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ろんぐろんぐあごー

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デビュー以前に書いた素面では到底読めない作品をひっそりと公開。
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2023年8月の記事一覧

MAD LIFE 119

MAD LIFE 119

8.今、嵐の前の静けさ(13)5(承前)

 長崎は娘である江利子を利用して、浩次を罠にはめた。
 江利子は誘拐されたわけではない。
 自らの意思で浩次のもとを去ったのだ。
 親子でグルになり、浩次を騙したのである。
「江利子に騙されていたなんて夢にも思わなかった俺は、彼女を助けるために、長崎の命令に従って内村展章を殺した……」
 浩次は天井の染みを見上げながらいった。
「江利子が長崎の娘だと知っ

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MAD LIFE 118

MAD LIFE 118

8.今、嵐の前の静けさ(12)5(承前)

「いつまでもおまえに苦労はかけられない。だから、俺は心を決めた」
 浩次は話を続けた。
「……最後の手段に出たんだ」
「最後の手段って……なに?」
「立澤組の力を借りて、長崎をビビらせてやろう――そう思った」
 兄の話がよく理解できず、
「どういうこと?」
 と瞳は訊いた。
「三年前、俺は喫茶店で江利子と知り合った」
 浩次が悲しそうな眼差しを瞳に向ける

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MAD LIFE 117

MAD LIFE 117

8.今、嵐の前の静けさ(11)4(承前)

 ステレオコンポの上に置かれていたその詞を見て、洋樹は苦笑した。
 薄いブルーの便箋に、瞳の筆跡で記されている。
 これが今の瞳の気持ちなんだな。
 ……いや、瞳だけじゃない。
 由利子もたぶん、そうなのだろう。
「瞳……おまえの気持はよくわかったよ」
 洋樹は呟いた。
「もうおまえを追いかけたりはしない……」

 あなたには夢さえもて遊ぶジョークなの

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MAD LIFE 116

MAD LIFE 116

8.今、嵐の前の静けさ(10)4(承前)

「しかし……」
 浩次はなにかためらっていた。
「お兄さん、この一週間、どこにいたの? ここでなにをしているの?」
 兄はなにも答えない。
「この会社って立澤組が関わっているんでしょう?」
 兄の視線が瞳からそれた。
「お兄さん……どうして? どうしてこんなところにいるの?」

「……瞳」
 洋樹は合鍵を使って、瞳の住むアパートのドアを開けた。
 誰もい

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MAD LIFE 115

MAD LIFE 115

8.今、嵐の前の静けさ(9)4(承前)

 瞳に会いにいくときに、いつも下車する駅だ。
 洋樹は胸を押さえた。
 警察に全てを打ち明けた瞳――そのうち、彼女の兄は逮捕されるに違いない。
 そうなったら、瞳はひとりぼっちだ。
 彼女のことが心配でならなかった。
 居ても立ってもいられず、気がつくと洋樹は電車から降りてしまっていた。

「嘘……本当に?」
 瞳の身体は小刻みに震えた。
「瞳、一週間も留

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MAD LIFE 114

MAD LIFE 114

8.今、嵐の前の静けさ(8)4(承前)

「……瞳」
 社長室の男はうろたえながら口を開いた。
「おまえ、なんでこんなところに?」
 それはこっちの台詞だ。
 そう思いながら、瞳はゆっくりとその男に近づいた。
 様々な記憶が頭の中でぐるぐると渦を巻く。
 いいたいことは山ほどあったが、なにも言葉が出てこなかった。

「ようし、準備はいいな?」
 西龍統治は鈍く光る銃を手にして叫んだ。
 悪意に満ち

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MAD LIFE 113

MAD LIFE 113

8.今、嵐の前の静けさ(7)3(承前)

「あ……ごめんなさい」
 自分の失言に気づき、慌てて口を押さえた。
「ヤクザ屋さんとはまいったな」
 男が笑う。
「でも、そのとおり。俺はヤクザ屋さんさ」
「お願いします。立澤さんに会わせてください」
 瞳は彼に頭を下げ、懇願した。
「社長に会わせろ? お嬢ちゃん、社長になんの用があるんだ? 名前は? 歳は?」
 困ったような表情を浮かべながら、男が質問す

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MAD LIFE 112

MAD LIFE 112

8.今、嵐の前の静けさ(6)3(承前)

 瞳は立ち上がると、鏡をじっと見つめた。
 兄の行方は依然わからないままだ。
 だが、立澤組の人ならなにか知っているかもしれない。
 立澤組の組長に会いにいこう。
 鏡の中の自分に彼女は力強く頷いた。

 薄暗い路地裏の中にある三階建てのビルを見上げる。
 立澤組の事務所はここで間違いなかった。
 怖い。
 瞳は自分の腕をさすった。
 なんといって訪ねれば

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MAD LIFE 111

MAD LIFE 111

8.今、嵐の前の静けさ(5)3(承前)

 ひとつ、気にかかっていることがあった。
 浩次の婚約者――江利子のことだ。
 兄に殺人を実行させるため、人質にされた江利子さん……私は彼女のことをなにも知らない。
 顔もわからない。
 年齢も不明なまま。
 知っているのは名前だけだ。
 江利子さんはどうなったのだろう?
 今も生きているのか、それとも三年前に殺されてしまったのか――
 瞳はポケットを探り

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MAD LIFE 110

MAD LIFE 110

8.今、嵐の前の静けさ(4)3(承前)

 長崎典和殿
 八月二十三日夜に話し合おう。
 俺は事務所にいる。
 なお、事前に断っておくが、俺はタダであんたたちを組に入れてやる気はない。
 入りたければ、それなりのものを用意しておけ。
                         末木力

 便箋にはそう記されていた。
 末木が長崎に送った手紙だ。
 瞳はこの手紙を、監禁された倉庫の地下金庫から

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MAD LIFE 109

MAD LIFE 109

8.今、嵐の前の静けさ(3)2(承前)

「あいつら、警察へちくりやがったな」
 小池が怒りを露わにする。
「……ど、どうしましょう?」
 動揺した黒川が、彼の肩を借りて立っている長崎に訊いた。
 長崎の頭に巻かれた包帯は、見ているほうが痛々しく感じるほどだ。
 三人は知り合いの闇医者を訪ね、治療を終えて、たった今、戻ってきたところだった。
 もし、医者に出かけていなかったら、警察にあっさり捕まっ

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MAD LIFE 108

MAD LIFE 108

8.今、嵐の前の静けさ(2)1(承前)

「瞳さんって綺麗よね。それにとってもやさしくって……いいお嬢さんだわ」
「瞳がおまえを助けてくれたんだってな」
 洋樹は由利子から視線をそらしていった。
「瞳さんがそういってたの?」
「ああ」
「いつ会ったのかしら?」
「ついさっきさ。警察で……」
「ねえ」
 由利子はうらめしそうな顔で洋樹を見た。
「一体、あなたたちはなにをやっているの? 瞳さんはなにも

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MAD LIFE 107

MAD LIFE 107

8.今、嵐の前の静けさ(1)1

 洋樹は自宅のドアをそっと開けた。
「ただいま」
 家族の誰かに届くとは思えない小声で囁く。
 しかし、それでも由利子には届いたらしい。
 やつれた顔の顔の女が家の奥から顔を出した。
 髪もひどく乱れている。
「……お帰りなさい」
 かすれた声でいう。
「ああ……」
 気まずい沈黙が流れた。
「どこへ行っていたの?」
 長い沈黙のあと、由利子が口を開く。
「……え

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MAD LIFE 106

MAD LIFE 106

7.私はひとりでも生きる(14)5(承前)

「で、これからどうするんだ?」
 中部が瞳に尋ねる。
「あとは警察の仕事です。すべてお任せします」
 無表情のまま、瞳は答えた。
「違う。君のことだよ。君のお兄さんは指名手配され、いずれ捕まるだろう。君はひとりぼっちだ」
「かまいません」
 瞳はしっかりとした口調でそう答えると、洋樹のほうへ顔を向けた。
「おじさんたちも今までごめんなさい。もう迷惑はか

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