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UXデザインとSFプロトタイピングの交差点【後編】:SF思考から体験を生み出す手法

SFプロトタイピングの現場で、UXデザイナーはどのような価値を発揮できるでしょうか?

どうも、グッドパッチのUXデザイナーの黒子です。

このnoteは、一つ前の記事に引き続きSFプロトタイピングについてUXデザインの視点から考えていきます。前編では、思考法として理論的な側面を見ていきましたが、今回は実践法として実務的な側面を考えていきたいと思います。

まだ前編を読んでいない方は、ぜひ以下のリンクから読んでみてください。

今回は、SFプロトタイピングの典型的なプロセスをご紹介した後、UXデザイナーならではの価値の発揮の仕方について考えていきます。

では、早速見ていきましょう。

SFプロトタイピングの取り組み方

現在、様々なSFプロトタイピングの形が存在しています。
ここでは、典型的と考えられるフローをご紹介します。

1. 目的整理
2. チームアップ
3. ワークショップ
4. 検証/プロトタイピング

1. なぜやるのか?目的の整理

まずは、目的整理。
一般的なプロジェクトやワークショップと同様に、「なぜSFプロトタイピングをやるか?」を考えることが重要です。

SFプロトタイピングは、長期的なテーマを扱うため、会社単位で将来のビジョンを考えることや、中短期的にR&Dや新規事業開発の文脈で取り組むこともあります。特に昨今、AIやXRなどの技術が急激に進歩しており、後者の取り組みの必要性が増していると思います。

SFプロトタイピングは、大きなテーマを扱うことが多いため、「SFプロトタイピングでチーム/組織にどのように、どのような変化を起こしたいのか?」という意義についても深掘りする必要があります。

この実施意義の深堀りが十分にできていないと、「SF小説ができて満足した」というような結果に終わってしまう可能性があります。

次に、成果物について考えます。

目的を達成するためには、どのような成果物が有用なのか?チームで未来シナリオを共有する際にはどのようなフォーマットが適しているのか?などについて定義します。SFプロトタイピングのアウトプットは、小説の一節のようなシナリオ、あるいはイメージビジュアルなど、多種多様な形式を取ります。

2. 妄想力と想像力を発揮するチームアップ

目的が定義できたら、SFプロトタイピングに取り組むチームも組成します。

SFプロトタイピングのチームアップでは、プロジェクトのメンバーだけでなく、外部メンバーも積極的に参加してもらいます。特徴的な点は、SF作家や先端技術の研究者などの参画です。特に、SF作家は、未来シナリオをつくる際に、独自の視点と物語の構成力を発揮してくれるため、SFプロトタイピングの重要な参加メンバーです。

また、企業内でも様々な部署の方に参加してもらいます。SFプロトタイピングは、妄想力・想像力があれば、誰でも参加することができるものです。必要なものは、専門知識ではなく、未来を思い描きたい気持ちだけです。

できれば、このとき、経営者やプロダクトオーナーなどの意思決定者を巻き込みましょう。現場メンバーの視点と異なる観点を取り入れ、かつ長期ビジョンの構築に加わってもらうことで、このあとのワークショップ後の取り組みも進めやすくなります。

このように議論の発想・クリエイティビティを高めるために、多彩な背景を持つ参加者でチームアップを行います。

3. 未来を創出するワークショップ

そうして設定した目的と組成したチームで、ワークショップに取り組みます。

SFプロトタイピングは、ワークショップを実施する必要があるわけではないですが、多くの場合、ワークショップ形式でオープンなディスカッションを促します。

このワークショップでは、テクノロジーが発達した未来の社会と生活を考えるため、「未来の言葉」や「未来のガジェット」からアイディエーションしながら進めていきます。このとき「現実的にありえない」「あってもしょうがない」と言った観点は、基本的に考えません。SFプロトタイピングで重要なのは、「今はありえないこと」を考えることだからです。

そうして未来のコンテクストを作った後、キャラクターを作り、キャラクターを動かすことでストーリーを作り出します。このキャラクターこそが、SFプロトタイピングで「未来を自分ごと化」するための媒体になります。キャラクターに参加者が自己投影を行いながら、社会の変化を見て、トラブルや課題に出会い、ソリューション・解決策を探っていきます。

SFプロトタイピングに初期から取り組んでいるIntel社のブライアン・ジョンソン氏が考案した取り組み方のプロセスは以下の図のように整理されます。この図では、テクノロジーの土台(Scientific Foundation)のもとに、物語を作り(Narrative Development)、最後に成果物を作る(Report Out)までのプロセスが紹介されています。

Radical Ocean Futures − scenario development using science fiction prototyping -  ResearchGate

SFプロトタイピングのワークショップでは、問題の定義よりも、未来の環境やコンテキスト、物語の構築に時間を使います。未来の選択肢を増やすためにオープンに議論するなかで、テクノロジーの価値や生活とのひも付きを発見したり、未来での人間の行動の可能性をさぐったりしていきます。ここがデザイン思考型のワークショップとの違いでもあります。

ワークショップの具体的な設計の仕方は、本記事の最後で紹介させていただいている参考図書をご確認ください。

4. 具体的な未来へと近づける検証とプロトタイピング

ここで終わると、SFプロトタイピングは絵に描いた餅になってしまいます。

さらにここからバックキャスティングなどの手法を通じて、今から描いた未来までのロードマップや戦略を考えていきます。

ワークショップで創り上げた未来のシナリオやビジョンから、今起こせるアクションにするために、逆算でロードマップを作っていきます。人や社会の変容・受容のステップや未来のテクノロジーの段階的な発展を時間軸でマッピングしていきます。

SF作家とともに描く未来のデザイン「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping」- Sony Design

ロードマップを作る中で、現実的なラインまで落とすことができたら、次は検証です。

この検証では、通常のPoC (Proof of Concept)と同様に、ストーリーボードなどを用いた価値検証や部分的に動くプロトタイプを作った検証などが考えられるでしょう。未来のデバイスや体験をテストする場合は、下の画像のような工作をして、ペーパープロトタイピングの派生のような検証をすることもあります。

Thinking differently for Mixed Reality - Microsoft

UXデザイナーのSFプロトタイピングへのスタンス

UXデザイナーの向き合い方

では、このSFプロトタイピングのワークにUXデザイナーはどのように価値発揮できるでしょうか?

前編でもご紹介した通り、UXデザイナーがSFプロトタイピングに関わる際は、以下の3つのスタンスが考えられます。
1. ユーザーが生活する未来の環境・社会を解像度高く思い描く
2. 未来の技術とサービスに触れるユーザーの行動をマッピングする
3. 思い描いた未来に到達するためのロードマップを作り、今できる検証を実行する

体験設計に携わるUXデザイナーは、リサーチや検証によってユーザーの解像度を高める専門家であると同時に、体験価値からユーザーの新しい活動・行為を創出する専門家とも言えます。

UXデザイナーは、SFプロトタイピングにおいて、ユーザーの代わりにキャラクターを用いて、描いた未来の中での価値を整理し、そこから未来のソリューションを検討することも、既存のスキルと経験を活用できるでしょう。また、キャラクターの周囲にある様々なタッチポイントを発見し、コンテキストや環境の解像度を高めることもできると思います。

これらのスタンスとデザインによって、UXデザイナーが関わり、SFプロトタイピングにさらなる「リアリティ」を加えていきます。普段、人に寄り添って体験を考えるUXデザイナーだからこその「人目線」の価値発見/価値創出が可能になり、未来のシナリオに人らしさを深ぼることができます。

また、普段活用しているUXデザインのツールを導入することで、チームでシナリオの土台を共有でき、ある種の客観性や納得感をシナリオに付与することが可能になります。

SFプロトタイピングのリデザイン

UXデザインのツールをSFプロトタイピングに組み込み、SFプロトタイピングをリデザインするとき、以下の3つのアプローチが考えられます。

1. 価値発見プロセスのデザイン
2. ユーザーとジャーニーのデザイン
3. 検証のデザイン

「価値発見プロセス」は、UXデザイナーが得意としている領域の一つなのではないでしょうか。

「ユーザーがどのようなコンテキストでどこに価値を感じているのか?」と同様のアプローチで、SFプロトタイピングで創出したキャラクターから価値を発見することもできます。その際、仮想インタビューワークのようなインタビューのアプローチや価値マップや構造化シナリオといったフレームワークを適応するなど、様々な既存のUXデザインのツールが役に立ちます。

次に「ユーザーとジャーニー」のデザイン。

SFプロトタイピングをワークショップ形式で実践する際、未来を描写するために、「シナリオ」や「物語」の形式でのアウトプットを目指します。

シナリオや物語を議論の対象とするためには、参加メンバーが共通で議論するための土台が必要です。また、設定した未来のガジェットや社会におけるタッチポイントの整理なども求められます。その時、UXデザインで用いられる、カスタマージャーニーマップなどのツールを用いて議論の土台を作ることができます(ただし、それらを作ることが目的とならないように注意です)。

最後に「検証」のデザイン。

SFプロトタイピングで制作したものは、基本的に未来を対象としているため、検証の難易度は高いと思います。ただ、そのなかでも、「構築した物語は人の心をゆさぶるか?」「物語の中に出てくるガジェットは本当に価値を感じてもらえるのか?」などの検証は実施したいものです。

前者であれば、UXデザイナーが普段の価値検証でやっているような「ストーリーボード」などを用いた検証が有効ですし、後者では、「オズの魔法使い」と呼ばれるユーザーテストなどが有効でしょう。それ以外にも多くの既存のテスト手法が、SFプロトタイピングでも運用できるはずです。

このような形で、UXデザイナーはその専門性を発揮しつつ、SFプロトタイピングの取り組みに貢献することができます。

UXデザインとSFプロトタイピングの交差点

「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」

ジュール・ヴェルヌ

「SFの父」としても知られているジュール・ヴェルヌは、このような言葉を残しています。逆説的には、何かを実現するためには、まずその未来の環境や生活を想像することが必要ということでもあります。

前後編、2本の記事に渡り、サービス・プロダクトの体験設計の専門家であるUXデザイナーがどのようにSFプロトタイピングに関わることができるか考察してきました。

AIやXR、ロボティクスなどの技術の発展に連れて、SFプロトタイピングの取り組みの機会が急激に増えています。ジュール・ヴェルヌの言葉のように、未来を実現するために、想像と妄想の力がより重要になっています。

この未来創出の取り組みを、より効果的に、よりリアリティを持って、より解像度を上げるために、UXデザイナーが一役を買えるのではないでしょうか。

最後に、SFプロトタイピングに興味を持ってもらった方向けに、参考図書を紹介させていただき締めさせていただきます!

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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