16. キリスト神話の方法(10)ペテロとケファ(下)

題:キリスト神話の方法(10)ペテロとケファ(下)

 すでに指摘したように、シモン・ペトロをケファと結びつけているのは、新約聖書中で『ヨハネによる福音書』だけです(ヨハネ1:42)。『ガラテヤ信徒への手紙』にもペトロとケファの二名が登場しますが、二人は同一人物であるとはされていません(ガラテヤ2:7-9)。

■『マルコ』のシモン・ペトロ
 『マルコ福音書』にはケファは登場しません。ただし、ペトロにシモンという別名が与えられています。

 こうして十二人を任命された。シモンにはペトロという名を付けられた。(マルコ3:16)

『マルコ福音書』のイエスはペトロをシモンと呼んでいます。

 それから、戻って御覧になると、弟子たちは眠っていたので、ペトロに言われた。「シモン、眠っているのか。わずか一時も目を覚ましていられなかったのか。」(マルコ14:37)

しかし、墓穴の若者はシモンをペトロと呼びます。

 さあ、行って、弟子たちとペトロに告げなさい。(マルコ16:7)

■『ルカ』のシモン・ペトロ 
 『ルカ福音書』にもケファは登場しません。そして『マルコ福音書』と同じく、シモンはイエスによって、ペトロと名づけられています(ルカ6:14)。『ルカ』のイエスは、ペトロをシモンと呼ぶこともあれば、ペトロと呼ぶこともあります(ルカ22:31, 34)。

■『マタイ』のシモン・ペトロ
 『マタイによる福音書』にもやはりケファは登場しません。また、『マルコ』と『ルカ』とは異なり、イエスがシモンにペトロという名を与える場面はなく、「ペトロと呼ばれるシモン」という紹介文が何度か現れます(マタイ4:18; 10:2)。この言い回しは、『使徒言行録』10章5節で天使によっても使われています(使徒11:13も)。 
 『マタイ』のイエスはペトロをシモンと呼びますが、同時に、彼をペトロとも認識しています。

 シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を立てる。(マタイ16:17-18)

■まとめ
 新約聖書では、ペトロとシモンが同一視されるのが基本であり、そこにケファを付け加えるのは『ヨハネ福音書』のみです。
 『マタイ』『マルコ』『ルカ』『使徒言行録』の四つの書では、ペトロとシモンという二つの名前が組み合わさっており、それらにケファは一切出てきません。
 ケファという名が現れるのは、『ガラテヤ』『一コリ』ですが、それらではペトロと混合されることはありません。ちなみに、両書にシモンは現れません。『ガラテヤ』にはペトロとケファという二つの名が現れますが、それらは同一人物とはされていないのです。
 ペトロの異名の発展過程は次のようにまとめられるかと思います。

I. パウロ書簡――ケファ≠ペトロ――
 1. ケファという人名が知られていた(一コリント、ガラテヤ)
 2. ペトロという人名も知られていた(ガラテヤ)
 3. シモンはまだ創作されていない
II. マルコ福音書――シモン=ペトロ――
 4. シモンというイエスの弟子が創作される(マルコ)
 5. ペトロシモンが合体させられる(マルコ→マタイ他)
 6. シモン・ペトロとケファを合体させる発想はまだない
III. ヨハネ福音書――シモン=ペトロ=ケファ――
 7. ケファシモン・ペトロと合体させる発想が生まれる(ヨハネ)

2021/01/28
作:Bangio


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