VOCADOL 18
FILE.004 飛べない白鳥殺人事件(5)
▼MAP0004-5 大阪市内
(うふふ芸能プロダクション)
【kokone】
「ここだよ。チーム動物園の所属する事務所は」
【メルリ】
(ビルひとつがまるまる事務所になってるだなんて、さすが大手芸能プロダクションね)
【更科愛華】
「なにか用かしら?」
【メルリ】
「……あなたは?」
【更科愛華】
「チーム動物園のマネージャーだけど」
「あら、みんな可愛いのね。もしかして、動物園ガールズのオーディションを受けに来た人たち?」
「だったら、会場はここじゃなくて天王寺動物園よ」
【kokone】
「ご親切にありがとうございます」
「みんな、早く行こう」
【メルリ】
「……え? ちょっと待ってよ。あたしたち、オーディションを受けに来たわけじゃないでしょう?」
「チーム動物園のメンバーに会いにきたのに、どういうこと?」
【lily】
「kokone。アイドルを辞めて、お笑い芸人になろうと考えているのですか?」
【kokone】
「まさか。そんなわけないって」
「動物園ガールズっていうのは、チーム動物園のサポートをする女の子たちのこと」
「そのオーディションがあるってことは、もしかすると現場にチーム動物園のメンバーがいるかもしれないでしょ?」
(天王寺動物園)
【lily】
「オー! 動物園に来ると、ハートがウキウキしちゃいますね」
【kokone】
「通天閣も見えるよ。あとでビリケンさんの足をさわりに行かない?」
【メルリ】
「観光に来たわけじゃないんだから、もう少し気を引き締めたらどう?」
(ビリケンか。足の裏を掻いてあげると、御利益があるんだっけ)
(あとでこっそりさわりにいっちゃおうかしら)
【ウルフ】
「こんにちは、べっぴんのお嬢ちゃんたち。オーディション会場はこっちやで」
【lily】
「ワオ! 本物のウルフです!」
「あの……サインいただけますか?」
【ウルフ】
「なんや。あんたたち、オーディションを受けにきたんと違うんか」
「もったいない。あんたたちみたいに可愛かったら、絶対合格するのに」
【メルリ】
「ウルフさん。このたびはご愁傷様」
「だけど、リーダーが亡くなられたばかりだというのに、もう仕事? ずいぶんと働き者なのね」
【kokone】
「ちょっと、メルリ。失礼だってば」
【ウルフ】
「仕事で気持ちを紛らわせんと落ち込んでしまいそうでな」
「今日のオーディションはスタッフに任せるつもりやったんやけど、今夜の公演も中止になったことやし、うちがやるって自分から申し出たんや」
「……で、うちになにか用?」
【メルリ】
「あたしたち、こう見えて実は私立探偵なの」
(……真っ赤な嘘だけど)
「スワンの死に疑問を感じて捜査をしているんだけど、少しだけ話を聞かせてもらえないかしら」
【ウルフ】
「うちもあれは自殺やないと思てるねん」
「飛び降りる瞬間を目撃したうちがゆうんやから間違いあらへん」
「だけど、警察はうちのゆうことなんて、ちっとも信用してくれへんねん」
【メルリ】
「事件を目撃したときのことを、もう少し詳しく教えてもらえる?」
【ウルフ】
「ゆうべは午前1時に解散して、それぞれの部屋に戻ったんやけど、なかなか眠れへんかったから、ウサ美とハム子を無理矢理叩き起こして、朝まで飲み明かそうって提案したねん」
「そうしたら、『お酒はもういい。新作の稽古をしよう』ってウサ美がいい出して、夜中の2時からホテルの裏庭でナイトガウンを着たままネタ合わせ。うちら、仕事熱心やろ?」
「3人で稽古を続けてたら、上のほうからスワンの叫び声が聞こえて……なんやろ? と空を仰いだら、あいつが降ってきたってわけ」
「いやあ、あのときはホンマ驚いたわ」
【メルリ】
「スワンはなんて叫んでいたの?」
【ウルフ】
「『助けてくれ! 死にたくない!』って。な。自殺とは思えへんやろ?」
「うちの話、嘘やないで。ハム子もスワンの叫び声を聞いてるから、確認してみたらええわ」
【メルリ】
「ハム子さんはどこに?」
【ウルフ】
「大阪城公園におるんとちゃうかな」
「あの子、悲しいことがあると必ず、城を眺めに行くみたいやから」
【kokone】
「スワンさんが亡くなったショックは、やはり大きいんでしょうね」
【ウルフ】
「ああ、違う違う。スワンが死んで悲しんでるメンバーなんて、誰もおらへんで」
「みんな、あいつの度を越したわがままにはいい加減、うんざりしてたからな」
「ハム子が悲しんでる理由は別にあるねん。あとは直接、あの子の口から聞いてみたらええわ。あんたたちのことは電話で伝えておくから」
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?