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鉄道から道路へ 90歳の老橋、まもなく見納め

津市に移住した黒田玄です。久々の投稿は津のお話。
以前別のノートで紹介したのですが、みなさんは廃線巡りしてますか?廃線巡りは人生です。まだ人生してないよって人はすぐ読んでください。

津を走る不思議な道路

津には廃線ファンでなくても廃線ロマンを感じられる、最強のスポットがあります。いつか記事にしようと思いながら書けず、ついに年の瀬に……。

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上に掲げたのは、津市中心部の地図です。三重県の大動脈・国道23号線を中心に、概ね東西南北に直線の道路が張り巡らされるなか、「栄町」付近で国道と分岐して南東にカーブを描く不思議な道路の存在感に気づいたでしょうか。

整然とした区画に引かれた異質な道路。その名も「近鉄道路」

前に紹介した記事をご覧になった方は地図を見ただけでピンと来たかもしれません。これ実は、昔鉄道が走っていたところを道路に転用したんですね。

詳細はWikipediaに譲るとしますが、このあたりには1961年まで、津駅の北隣・江戸橋駅から津市・松阪市等を経由し、現在の伊勢市にある大神宮前駅までを結んでいた近鉄伊勢線がありました。上の地図には現在の近鉄名古屋線(津駅・津新町駅・南が丘駅を通る路線)が載っていますが、それよりもずいぶん海側を走っています。現在の近鉄の大動脈の一つであるこの名古屋線と役割が重なり、廃止となりました。この近鉄伊勢線、江戸橋駅から大神宮前駅までほとんどの区間が廃止後道路に転用されていて、地図を見るとその形跡がはっきりとわかります。上にあげた地図の区間以外にもはっきりわかる区間が続くので、ご興味あればぜひご覧になってください。

ちなみに余談ですが、意外と津市民でもこの近鉄道路がどういう由来でできているのか知らない人が多かったです。津に来たばかりの私が「なんで近鉄道路っていうのか気になってはいたけど、そういうことだったんだね」なんて言葉を地元の方から聞くのは不思議な気持ちです。

岩田川にかかる老橋

さて、この近鉄道路自体もなかなかの独特さを誇りますが、その中でもひときわ独特なのが、今回のテーマである一本の橋です。先ほどの地図の真ん中を流れる川を岩田川と言いますが、そこには一本の橋が架かっています。その名を「津興橋」(つおきばし)と言います。

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※ストリートビューは2019年12月末のスクリーンショットです。後述しますが現況は異なっています。

見てお分かりでしょうか?普通の道路橋とちょっと違いますね。道幅は狭いし、年季を感じさせる鉄骨は異様ささえ漂わせます。それもそのはず、この橋はもともと鉄道橋でした。1930年(昭和5年)の架橋※ですから、近鉄伊勢線の津市内から新松阪駅間が開業(複線)した際からあって、鉄道廃止後もこうして現役の道路橋として役割を果たしているわけですね。2019年現在で、御年89歳。すごい。
津興橋の架け替えを進めています! - 津市:最終閲覧2019年12月29日

日本全国見渡しても、鉄道橋がそのまま道路橋として活用されている廃線跡はほとんどありません。廃止になる≒輸送量の小さい路線は単線が多く、単線の橋梁では自動車がすれ違えるような幅がないからです。廃線跡が道路に転用されている路線も、ほとんどの場合橋の部分は転用されていません。近鉄伊勢線についても路線の南部は単線で、雲出川や櫛田川、宮川といったほかの河川を越える橋は道路橋にはなっていません。道路橋としての転用はかなり珍しいわけです。

老橋の運命

さて、津興橋について紹介したところですが、実はもうすぐこの橋は見られなくなります。

2015年、津市の前葉市長が津興橋の架け替えを表明。老朽化を原因としていますが、ほかにもこんな記事が。

(上記朝日新聞記事より引用、中略は筆者:)かつては鉄道橋で、道路上に突き出た鉄骨に挟まれて車が通行する独特な構造に「圧迫感がある」「通行しにくい」という声が市民から寄せられていた。(中略)道路の中央と両側に高さ40~80センチの鉄骨が突き出る構造になっており、前葉泰幸市長も「免許をとりたてのころは、横にぶつからないか緊張して通った」と振り返る。

とにかく道幅が狭く、市民からは不評だったようです。

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↑ストリートビューより、2019年12月末。たしかに、トラックが通るとすれすれな感じがします。ここを路線バスも通るんだから驚き。

2023年に新橋が完成するということですが、今の橋の撤去は今年度、平成31年度/令和元年度です。※10-(6) 津興橋の架け替え - 津市より

つまり、老橋が90歳を迎える2020年3月までにはこの珍しい橋もなくなってしまいます。見に行くなら今しかありません!

老橋の様子(2019年10月27日)

では津興橋は今どうなっているのでしょう。ここまではさんざんストリートビューに頼ってきましたが、ここからは筆者自身の確認した様子です。まずは10月の様子から。

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いずれも橋の北側から確認した様子です。一枚目の写真からは、橋が普通に供用されていることが見て取れますが、二枚目・三枚目をみていただくとわかるとおり、新しい橋(正確には仮設橋)がもうほとんどできているのがわかります。

老橋の様子(2019年12月8日)

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橋の南側から撮影。
なんでこんな遠いんだよ……と思われるかもしれませんが、二枚目の写真の中央やや左よりあたりにある看板をみていただくと「通行止」の文字が見えるかと思います。実はもう12月時点で歩行者は元の津興橋を渡れなくなっていたんです。

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もう仮設橋はほとんどできていて、歩行者はこの仮設橋を通ることになっています。

Twitterや知人の話によれば、どうやら12月24日で自動車部分も仮設橋に移動したようです。いよいよ、90歳の老橋の解体も秒読みといったところでしょうか。


神宮参拝の足だった鉄道から、津市の南北交通を支える道路へ。激動の時代を見つめてきた橋に思いを馳せつつ、移り変わるまちの姿を見つめてみませんか。機会があればぜひ津市にお越しください。

■津興橋へのアクセス■
・津駅より「天白」行きバス乗車、「岩田川」下車、徒歩1分(本数少)
・津駅より「イオンモール津南」行きバス乗車、「柳山」下車、徒歩9分

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