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MAD LIFE 109

8.今、嵐の前の静けさ(3)

2(承前)

「あいつら、警察へちくりやがったな」
 小池が怒りを露わにする。
「……ど、どうしましょう?」
 動揺した黒川が、彼の肩を借りて立っている長崎に訊いた。
 長崎の頭に巻かれた包帯は、見ているほうが痛々しく感じるほどだ。
 三人は知り合いの闇医者を訪ね、治療を終えて、たった今、戻ってきたところだった。
 もし、医者に出かけていなかったら、警察にあっさり捕まっていただろう。
 そのことは不幸中の幸いといっていい。
「あいつら……思いきったことをしたな」
 左手でこめかみを押さえながら、長崎は吐き捨てるようにいった。
「警察に捕まる前にずらかろう。残念だが、もうここはアジトにできねえ」
「金はどうするんです? 倉庫の地下にはまだ、かなりの額の金が置いてありますよ」
 と小池。
「今から取りにいくわけにもいかんだろう。……大丈夫。俺たちがいないとわかれば、警察はすぐに引きあげていくさ」
 長崎は小屋に背を向け、よろよろと歩き始めた。
「夜まで待つんだ」
 彼はそう呟き、朝日に向かって大きく伸びをした。

 中部が小屋の扉をぶち破る。
 まず目に入ったのは大きなテーブルだった。
 テーブルの上にはワイングラスがひとつ置かれている。
 部屋の中央に進み、あたりをぐるりを見回した。
 人の気配はない。
「長崎、出てこい!」
 中部は叫ぶ。
 しかし、返事があるはずもなかった。

 アパートに戻ってきた瞳は、机の上に置かれた便箋をじっと睨みつけていた。
 ……どうしよう?
 一時間以上、便箋を見つめているが、まだ決心が定まらない。
 目の前にある一枚の便箋がすべてを左右することになると思うと、全身が震えた。

(1985年11月29日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ 

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