいいわせたるぞおっ!
 ……取り乱しました。

 さて。
 僕のホームゲレンデでもある鷲ヶ岳スキー場が、11月11日にオープンするという情報が舞い込んできました。あと2ヵ月しかありません。そろそろ来シーズンの準備を始めなければ。
 といっても、スキー板、スキーブーツ、スキーキャリア、スノータイヤ――すべて昨シーズンに新調したばかりので、今年はとくにそろえるものもありません。ってゆーか、昨シーズンはろくに仕事もしなかったのに、よくそれだけお金があったなあ。いや、なかったから、住み込みでインストラクターをしていたわけだけど。

 新しく買うとしたらスキーウェアかなあ。3シーズン使い続けて、かなりみすぼらしくなっちゃったし……と思っていた矢先、所属するスキークラブで新しいチームウェアをそろえることが決定。
 ってなわけで、メーカーの人に最新モデルをいくつか持ってきてもらって、どれをチームウェアにするか、皆で検討会。

 いやあ、最近のウェアはすごいですね。3年前のものに較べて軽いし、暖かいし、そしてなにより機能性抜群。
 胸の内側に、プラスチック製のフックみたいなものがついているので、「なにこれ? なにこれ? つけ乳首?」と尋ねたところ、なんと携帯音楽プレイヤーのヘッドホンを固定するストッパーでした。すげえ。そんなものが標準でついてくるなんて、時代の流れを感じさせます。

 今までのウェアは内側に大きなポケットがついていて、そこにゴーグルやサングラスをしまい込んでいました。でも、出し入れするためには、いったんフロントファスナーを下ろさなければならなかったんですよね。その日が吹雪だったりしたら、そりゃもう大変。
 しかし、最新ウェアはすごいっ! フロントファスナーを開けずに内ポケットが使えるよう工夫されており、これならもう凍える心配もありません。しかも、貴重品ポケット、携帯電話ポケット、音楽プレイヤーポケット、サングラスポケット、ゴーグルポケットと細かく分かれていて、「おまえはドラえもんか?」とツッコみたくなるくらいの収納上手! うおー、すげえ。
 ……うーん、なんだかテレビショッピングみたいになってきたぞ。

 個人的に一番感心したのは、内襟部分がウェアから取り外せること。スノースポーツをやるかたならわかると思うんですが、内襟って、鼻水やヨダレがべっとり染みついて、けっこう汚れるんですよね。香ばしいにおいに、なんど卒倒しかけたことか。かといって、シーズン中にクリーニングに出すこともできないので、ひたすら我慢するしかなかったんですが、脱着可能で、しかも洗濯機で洗えるというのだから、こりゃたまらん。
 やっぱり、新しいものってのはいいなあ。
 そんなこんなで、ウェアのデザインに関しては、とくにもめることもなく、すんなりと決定しちゃいました。

 問題は色の組み合わせ。老中男女(20代以下はいないので、老若男女とは呼べません)、すべてのメンバーが気に入るカラーにしなくてはならないため、ここからは喧々囂々の大論争。リンリン・ランランは恋のインディアン人形。
「ここは無難に、上下とも黒で統一しませんか?」
「待った! それじゃあ、あまりにも地味すぎる。目立たなくちゃ意味がないっ!」
「じゃあ、何色がいいと思います?」
「上から下までピンク♪」
「ええええええ?」
「ついでに、チューリップのアップリケもつけちゃう?」
「つけませんよ」
「うーん、いけずぅ。とっても可愛いのに……」
 と、そこにクラブの首領――T会長が登場。
「ふははははは。まだまだ甘いな、おまえたち」
「ああ、会長!」
「会長はどのようなお考えで?」
「目立つためにはこれしかない! 上は何色でもかまわん。問題は下だ! スキーでは、脚部の動きがしっかりとわかるウェアを身につけたほうが、審判員の受けもよい。だから──」
「……だから?」
「下半身はすっぽんぽんだあああっ! うわあっはっはっは。うわっはっはっはっ……あっ、おまえら、なにをする? いや、やめて。やめてってば。あかん、そんなことしたらあかーーーん!」
 ってことで、ウェアの色は赤に決まりました。え? どゆこと? そんなこと、僕にもわかりません。

 さあ、あとはサイズチェックのみ。見本のウェアを試着して、サイズを確かめていきます。
「ウェストはLサイズでぴったりだけど、股下が長すぎるよなあ」
 とぼやいていていたら、メーカーのかたが揉み手をしながら近づいてきました。
「はいはい、そういうかたのために、ちゃんとご用意してありますよ。ウェストL、股下Mのカスタムサイズです」
「どれどれ? おおおおっ! ジャストフィット! こいつに決定だあっ!」
 サイズ表に必要事項を書き込んで、すべての作業は終了。
 と、そのとき。
「あの……すみません」
 男前のI君がメーカーの人に話しかける声が聞こえてきました。
「ウェストMサイズ、股下LLサイズという商品はありますでしょうか?」
 その瞬間、彼に嫉妬と羨望の眼差しが集中したことはいうまでもありません。

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