フォローしませんか?
シェア
黒田小暑|KurodaShosho
2021年6月3日 10:00
フィンセントは病室で目を覚ました。すでに、パリからテオも到着し、わたしたちは代わる代わるフィンセントを看ていた。「左耳はどこだ」 目覚めたフィンセントは、開口一番そう言った。わたしとテオは顔を見合わせた。ぞわりと寒気がした。自らの左耳の所在をたずねるというのは、奇妙なことこの上ない。「切り落としたわたしの左耳はどこだ、ポール。あれをウージェニーに送るんだ、そう言っただろう」 覚えていたの
2021年6月2日 10:00
フィンセントが、窓辺に飾った鮮やかな向日葵を描き、わたしがその様子を描く。その作業が長い間続いた。その間、わたしたちが特別多く会話したということはなかった。互いの知らなかった面を知ったということもなかった。それぞれが描くべき対象を、ただひたすら描いている。それだけだった。わたしはフィンセントを描いているにも関わらず、彼に背を向けて描いた日もあった。そんなわたしをフィンセントは嫌悪し、わたしはそれ
2021年6月1日 10:00
わたしがフィンセントと共同生活を始めて二ヶ月近くになる。南仏の太陽が相変わらず暖かく優しくアルルの町を照らしている。そんな太陽の満ち足りた輝きのもとで、わたしたちはこの二ヶ月、小さな「黄色い家」で、ひたすら互いをののしり合い、貧乏を嘆き、そして絵を描いた。「ポール、君は、何のために絵を描いているんだい?」 ある朝、わたしが壁に向かってキャンバスを置き、ある女の絵の制作をしていると、唐突にフ