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24年6年6月組分けテスト国語の疑問点

今回の6年組分けテスト、国語の平均は69.5点。150点満点なのでかなり低めです。

個々の問題を見てみると、出題意図も内容も納得できる問題が多くあるとは思います。ただ、その中で気になる点が3つありました。

ちょっと細かい話も入っていますし、もしかすると、自分の読解が間違っている部分もあるかもしれません。ただ、現時点での自分の考えを書いてみようと思います。

最初に前置きしておきたいこと。この記事の趣旨は模試の悪口を言いたいのではありません。国語の模試には様々に難しい側面があり、一度の模試の結果だけで一喜一憂(喜ぶのはいいですが)しないようにしてほしいということをお伝えしたいので書いた次第です。また、こういう問題分析は個人的にとても面白いのでやってしまった、という側面も多分にあります。

ではいきます。

1.物語文が難しめなわりに設問が多い

設問数が多いのは大規模テストの宿命です。幅広い偏差値帯の受験生の実力をばらつかせるためには、必然的に問題数を多くせざるを得ません。「満点続出」になってしまうと、その層の実力が測れないからです。(だから、過去問対策と模試対策はイコールではありません。あくまで受験生が真にやるべきは過去問対策です。)

今回は物語文が竹西寛子『猫車』で、時代背景の理解も含めて小学生にはレベルの高いものでした。こういったものが出題される可能性もあるので、このセレクトはテストの種類によっては、あり得ます。

ただ、そこで考えなければならないのは組分けテストという全方位的受験者層と、問題とのバランスです。小問が11ありました。記述もあります。数が多くても難易度が低ければ問題ありません。妥当な内容も多かったので、そう考えるとそこまで問題ないようにも思えます。それでは結果としてどうだったのか?

保護者様であれば、お手元の正答率一覧表を見てみてください。

問二の2以降、正答率が1問除いてほぼ20%台前後が並んでいます。6.4%、7.3%もあります。結果として、このあたりは「ほぼまともに取り組めなかった人」がかなり多かったのではないでしょうか。

思うに、一番悲惨だったのはAクラス(S>C>B>Aという序列です)の「国語は苦手だけど物語文だけはなんとか好き」というような受験生ではないでしょうか。Aクラスでなくとも、「途中で読むのをあきらめた」という声も聞かれました。

結果、今回はどうか判断しづらいですが、例えば物語文を捨てて説明文にちゃんと時間をかけたほうが得点自体は稼げた、ということも起こり得ます。そういう「運ゲー」の要素が強まると、国語の力を適切に測れなくなってしまいます

2.抜き出し問題が決まらない(【3】問二 3、【4】問三 2)

【3】問二 3

設問文を見てみましょう。

【3】問二 3
2で答えた「行動」を筆者は何と言い換えていますか。九字で抜き出して答えなさい

抜き出し問題で必ず指導するのは、「探す前に見当をつけること」です。これは内容的なものもあるし、文法的なアプローチも含みます。設問文は問われたとおりに解答すれば正確に答えが出るように表現が磨かれています。だからその細かいニュアンスをきちんとくみ取ってほしいと伝えています。

今回で言えば、「行動」を「何」と言い換えているか、なので、体言止め=「全体として名詞になる言葉」が想定されると思います。

もちろん、「今、何と言った?」という言い方もあるので、「何」がそのまま「名詞」を表すとは限らないシチュエーションもありますが、「行動」とは「ある事を行うこと。行い」であり、「何か」と問われているのですから、ここでは出題者の言葉を信用して、やはり体言止めを想定するのが自然です。

しかし、答えはどう考えても「森と対話している」しか当てはまらない。

これは本文中にもっと良い表現があればそれが答えになったでしょう。例えば、「森との対話」のような。しかし本文にはそうした言葉はありません。だからやっぱりここを答えさせたかったのでしょう。であれば、例えばですが、少なくとも「2で答えた『行動』を筆者は何と言い換えていますか」ではなく、「2で答えた『行動』を筆者はどのように言い換えていますか」の方が誤解が減るのではないでしょうか(それでも分かりにくいでしょうか)。これであれば、述語的な要素が想定されやすいと思います。確かに細かな違いですが、「神は細部に宿る」とも言います。

この問題、自分は、何も悩まず「森と対話している」を選んだ人よりも、体言止めを想定して選べず迷ってしまった人の姿勢を評価します
正答率は27.9%。

【4】問三 2

すみません、もう一つあります。。

【4】問三 2
ひさしの感覚を通してとらえた「穏やかな海面」の穏やかさを比喩的に表現した十五字以上二十字以内の部分を探し、はじめと終わりの五字を抜き出して答えなさい。

比喩表現を探させる問題です。見当はつけやすいです。答えはこの部分。

その上を歩 いてでも渡 れそうに思 わせた海(の匂い)

二十字以内なので、後ろは「〜思わせた海」までが正解となっています。

ただこれ、

その上を歩 いてでも渡 れそうに思 わせた

でも正解になるように思います。穏やかさを表現している部分は、「〜思わせた」までです。また「海」というのは比喩表現ではありません。

もっと言えば、ここは「海の匂い」を表しているはずです。「海」と「海の匂い」は同じものではありません。

じゃあ、正解は「その上を歩〜思わせた海」なのか?「その上を歩〜に思わせた」なのか?この微妙な差異を判断する事態をこのテストが想定しているのかと言えば、多分していないと思います。

じゃあどうすれば良かったのか。「十五字以上二十字以内」ではなく、「十九字」と指定すれば答えは(一応)問題なく決まります。

一応、もしかすると自分の知らないところでこういう問い方で問題が成立している「常識」があるのかもしれない、と思って、今回の組分けのテスト範囲である予習シリーズの問題をざっと見てみましたが、近い問題はありました。

予習シリーズ6年上 第11回 基本問題 問十の2
1と同じ気持ちが表れている「大ちゃん」の様子がわかる部分を文章中から十五字でさがし、ぬき出して答えなさい。

ただ、これは一つに決まります。十五字なので。答えは「わざととぼけた声で、のんびりと」となります。

というわけで自分の知る限りでは、やっぱり「十九字」指定のほうが良かったのではないかと思います。
正答率は7.3%。

(後日追記:「その上を歩〜思わせた海」ではなく、「その上を歩〜に思わせた」でも、正解として採点されている例があったそうです。別解として認められたようです)


このように、設問文次第で、正しい努力が報われもするし、報われなかったりもするのが、国語の設問文の難しさだと思っています。

余談ですが、設問文よく読む!これはとても大切です。痛感したのは去年対策した成城学園でした。脱文挿入箇所の「直前」を抜き出させるときもあれば、「直後」を抜き出させるときもある。年度によって指示がバラバラなのです。わかっているのにそれで間違えているということが多発したので、「とにかくよく読んで!」と伝えたものでした。

3.正答の解釈にやや疑問(【4】問十)

個人的な経験ですが、マーク式模試の原稿を作って会議をする際、ほぼ8,9割の時間を、正解選択肢の吟味にかけていました。自分は一番若造で、周囲はキャリアのある立派な先生方ばかり。四面楚歌のなか、議論を戦わせた覚えがあります。その会議では、正解にはとことんこだわりました。しかし、「間違いの選択肢はご自由にお任せしますよ」といった感じでした。

それはなぜか。やはり「正解の選択肢」がブレてしまえば、問いの根幹が揺らいでしまうからなのだと思います。

というわけで正解選択肢は重要なのです。そこで【4】問十なのですが、問いは

【4】問十
「猫車は、もっとも充実した未来でもあった」とありますが、このときひさしはどういうことを感じていたと考えられますか。最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。

で、答えは、

ウ 答えの出ない現実の中にあって、自分には猫車で土砂を運ぶ以外の明日はないのだということ。

でした。ただ、僕は迷いなくこのウを選ぶことができませんでした。なぜかというと、傍線部のニュアンスを汲み取れば、「ひさし」にとっては「もっとも充実した未来」なのであり、本文にも「ひとときの安楽への確かな望みを抱かせる」とあるからです。

前提として、ここでの「ひさし」は、受験を頑張って入った学校に通っているのに、戦時中の軍隊の土木作業をやらされて閉塞感を覚えています。その中で唯一の安楽のよすがとなっているのが、「もっこ(縄を網状にして四隅に綱を付け、棒を通して方に担ぎ、土や石を運ぶもの)」から逃れて、より運びやすい「猫車(一輪車)」を押すことなのです。

これは客観的に見ればとても痛々しい状況です。ウの選択肢はその観点からこの表現を「皮肉」ととらえ、マイナスな説明をしています。

しかし、当の「ひさし」にとっては、そんな絶望的な状況の中の唯一の救いだったのでは?問いも「ひさし」の主観を問うているのだから、プラスの要素がなければ正解としづらいのではないか

と、以上のように思いました。他の選択肢が選べないので消去法的にできてしまうこともあるのかもしれませんが、正答と言えるかどうかがやはり重要だと思います。正答率は17.7%。

個人的な希望

あらゆる層の、あらゆる特徴の生徒がまんべんなく実力を発揮できるテストであることが理想です。こんなこと、ネットの隅っこで呟いていても仕方のないことですが、正答率40%〜60%台の正答率の問題がもっと増えるといいのではないかと思います。また、平均点の目標をもっと高くしてもいいのではないかと思っています。

以上のようなことを直訴するつもりは毛頭ありませんが、思ったことは正直に、家庭教師の仕事としてご家庭に分析を伝えています。また、自分もささやかながらも模擬試験を作っている身なので、こうした思考の過程を自分の仕事に活かしていきたいと思います。

・・・以上、「だれか止めて〜」と思いながら書き進めてしまい、結果大変長くなり恐縮です。ご家庭のテストの復習の参考にしていただければと思います。

最後に(再恐縮)一つ申し上げたいのは、(矛盾するようですが)あくまでお子さんに対しては、塾のテストを信頼して受けられるような声掛けをしてほしいということです。塾の模試にはこういった難しさもあり、受け止め方に一定の技術が必要であるということが言いたいのです。こうしたことは、指導者側や保護者が心のうちで理解しておくにとどめておきたい。

今回の模試も、問題は選びつつ、適切な復習材料にして下さい。

やりっぱなしが一番もったいないです。

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