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ろんぐろんぐあごー

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デビュー以前に書いた素面では到底読めない作品をひっそりと公開。
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2020年9月の記事一覧

海が見たくなる季節-解説-

海が見たくなる季節-解説-

 皆様、こんにちは。
 今回は、僕が高校二年生のときに書いた短編小説を、恥ずかしげもなく(恥ずかしいけど)全文公開したいと思います。

 僕の通っていた三重県立桑名高等学校には毎年1回生徒自治会が発行する〈しらうお〉という機関誌がありまして、その冊子に載せる詩やエッセイ、小説などを在校生から募っていました。採用されれば、活字になって掲載され、全生徒に配られます。

 それまで下ネタ満載のおちゃらけ

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海が見たくなる季節 1

海が見たくなる季節 1

 1

 オウチヘカエリタイ

 その声に僕は顔をあげた。
 まただ。どこからともなく聞こえてくるいつものあの声。
 ……オウチヘカエリタイヨォ
 僕は両手で力いっぱい耳を抑えた。
 聞きたくなかった。この声は、僕をとても不安にさせる。
 しかし、あがいたところで無駄なこともわかっていた。声は直接、僕の頭の中へ飛びこんできて、気が狂いそうになるまで、僕の心を掻き乱していくのだ。
 ――やめてくれ!

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海が見たくなる季節 2

海が見たくなる季節 2

 2

 夢を見た。
 夢の中で僕は広い――気の遠くなるほど広い部屋にいた。その部屋は、どこまで進んでも終わりがないように思えた。
 部屋にはなにも存在しなかった。ただ、僕だけがそこに立っている。
 床も壁も天井も真白にベタ塗りされており、その中に存在するのは黒い服を着た僕ひとりのみだった。
 ここはどこだ?
 僕は不安になった。みんなはどこにいるのだろう? 父さんは? 母さんは?
 お母さん! 

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海が見たくなる季節 3

海が見たくなる季節 3

 2(承前)

 落ちる落ちる落ちる……
 穴の出口が見える。と同時に、激しい吐き気を覚えた。
 僕は勢いよく穴から飛び出した。
 ……そこは都会だった。
 僕の目の前では一人の男が汗にまみれて働いていた。彼の顔は油で真
黒に汚れ、とても見られるものではなかった。死んだような表情。単純きわまりない動作。まるでロボットだ。働き続けるだけの機械人形に、僕はとてつもない恐怖を感じた。
 彼の思考を覗きこ

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海が見たくなる季節 4

海が見たくなる季節 4

 2(承前)

「ぎゃっ!」
 周囲に目を移した僕は、腰をぬかした。僕を中心に、数えきれ
ないほど多くの黒い塊が笑っている。まるで、僕のことを嘲笑しているようだ。
「なんだ、これは!?」
 ぼくは悲鳴に近い声をあげた。
 黒い塊は僕を取り囲み、じりじりとその距離を狭めていく。このままだと、あの塊に封じ込められてしまうかもしれない。
「悪夢だ。これは悪い夢に違いない。早く……早く僕を家へ帰してくれ!

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海が見たくなる季節 5

海が見たくなる季節 5

 3(承前)

「幹成、起きなさいよ」
 階下から母の声がした。
「もう起きてるよ」
 僕はそう答えるとベッドから抜け出し、早足で階段を下りた。まだ夢から覚めきっていないような気がしてならなかった。
 居間へ行っても、父の姿はなかった。いつものことである。父は仕事しか知らない人間だ。
 庭からは母の話し声が聞こえてくる。朝早くから近所の誰かとおしゃべりに興じているらしい。
 自慢話。噂話。共通の知

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海が見たくなる季節 6

海が見たくなる季節 6

 4(承前)

 海だ……。
 山に囲まれた僕らの町では、そう簡単に海を見ることはできない。実をいうと、海を見るのは生まれて初めてだった。僕が嫌々ながらも旅行についてきた理由はそこにあった。
 僕はずっと海に憧れていた。
 これが海か。
 目頭が熱くなった。涙がこぼれ落ちそうになる。自分でも驚いた。なぜ涙が?
 ……オウチ二カエリタイヨォ……
 涙を拭っていると、例の声が僕の耳もとで聞こえた。その

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海が見たくなる季節 7

海が見たくなる季節 7

 4(承前)

「き、君は……?」
 僕は驚きの表情を隠すことができなかった。
 彼女は以前、僕の夢の中に現れた天使と瓜二つの顔を持っていた。
「私のこと、覚えていてくれた?」
 少女はにこりと笑った。
「でも、あれは夢の中の出来事で……」
「夢じゃないわ」
 少女は語調を強めた。
「私の名前は由利。覚えといてね」
「由利さん? あ。ぼ、僕の名前は――」
「あなたの名前は幹成。そうよね? 幹成さん

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海が見たくなる季節 8

海が見たくなる季節 8

 5(承前)

 ――ママが悪かったの。ごめんね、坊や。つらかったでしょうね。苦しかったでしょうね。でも、もう大丈夫。安心して。無理にここで暮らす必要なんてないのよ。
「そうなんだ、ママ。僕……こんな世界、嫌だ。ゆがんでる。ゆがんでるよ、この世界は」
 いつの間にか僕は生まれたままの姿に戻って、海の中に沈んでいた。
 ――怖くないわよ、坊や。さあ、こっちへいらっしゃい。
 ママにやさしく抱きしめら

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海が見たくなる季節 9

海が見たくなる季節 9

 5(承前)

「由利さん……」
 起き上がろうとしたが、体中のカが抜けてしまったようでどうするこ
ともできない。
「まだ起きちゃ駄目よ。幹成さんはここで休んでいて」
 由利さんは僕の肩にやさしく触れた。
「話?」
「そう。あなたのお母さんに話があるの」
 由利さんはそう答えると、力強く立ちあがった。
 由利さんの姿を見て、息をのむ。旅館で出会ったときのかわいらしい面影はどこにもない。彼女はとても

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海が見たくなる季節 10(終)

海が見たくなる季節 10(終)

 5(承前)

 由利さんは、僕のほうへ向きを変えて言った。
「わかったわね、幹成さん。もっと強くならないと。逃げてばかりじゃ駄目。もし、あなたが、今の世界を不満に思うなら、あなた自身が、この世界を作り変えていかなくっちゃ」
「君は……」
 僕は起きあがると、戸惑いながら由利さんに尋ねた。
「君は一体、誰なの?」
「私?」
 由利さんはくすりと笑うと、右手で髪をかき上げ、僕の目の奥を覗きこみながら

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