MAD LIFE 322
22.歯車は壊れた(3)
2(承前)
「……入ったよ」
俊は正直に答えた。
「鍵がかかっていなかったからつい……」
「あの部屋には絶対入るなといってあっただろう?」
「どうして?」
父がそれほど怒ってないことを感じ取り、そう尋ねる。
「あの部屋には大切なものがしまってあるからだ」
洋樹は冷静な口調で答えた。
「大切なものって……これ?」
ポケットの中から色あせた封筒を取り出す。
屋根裏部屋で見つけたものだ。
「おまえ……」
父は目を大きく見開いた。
「中を見たのか?」
黙って頷く。
洋樹は深く息を吸い込み、そして吐いた。
肩が細かく震えている。
俊はようやく気がついた。
父は冷静だったわけではない。
懸命に怒りを抑えていたのだ。
「ねえ、父さん」
しかし、好奇心は抑えられない。
質問せずにはいられなかった。
「封筒の中には写真が入っていた。そこに写っていた赤ちゃんは誰? 友恵っていうのは?」
洋樹はなにもいわずに立ち上がる。
「父さん!」
「俊……約束だ」
息子に背を向け、彼はいった。
「これからは勝手に屋根裏部屋へ入るんじゃないぞ」
「だったら教えてよ!」
俊は父の腕をつかんだ。
「父さんはなにを隠してるの?」
洋樹はその腕を払いのけると、居間から出ていってしまった。
(1986年6月30日執筆)
つづく
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