見出し画像

CASE14 奇妙なストーカー殺人事件《問題編》

 梅雨の真っ只中、駅のプラットホームから若い女性が突き落とされ、電車に撥ねられて死亡するという悲惨な事件が起こった。というわけで、毎度おなじみ銭山警部と黒田刑事が現場に急行する。
「この雨、一体いつまで降り続くわけ? 全身、びしょ濡れになっちゃったじゃない。いやん、お気に入りのクマさん柄のブラジャーが透けて見えちゃう♪」
 胸もとを気にしながら、銭山警部が頬を赤く染める。
「被害者は須藤佳代(すどう・かよ)。都内の短大に通う女子学生です。いつも、この駅から電車に乗って通学していたようですね」
 ブラジャーを見せつけようとする警部を無視して、黒田刑事は淡々と話を進めた。
「須藤佳代をホームから突き落とした犯人は、すぐに現行犯逮捕されました。駅構内の売店で働いている清洲功(きよす・いさお)、三十歳。周りの人には《水虫兄ちゃん》と呼ばれていたそうです」
「水虫兄ちゃん?」
「この季節になると決まって水虫が悪化し、いつも足をもぞもぞと動かしているので、通勤客からそう呼ばれるようになったのだとか」
「あら可哀想。あたしも経験者だからわかるわぁ。梅雨どきの水虫って、ものすごくかゆいのよねぇ。で、その水虫兄ちゃんがどうして殺人なんて大それたことを?」
「ストーカーまがいの行為を繰り返す須藤佳代に腹を立て、衝動的にホームから突き落としてしまったのだと証言しています」
「二人は以前から顔見知りだったってことかしら?」
「どうやら、そのようですね。清洲功の話だと、須藤佳代は毎日のように売店へ顔を出し、彼に女性ものの洋服を手渡していたそうです」
「女性ものの洋服? プレゼントにしては、ちょっと奇妙ね。功ちゃんには女装趣味があったのかしら?」
「いいえ、まったく。しかも、洋服といっても、すべて古着で、どれも色あせたり破れたりしていたようです」
「あらら。そうなると、単なる嫌がらせだわね」
「清洲功も腹を立て、『どうしてこんなものを俺に押しつけてくるんだ?』と何度も尋ねたらしいのですが、彼女のほうは『毎日、お願いされるからに決まってるじゃない』と意味不明な発言を繰り返すばかりで、まったく埒が明かなかったとか」
「確かに、わけがわからないわね」
「おかしなことはほかにもありまして。須藤佳代は清洲功のことを『内川さん』と呼んでいたそうなんです
「内川さん? 誰なの、それ?」
「さあ? 清洲功は、なぜ自分が『内川』と呼ばれるのか、その理由がさっぱりわからなかったと話しています。そのような意味不明の行動が毎日続いてイライラが募り、水虫のかゆさも重なって、ついには殺人に至ってしまったと……まあ、そういうわけでして」
「佳代ちゃんが功ちゃんに古着のプレゼントをするようになったのはいつから?」
「ちょうど二週間前です。梅雨入りし、持病の水虫が悪化したその日に、須藤佳代が現れたそうで」
 黒田刑事のそのひとことが引き金となり、銭山警部の脳細胞はフル回転を始めた。
「わかったぴろぴろぴろぉぉぉん。ぜにーちゃん、あったまいいぃぃぃぃ」
「え? 須藤佳代の奇妙な行動の理由がわかったんですか?」
「モチのロン。なぜ、彼女は功ちゃんに古着をプレゼントしていたのか? なぜ、功ちゃんの名前を内川だと思ったのか? なにもかも、ぜーんぶわかっちゃった」

《ぜにーちゃんからの挑戦状》
 須藤佳代の奇妙な行動の真相は? あなたも推理してみてね。うふ。

※解決編はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?