沈黙(ゲイ小説)
言葉でどこまで、自分の気持ちを正直に伝えられるのだろう。
上手い言葉はなかなか見つからない。
最後には、沈黙だけが僕の気持ちを表すことになる。
「なんでだよ、どうしてそういうことができるんだよ」
僕は付き合って5年になる相方と喧嘩している。
喧嘩、というか僕が一方的に攻めている。だって彼が完全に悪い。
浮気した挙句、その男が好きになったから別れてくれというのだ。
「どうしてだよ」
声が大きくなる。涙が出てきて、視界がぼやける。
「僕たち、来月で6年だよ、ここまで来て僕のこと見捨てるの?」
彼はただ、黙って下を向くだけだ。
多分、もう彼の気持ちは他に向いている。すでにわかっていた。
そういう素振りは随分前からあったのに、見て見ぬ振りをしてきたから。
最悪な答え合わせ。
こういう時、人は馬鹿な自分を変に客観視してしまうものだ。
彼に怒鳴りつけている自分が、
なんだか急にドラマみたいに思えてきて芝居のように感じる。
こういうシーンでは、水をぶっかけたり、食器を投げるんだよな。
「なんか言えよ、
なんか言ってよ、お願いだから。」
でも、そういう行動に出れる方が強い人なのだ。
直接向き合って、自分の感情をぶつけられる方が、自分を大事にしている。
僕は彼にすがることしかできない。
それすら、意味がないことも、わかっているのに。
「もう、終わりってことだよね?」
馬鹿みたいな質問。
無言のまま頷く彼。
彼が笑いかけてくれることは、もうきっとない。
そう、わかってからは僕は言葉が出なくなった。
2人の間の沈黙は、いつまでも続く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?