下手の横スキー05
第5回 ゲロゲロゲロゲロ
皆さん、こんにちは。イボ痔に苦しむ黒田です。ってそんなこと、ここで正直に告白しなくてもいいか。ああ、でも座薬ってカ・イ・カ・ン。ちょっとクセになりそう(おい)。
さて、前回の「スキーv.s.スノーボード」に関して、こんなメールをいただきました。
「下手の横スキー」、読みました。
いつも楽しい話題を提供してくださって、ありがとうございます。さすがですなー。
ところで「スキーv.s.スノボ=オヤヂv.s.若者」のような件がありましたけど、異議あり!
基礎スキー(もはや死語ですが)ばかりがスキーじゃありませんよ。
連休に某スキー場へ行ったら、そこはフリーライド&モーグル天国と化していて、ボーダーのようなオシャレな若者ばかりでした。女の子もかわいかったですよ。
こんなことはとっくに知っているのかもしれませんが、念のためご報告しておきます。
では、がんばってオ●ニーしてください。
最後の一文は、余計なお世話だ(怒)。まったく……。『ちゃれんじ?』が発売されてからというもの、みんなから「オナ●ー大好きオヤヂ」みたいに思われて、とっても迷惑しています。まあ、あそこに書かれていることはすべて事実だから、なにひとつ反論できないんだけどさ。
それはさておき、モーグル天国ぅ? 上村愛子みたいな女の子がうじゃうじゃいるだってぇ? う、羨ましい! そんなゲレンデに遭遇したことなんて、オヂサンこれまで一度もありません。どこのスキー場か、今度じっくり教えてください(論点が微妙にずれてるような……)。
えーと、いつものことですが、前置きが長くなってしまいました。ここから本題。
4月某日にミステリ作家の二階堂黎人さんと群馬県・丸沼高原へ出かけ、めいっぱい春スキーを楽しんでまいりました。
この日の東京は気温が25℃近くまで上がり、ほとんど夏状態だったんですけど、車で北上するうちに少しずつ涼しくなっていき、沼田市内は桜が満開。
丸沼高原に到着すると、今度は一面雪景色。1日のうちに、夏、春、冬を同時体験しちゃいました。景色が次々に変わっていくから、長いドライブも全然苦になりませんでしたね。秋がないから、「飽きない」なんて、そんなベッタベタな駄洒落をいうつもりは毛頭ありませんけど(いってるぢゃん)。
丸沼高原スキー場のゴンドラには、《気分が悪くなったときにお使いください》という貼り紙と共に、エチケット袋が用意されていました。うーん、配慮が行き届いてるなあ。
泊まりがけでスキーにやって来ると、どうしても飲み過ぎちゃって、次の日はひどい二日酔いってパターンが多いんですよね。そーゆーときのゴンドラって、ものすごくツライんです。一度に大勢の客を収容できる立ち乗りゴンドラなんて最悪。狭い密室でギュウギュウ詰めにされれば、二日酔いじゃなくたって気分が悪くなります。だけど、そんな場所で吐くわけにもいかない。「吐いちゃいけない」という思いがさらにプレッシャーとなってのしかかり、まさに地獄の苦しみです。
隣の人が、
「今日のお昼はなに食べる?」
「こってりとしたものが食べたいなあ。油ぎっとりのフライドチキンなんてどう?」
なんて会話でも交わしていたら、もう大変ですね。さらに強風でゴンドラが揺れたら、悶死確実。そんなわけで、丸沼高原のゴンドラ内に用意されたエチケット袋には、ひじょーに感心しちゃったんであります。
さてさて、「今回は春スキーについて語るのか?」と読者の皆様に思わせておいて、実はゲロの話だったりします(笑)。
昨シーズンは、スキー場でとんでもない失態をやらかしてしまいました。今思い出しても、赤面モノの出来事です。
2月某日。その日は締切間際の仕事がなかなか終わらず、結局一睡もしないままスキー場へ直行する羽目に。栄養ドリンクでエネルギー補給をすませ、滑り始めたまではよかったんです。でもモーグルバーンを1本滑り終えると、途端に気分が悪くなってきました。
うーん、うーん、苦しいよお──と悶えながら、友人たちとリフトに乗り込んだところで、猛烈な吐き気。
「ううううう、気持ち悪い……」
「そういうときは、気分転換になにか楽しいことを考えるといいよ。甘ったるいケーキを腹いっぱい食べたときのこととか思い出してさ」
「ううう……(ますます気持ち悪くなる)」
脂汗を浮かべて必死に耐えていると、なぜかリフトが急停止。ブランコに乗っているみたいに、身体がぶらぁんぶらぁんと前後に揺れ動きます。
「うわあ、揺れてる、揺れてるう。あ、動き出した」
「リフトの揺れって、結構胃に来るんだよねえ。くろけんさん、大丈──」
「うげえええええええええ。げろげろげろげろおおおおおおおお」
全然、大丈夫じゃありません。
ついに我慢できなくなり、リフトの上から、大量のゲロをまき散らしてしまいました。
リフトの真下はゲレンデだったんですけど、誰もいなかったのが不幸中の幸い。美しい曲線を描きながら、嘔吐物は雪の上へと落ちていきました。栄養ドリンクを飲んだせいで、舞い散るゲロは見事な茶褐色。それが陽の光に照らされて、キラキラ輝いてます。光るゲロ。「あしたのジョー」のアニメを思い出しちゃいました。ああ、キレイ♪ ゆーてる場合か。
その瞬間をゲレンデから目撃した人は、きっと驚いたでしょうね。リフトからゲロをまき散らすオヤヂなんて、そうそう見られるもんじゃありませんから。いや、でも一番びびったのは、後ろのリフトに乗っていた人たちでしょう。もしかしたら、霧状のゲロが全身に降りかかっていたかもしれません。ああ、本当に申し訳ないことをしました。
一緒にリフトに乗っていた友達は、かなり気の知れた間柄だったんですけど、いやあ、それでもやっぱり気まずかったですね。会話もぴたりとやんで、沈黙だけがいつまでも続きます。
ううう。重たい空気に押しつぶされそうだ。ここは明るく振る舞っておかなければと、リフトを降りたところで、
「大丈夫だよぉん」
と陽気におどけてみせたのですが、友人らは困ったような表情で、僕のウェアを指差し、
「……全然、大丈夫じゃないって」
ぼそりと呟きました。
「え?」
ウェアの胸元を見ると、うがああああああ、ゲロまみれだあああ。
近くにあった雪をつかんでウェアにこすりつけてはみたものの、染みは広がっていくばかり。ええいっ! こうなったらもうヤケクソだあ。
「えへへえ。今朝食べたカレーパンの未消化部分をはっけぇん。オイシイかな? オイシイかな? もう1回、食べちゃおうかな? ぱくっ。うわっ、すっぱぁい」
現実逃避モードに入り、危ないオヤヂと化しながら、へらへらとゲレンデを滑り降りていった僕なのでありました。
どうやら胃腸風邪だったらしく、そのあとはレストハウスのトイレでゲロゲロ、こりゃダメだと車に戻って休んでいるときにもゲロゲロ、カエルの大合唱が延々続きましたとさ。めでたし、めでたし。ケンちゃん、げっそり。
僕がゲロをまき散らしたそのスキー場には専属のディスクジョッキーがいて、客からのメッセージを読んだり、リクエスト曲をかけてくれたりします。友人の1人が、今回の顛末をメッセージカードに書き込んでリクエストボックスへ投函。しばらくしてそのメッセージは読み上げられたのですが、
『友達3人で来ています。1人が体調を崩して大変です』
ゲロの話はいっさい伏せられ、とてもキレイにまとめられておりました。さすがプロ。
『それは心配ですね。お友達の体調はよくなりましたか?』
「ならねえよ。ゲロゲロ」
コンビニ袋を抱え、悪態をつく僕。
『では、Rさんからのリクエストです。宇多田ヒカルで《嘔吐マチック》』
「うがああああ。やめてくれえええっ!」
ゲロの海に溺れながら、僕の意識は次第に遠ざかっていったのでした。
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