初恋(ゲイ小説)

男同士の馴れ合い。
学生なら、誰でも経験があるはずだ。

中学生の頃には、もう自分がゲイだということは自覚していた。けど、同時にこれは普通じゃない、言ってはいけないんだと言うことも感じ取っていて、女の子が好きなふりをした。
別に難しいことじゃない。
みんなが言う、「あの子いいよな」、
に同調すれば良いだけだから。
嘘をついている感覚はあったけど、生きていくためには仕方がない。

そんな毎日の中で、僕はついに初めて恋をすることになる。
ハンドボール部のエース。
キャプテンじゃないけど、補佐役で下からしっかりとチームを支えている姿に、いつの間にか惹かれていた。
でも、現状は同じクラス止まり、たまに話すくらいの間。

なにかに期待する訳じゃない、ただ遠くで姿を見るだけでよかった。
とくに広い背中が好きだった。僕より、一回り大きい背中、同じ年齢なはずなのに。すごく大きく感じる。
何気ないやり取りで交わす、一日の一言二言、それだけでよかった。
いつまでもこの時間が続けば良いと思った。

同じクラスの女子が彼にバレンタインにチョコを渡していた。
振られるとしても、自分の気持ちを正直に伝えることができる、それだけで恵まれてるんだよ、心の中で声をかけてみる。
玉砕して泣いている彼女を、女友だちが慰めているのを見かけた。

自分の気持ちはいつまでも報われない。
仕方ないけど、この先の人生も、ずっとこうなのかな。本音を押し殺して生きていかなきゃならないのか。
いつの間にか、彼への気持ちは逆に重荷になって、僕の心に纏わりついていた。

3年のもうすぐ卒業間近に彼が足を怪我した。骨折したらしい。松葉杖がなければ歩けない。
全校集会、みんな座って先生の話しを聞く。僕の出席番号は彼の次だ。いつもの大きな背中を隠れて眺めていた。

退屈な集会は終わり。みんなそろぞろ教室へ戻り始める。
その時、彼があたふたしているのが分かった。なにか、摑まるものがないと立てないのだ。とっさに声をかけた「大丈夫?」。
下心はなかった、と思う。

「ごめん、肩貸してくれない?」
少し躊躇したけど彼の横に近付き、自分の肩を貸す。
彼の身体をすぐ近くに感じる。
肩に回る腕、密着する身体。
僕の頭は熱くなって、鼓動が早くなった。
その瞬間、やっぱり好きなんだと、わかった。

次には、もう彼は松葉杖をついて「ありがとう、助かったよ」と言って歩き出していた。

これが僕の初恋で、その後も自分の気持ちを届けることもできない。これで終わり。ただ、それだけで、僕しか知らない初恋の思い出。


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