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黒田研二
2024年3月31日 07:04
22.歯車は壊れた(13)5(承前)「俊君……これを見て」 瞳は手に持っていた定期入れを開き、俊の前に差し出した。 中には一枚の写真が入っている。 そこに写っていたのは――「……あ」 俊は手元の写真と定期入れの中の写真を見較べた。 どちらにも赤ん坊が写っている。 赤ちゃんなんてどれも同じような顔をしていると思うが、それにしたって顔がうりふたつだ。 双子か、そうでなければ同一人物
2024年3月30日 06:25
22.歯車は壊れた(12)5(承前) 封筒の口から中身が飛び出し、周囲に散らばった。「大変だ!」 慌てて、バラバラになった便箋と写真を集め始める。「私も手伝うね」 瞳はそういうと、彼女の目の前に木の葉のように舞い降りてきた一枚の写真を拾い上げた。「あ――」 写真に目をやり、瞳が小さな悲鳴をあげる。「どうしました?」 心配になって俊は尋ねた。 しかし、瞳はなにも答えない。 黙
2024年3月29日 09:33
22.歯車は壊れた(11)5(承前) 不意に声がかかる。「君、もしかして春日っていうんじゃない?」 いきなり、見知らぬ女性が俊の顔を覗き込んできた。 高校生くらいだろうか? 整った顔立ちをしている。「ええ……そうですけど……」 どぎまぎしながら、俊は答えた。「お父さんは春日洋樹さん?」「……はい」「やっぱり!」 彼女がにっこりと笑う。 天使のような笑顔に胸が高鳴った。「
2024年3月28日 05:06
22.歯車は壊れた(10)5(承前)「どこにいるのか……それは父さんにもわからない」 なにもない宙を見つめ、洋樹はいった。「十六年前の話だ。友恵の生まれる四日前……自宅が全焼した」「全焼って……火事?」「ああ。俺の煙草の不始末が原因だった。その火事で俺たちはなにもかも失ってしまった。生まれてくる赤ん坊を育てるなんて……そんな余裕はどこにもなかったんだよ」「……赤ん坊をどうしたの?」
2024年3月27日 05:13
22.歯車は壊れた(9)5(承前)「あなた……」 由利子が口を開く。「俊が見つけちまったんだよ。あの封筒を……」 洋樹はため息まじりに説明した。「母さん、教えて」 動揺する母の姿に戸惑いながらも、俊は尋ねた。「友恵っていうのは誰?」 由利子は助けを求めるように洋樹の顔を見た。「もう隠せそうにない。正直に話そう」「でも……」 由利子の不安げな表情。「いつかはわかることだ」
2024年3月26日 04:24
22.歯車は壊れた(8)4(承前) 逃げなきゃ! とっさに、ハンドバッグで男の顔を叩く。「いてっ」 男は鼻を押さえてうずくまった。 隙をついて逃げようとしたが、しかし右腕をつかまれる。 男の力は異常に強かった。「いた……痛い……」 脂汗が額ににじむ。「逃がすものか」 男は舌なめずりをすると、真知をひきずり、路肩に停めてあった車の中へと連れ込んだ。「いや、放して!」 激しく
2024年3月25日 21:16
22.歯車は壊れた(7)4(承前)「……真知」 ぶたれた頬を押さえながら、彼女の顔をじっと見る。「俺を信じてくれないのか?」 真知は中西を睨みつけたまま、なにも答えない。「俺を信じてくれないのか?」 中西は同じ質問を繰り返した。「あたしだって……あたしだって……」 真知の唇が小さく動く。「あたしだってあなたを信じたいわよ!」 彼女はそう叫ぶと、中西の手を振り払って店の外へ飛び
2024年3月24日 06:54
22.歯車は壊れた(6)3(承前)「ねえ……」 独り言を呟く。「私、これからどうすればいいの?」 しかし、答えてくれる者はいない。 瞳はその場にうずくまり、声を荒らげた。「誰か教えてよ! 私、どうすればいいの?」4「だから誤解だって」 中西は嫌がる真知を強引に喫茶店へ連れ込むと、懸命に弁解し続けた。「俺はあの娘を愛してるわけじゃない」「愛してない? じゃあ、あの娘を見つ
2024年3月23日 09:07
22.歯車は壊れた(5)3(承前) 私たちはある理由から――たとえどのような理由があろうとも、決して許されることではないのですが――娘の面倒を見ることができなくなってしまいました。 この手紙を読んでくださっているあなたが、娘を可愛がってくださる心の優しいかたであることを、ただただ祈るばかりです。 どうかこの娘を幸せにしてやってください。 よろしくお願いいたします。 瞳は便箋に目を通し
2024年3月22日 08:38
22.歯車は壊れた(4)3 瞳。 私は今、こうして筆を取りながらもまだ悩んでいる。 この事実はできることなら、永遠に伏せておきたかった。 でも、きっといつかばれてしまうに違いない。 だったら、私から伝えたいと思った。 単刀直入にいおう。 瞳、おまえは私たちの本当の娘ではない。 お母さんの体内から取り出された赤ん坊は息をしていなかった。 死産だったのだ。 私たちのショックは大き
2024年3月21日 08:15
22.歯車は壊れた(3)2(承前)「……入ったよ」 俊は正直に答えた。「鍵がかかっていなかったからつい……」「あの部屋には絶対入るなといってあっただろう?」「どうして?」 父がそれほど怒ってないことを感じ取り、そう尋ねる。「あの部屋には大切なものがしまってあるからだ」 洋樹は冷静な口調で答えた。「大切なものって……これ?」 ポケットの中から色あせた封筒を取り出す。 屋根裏部
2024年3月20日 08:13
22.歯車は壊れた(2)1(承前) 私にとって、お兄さんとは一体なんだったんだろう? 走りながらそんなことを漠然と考える。 お兄さんにとって、私はどんな存在だったんだろう? ……お兄さんは私に銃を向けた。 私を殺そうとした。 なぜ? そんなにも私のことが邪魔だったの? ふと気がつくと、瞳はアパートに戻り、押入れの中にある開かずの金庫の前に立っていた。 底の深いポケットから鈍く光
2024年3月19日 06:44
22.歯車は壊れた(1)1「瞳さん! 逃げて!」 江利子が叫ぶ。 しかし、瞳はその場から動こうとしなかった。「……冗談だよね?」 兄の顔をじっと見つめ、そう口にする。「私は信じてる。お兄さんが私を殺そうとするはずなんてない。私の知っているお兄さんはそんな――」 そこまでしゃべったところで、銃の引き金は引かれた。「危ない!」 瞳の前に江利子が立ちはだかる。 爆音。 瞳は両手で
2024年3月18日 08:33
21.ワーストチャプター(16)6(承前)「お兄さん!?」 なにが起こっているのか、瞳には理解できなかった。 兄の手にした拳銃の先はまっすぐ瞳の胸に向けられている。「まさか……私を撃つの?」「ああ」 浩次は冷酷極まりない表情で頷いた。「……どうして?」「理由なんてない。俺はそういう人間なんだ。俺の身体には平気で人を殺すことのできる狂った血が流れているんだよ」「…………」「と説