散歩(ゲイ小説)

いつものコンビニまでの道を相方と一緒に散歩する。

一緒に住むアパートは、最寄りの駅から徒歩20分にある。少し遠いなと思ったけど、間取りと日当たりの良さ、お互いのこだわりとかもろもろ妥協してここに落ち着いた。
コンビニまでは、住宅街を10分くらい歩かなければならない。
夜の散歩、真夏の夜の空気はどこか熱を帯びて重い。

いつもはバスで駅まで行くので、あまり歩き慣れていない。
月明かりが照らす道を一歩ずつ丁寧に歩いた。
相方はもちろん、タバコを吸いながら歩く。
吸うたびに少しだけ赤くなるタバコの先端は、点滅する蛍のようだ。
「寿命が縮むよ」、と一応言っておく。
すると決まって「そうかもな」、と誤魔化される。
こんな小さな光が、なんでいろんな感情を持ってくるのだろう。

相方は僕とタバコのどっちが好きなんだろう。

たぶん、タバコだと思う。
タバコなら、何回も好きか確認することはしないし、セックスだって無理に迫らない。
同棲して2年目の僕たちは、最初のすれ違いが大きな亀裂にまで発展していた。
けど、言葉にしたら最後だ。だからお互い気付かない振りをしている。
プカプカ浮かぶタバコの煙が、夜に消えていく。

相方の側にいるだけで満足できた頃に戻りたい。
タバコを吸う姿に一目惚れしたあの頃に時間を戻したい。
けど、それはおかしい。
僕たちは、そこから始まったのだから。

タバコが消えて、街灯だけが照らす道、2人の足音だけが響く。


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