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なにもない場所

そこには何もない。

乾いた茶色をした

荒野の峡谷。



数え切れない年月

風雨と

容赦ない太陽に照らされて

岩たちは脆い体を

ひっそりと横たえている。



崖の上に立って

カチカチの石を

谷底にほおり投げる。




幾ばくかの

空虚の時を経た後

乾ききった音が響いてきた。




私は膝を付き

薄目で太陽を

伏し目で眺めた後に

ゆっくりと手をかかげ




太陽に差し出した。

血を流す私の心を。





いや

血はほとばしっていなかった。

あまりにもそれは

乾ききっていた。




鋭い陽の照射をもって

太陽は

私の従順たる卑しき思いに応える。




だが

心はもう

烈火をもってしても

動くことはなかった。




幾星霜の年月を経て

水分を干された岩たち。

どうか私を迎え入れてほしい。




私の心も

もう血も涙も流せないのだから。




ただ一粒だけ

瞳から

水の粒がこぼれ落ちて



乾いた大地に垂れて




小指の先ほどの

コロコロした石を潤し

彼の人は力なく

地に伏せた。



永劫に

干からびた肢体を

この荒野に晒すために。

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