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フォスター・チルドレン 79

第6章 私の願いを聞いてください(13)

 葉月に会うつもりだった。蘭は朋美の飛び降りる直前、屋上あたりに葉月らしき姿を見かけたといっている。そういえば、僕もそのとき「……殺してやる」という声をかすかに耳にした。
 今思えば、あれは葉月の声だったのではないだろうか?
 とにかく――真相を握っているのは彼だと思った。
 僕は葉月が勤めているガソリンスタンドまでバイクを飛ばした。
 蘭の泣き顔が浮かび、心臓を締めつけられるような鈍い痛みを感じる。
 ……とんだ道化師だ。
 僕は朋美にも蘭にも好かれているのだと思っていた。それがどうだ? ただ自惚れていただけじゃないか。
 ――あたし、やっぱり今でもあなたを好きだってことに気がついた。
 蘭の言葉がよみがえる。
 信じられない。信じられないよ、そんなこと。
 僕はガソリンスタンドにバイクを乗り入れると、給油と勘違いして近寄ってくる店員を無視して、葉月の姿を探した。しかし、彼らしき人物はどこにも見当たらない。
 事務所に飛びこみ、先日会ったショーコに彼の行方を訊く。
「ああ……葉月さん、やめっちゃったんです」
 困ったような表情を浮かべながら、ショーコは店長に顔を向けた。
「やめた?」
「今朝、電話がかかってきてさ、いきなりやめるって」
 店長がレジの金をいじりながら、不機嫌そうに答える。
「真面目な奴だったから、信頼していたんだけど、裏切られたって感じだな」
 やめた――不吉な予感が頭の中を駆けめぐった。
 ……逃げた?
 僕は強引に葉月の住所を聞き出すと、さらにバイクを飛ばした。
 葉月の部屋は古ぼけた二階建てのアパートの一室だった。
 部屋には表札すらかかっていなかった。何度ノックをしても返事がないので、郵便の差しこみ口から部屋の中を覗く。部屋の中はガランとしていて、家具ひとつ置かれていない。
 やっぱり逃げたのか?
 どこへ行った? 逃げるとしたら、一体、どこへ?
 僕は葉月のことをあまりにも知らなさすぎた。こういう場合、彼が向かう場所として知っているのはひとつだけだ。
 朋美のアパート?
 まさか――それでは警察の捜査網に自ら飛びこんでいくようなものだ。しかし、万が一ということもある。
 朋美のアパートへ向かった。
 途中、横道から飛び出してきた子供とぶつかりそうになり、激しく転倒する。バイクの運転には自信があったので、僕らしくないミスだった。
 幸い子供に怪我はなく、バイクも無傷だったが、足の爪先をバイクに挟んでしまい、激痛が全身に走る。
 しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。僕はバイクを起こすと、子供に謝り、すぐにその場を立ち去った。上着についた泥を払っている余裕もない。

つづく

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